2008.05.14 ことば (18) come と go
come は「来る」だけじゃない!?

松野町夫(翻訳家)


英語と日本語を比較すると、名詞はともかく、動詞は、概念(コンセプト)がお互いに大きくかけ離れている。数少ない例外的な動詞として、comeと「来る」、go と「行く」がある。これらは日英お互いに、とてもよく似ている。ほとんど同じ概念と言っていいくらい。come = 「来る」、 go = 「行く」。たいていの人は、このように暗記している。私もそのように暗記した。確かに、この式が成立する場合は多い。実際にはしかし、英語の "come" は、日本語の「来る」より応用範囲が広く、「行く」の一部をも含んでいる。数式で表現すると、

come = 「来る」 + (「行く」の一部)。

つまり、come が「行く」になる場合もある。逆に言うと、「行く」を come と訳す場合があるということ。以下の例文で確認してみよう。

A: Come and see me soon. すぐに私に会いに来て。
B: OK. I'll come this afternoon. (not I'll go) わかった。今日の午後に行くよ。

A: I want to go to Kyoto this weekend. 今週末、京都に行こうと思っている。
B: Great! Can I come with you? (not can I go) いいね。ぼくも一緒に行ってもいいかい。

A: 明日、君の事務所に行ってもいいかい。 Can I come to your office tomorrow? (not go)
B: もちろんだよ。いつでもいいよ。 Of course, you can. Any time will do.

A: あなた、夕食、できたわよ。 Dinner's ready, darling.
B: OK、今、行くよ。 OK. I'm coming. (not I'm going)

英語の come と go には明確な区別がある。go は、「今いるところから離れる」という語感を持つ。恍惚のあの瞬間に恋人の発する「行く」も、英語では I'm coming であり、I'm going ではない。I'm going などと間違えて表現すると、英米人なら驚いて Where are you going? と訊きかえされる羽目になる。以前、社内の英語の講習でそのような話をしたところ、翌日、日本人は「天国(エクスタシー)に行く」というような意味で使っているのでは?と反問されたことがある。なるほど。 I’m going off into ecstasies. それなら、go を使えますね。

come が「行く」になるのは、どうしてかな。日英両方の辞典で、それぞれの意味を比較してみよう。
講談社日本語大辞典より
来る: 時間的・距離的に話し手のほうへ近づく。
行く: 今いるところから別の方向へ向かって進む。

LONGMAN Advanced American Dictionary:
come: to move to or toward a person who is speaking or to the place that they are talking about
go: to leave the place where the speaker is in order to move to somewhere else

「来る」、「行く」、"come"、"go" いずれもすべて、動くことに変わりはない。ただ視点 (viewpoint) が異なる。"go" は、「行く」とほぼ同じ意味。両方(go, 「行く」)とも、今いるところから離れて別の方向へ移動する。

「来る」と "come" は、どちらも話し手の方へ動く、ここまでは同じだ。しかし、"come" にはさらに、話題になっている場所に移動するときにも使用できる(or to the place that they are talking about)。たとえば、「君の事務所に行ってもいいかい」を "Can I come to your office?" と表現する。また、京都を話題にしているとき、「ぼくも一緒に行ってもいいかい」を "Can I come with you? " と、「行く」ではなく "come" を使用して表現する。

要するに、聞き手のところに行ったり、話題の場所に行ったする場合は、 "come" を使用して、聞き手の視点から物事を表現することが必要だ。You need to use "come" to express things from the listener's viewpoint. 「聞き手の視点から物事を表現する」、ここではこれを便宜上、 Listener's Viewpoint 表現法、略してLV表現法と呼ぶことにしよう。"come"は、聞き手の視点から使用する場合がある。Use "come" sometimes from the listener's viewpoint. たったこれだけの簡単な話。確かに、相手の視点に立てば、come でしか表現できず、go は使えない。おもしろいことに、鹿児島弁は、英語と同じように「来る」を使用する。鹿児島弁はもともと、LV表現法を持っていたのである。

A: 明日の同窓会には、きがないか(=来がなるか)。(明日の同窓会には来れるかい?)
B: うん、きがなっど(=来がなるぞ)。(うん、来れるよ → 行けるよ。)

A: こっちに、こんか(=こっちに来ないか)。(こちらに来なさい)
B: きてん、よかね(=来ていいの)。(来てもいいの → 行ってもいいの)

LV表現法は当然、come home(帰って来る), go home(帰って行く) にも適用できる。

会社で同僚間の会話:
A: 課長は? Where's manager?
B: 課長はもう帰宅したよ。 He has already gone home. (not come home)

外出先で友人との会話
今夜は、7時前に帰るよ。 I'm going home before 7 tonight.
昨夜は帰りが遅かったから。 Because I went home late last night.

外出先から妻に電話する。(妻の視点に立つ)
今夜は、7時前に帰るよ。 I'm coming home before 7 tonight.
昨夜は帰りが遅かったから。 Because I came home late last night.

同様に、この LV表現法は、bring や take にも適用できる。

bring: (持って来る、連れて来る) → come
I brought food for everyone. 皆に食べ物を持って来た。
Could you bring me a glass of water? 水1杯、持って来てください。
She brought her boyfriend to the party. 彼女はボーイフレンドをパーティーに連れて来た。
(話し手は、実際にパーティー会場にいたか、または心理的にパーティー会場にいた)

take: (持って行く、連れて行く) → go
Take an umbrella, just in case it rains. 雨が降るかもしれないので、傘を持って行きなさい。
I think her mother's already taken her home. お母さんが彼女をもう連れて帰ったと私は思う。
She took her boyfriend to the party. 彼女はボーイフレンドをパーティーに連れて行った。
(話し手は、少なくともその時点はパーティー会場にいなかった)

駅に着いたら雨が降っていた場合: (携帯での会話)
妻: 今、駅に着いたの。雨、すごいのね。 I've just arrived at the station. It's raining hard.
夫: わかった。傘、持って行ってあげるよ。 I know. I'll bring you an umbrella. (not take)
*話し相手に何かを持って行くときは、LV表現法を適用し、take ではなく bring を使用する。
I'll bring you something. (not take) となる。

まとめ:
聞き手のところに行ったり、話題の場所に行ったする場合は、 "come" を使用して、聞き手の視点から物事を表現することが必要。You need to use "come" and express things from the listener's viewpoint in a situation where you move to the listener or to the place that you both are talking about.
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