2015.12.14  「アラブ諸国は何をしているのか!」―アハメド・ラシッドの怒り
―シリア紛争解決への転機に⑦

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

パリとベイルートでの大規模テロ事件後、米国、ロシアに続いてフランス、英国もシリアの「イスラム国(IS)」の本拠地に対して爆撃を拡大している。ところが、有志国連合の一員として、小規模ながらISへの爆撃に加わったサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE),ヨルダンは、今ではISへの爆撃を止めてしまった。ISはそのテロ作戦をシリア、イラクからエジプト上空でのロシア旅客機爆破テロをはじめ、レバノンや他のアラブ諸国の首都さらにはアフガニスタン、バングラデシュにまで拡げているのに、アラブ諸国の最高政策決定機関であるアラブ連盟は緊急会合すら開いていない。「アラブ諸国はなにをしているのか!」と怒りを噴出させるのは、パキスタン人の世界的なジャーナリスト、アハメド・ラシッドだ。全く同感だ。ラシッドはフィナンシャル・タイムス、英BBC放送、NYブックレビューなどの常連寄稿者で、日本でも「タリバン」「聖戦」(講談社刊、坂井・伊藤訳)などの著者として知られ、両書でも偏狭過激なイスラム聖戦主義を厳しく批判している。フィナンシャル・タイムス12月3日掲載の「アラブ世界はシリアでのISとの戦いに復帰すべきだ」を、全文紹介しようー。

「パリとベイルートでのテロ攻撃の後、アラブ、より広くはムスリム世界の無反応ぶりは、恥ずべきであるとともに、不幸だ。イラクとシリアでISと戦う米国主導の有志国連合は、このイスラム過激派との軍事行動に参加しない言い訳を見出しはじめたアラブ諸国の脱走によって、彼らの一部の首都がISの目標になったにもかかわらず、動揺している。
 パリの事件の結果、西側はイラクとシリアに対する軍事、政治方針、アサド政権の取り扱い、難民問題の対策を再検討することになった。しかしアラブ世界では、政策の再検討や協議がほとんど行われていない。
 アラブ諸国に対して、国際的な圧力が強まっている。アラブ首長国連邦(UAE)の国営通信社WAMによると、アンワル・ガルガシュ外相はシリアで、「UAEはテロと戦うために、国際社会が要求するいかなる地上作戦にも参加する」と発言した。しかし、西側諸国がアラブ諸国を行動へと励まし、彼らの政府が中東危機により責任を担って行動するようにならなければ、ムスリム世界全域で情勢はますます危険になる。最近ではアフガニスタンとバングラデシュで起こったように、ISはすでに本拠地をはるか超えた場所で殺人を犯しつつある。
 パリの連続テロの後、アラブ、イスラム諸国の政策策定機関であるアラブ連盟も、イスラム協力機構も緊急会合を開かなかった。ISと戦い、打ち負かすための団結した呼びかけも出されず、個々の加盟国は行動しない言い訳をしている。
 UAEとサウジアラビアはだいぶ前から、イラクとシリアでのIS爆撃を止めた。イエメンでの紛争への対応で忙しいというが、イエメンの紛争は地域的脅威から局地的な紛争に縮小している(今年に入って初めて行われた有志国連合の爆撃に参加したUAEの戦闘機の女性飛行士の笑顔を覚えているだろうか。UAE空軍の爆撃参加はそれで終わった)。バーレーン政府は自国内の多数派人口シーア派との争いで超多忙だ。11月に湾岸で行われた会議に参加した多くの湾岸諸国の当局者たちは、わたしに、イランの脅威の方がISの脅威よりも、はるかに大きいといった。イランから見れば、すべての湾岸アラブ諸国には多少のシーア派人口がいるとはいえ、シーア派の脅威とは根拠のない思い込みに過ぎない。先月のパリ、ベイルート、チュニスでの自爆テロとエジプトでのロシア旅客機の爆弾テロは、(シーア派についての)この分析を何ら変更するものではなかった。
 それぞれの政府によると、中東でイランは確かに貪欲で、レバノンとイラクではシーア派の民兵と野党勢力を育成し、サウジアラビアとバーレーンでは王族の反対勢力に資金援助をしてきた。しかしイランがいま、ISがやろうとしているように、アラブ諸国の都市に爆弾を仕掛け、アラブの石油を握り、王族や支配者一家を殺害しようとしているわけではない。
 アラブ諸国の中には、イランと米国の核交渉の後、ワシントンが、アラブに代わってイランに湾岸地域の安全保障に主要な役割を担わせようとしているのではないか、という誤解による深い疑念がある。イランにそのような役割を果たす能力はないし、米国にとって、石油富豪であるアラブ湾岸同盟国が、イランのような分かりにくい国よりも、はるかに価値が高いにもかかわらずだ。
 富豪のアラブ諸国は、無数のシリア反政府グループのなかのどれに資金と武器の援助をすべきか一致できず、それが反政府グループ間の競争を生み出している。また、いまやトルコ、ヨルダン、レバノンそして欧州で深刻に広がっている難民対策で、国連と他の援助団体に十分な資金を提供していない。欧州諸国はどれだけの難民を引き受けるか協議しているのに、豊かな湾岸諸国は、シリアとイラクからの難民を受け入れ支援することそのものに、まだ合意していない。
 ISに対する戦いに、米国と欧州の支援が必要なことに疑問はないが、ISに対する思想的な戦いに勝つためには、アラブの顔を立てなければならない。悲惨だった米国のイラク占領の後、アラブの指導者たちは、中東で米国の存在が増大するほど、この地域での反米感情が高まり、ホワイトハウスと米議会の支持を得ることが困難になることを、十分認識している。
 11月末にウイーンで開かれた、米国主導の21か国協議では、5年にわたる内戦状態の中で初めて、シリアの政治体制とアサド大統領の地位についての共通政策で一致した。しかし、この共通政策は、アラブ諸国が決意と団結を示さない限り達成できない。スンニ派とシーア派は共に戦わなければならない。互いに戦うのではなく。
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