2016.01.05 国連安保理決議実行に期待する2016年
シリア紛争解決の転機に⑧

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 シリアでの悲惨な紛争の解決を考えるとき、まず、厳寒の中東の北部と欧州で生きるために苦闘している420万人を超える国外難民、660万人を超える国内避難民たちのことを考える。その人たちの毎日の生活が少しでも安全で、安心できること。一日も早く故郷に帰れるように、国内での戦闘を縮小し、停止し、安全に生活できるシリアを取り戻すために、国連主導で国際社会が全力を投入すること。それには、安保理も容認したシリアでのIS壊滅が突破口になる(本連載⑥参照)。目指す道筋は、政府軍と反政府反「イスラム国(IS)」勢力間の停戦―移行統治体制設立―総選挙―国民和解政権の発足だ。
 シリアでの2011年「アラブの春」の民主化運動開始、アサド独裁政権の暴虐な弾圧、政権と反政府勢力との内戦開始から6年目に入る2016年は、シリア紛争解決の転機になると期待する。

▽2015年最後の3か月、シリア紛争は大きく変化
 要点を振り返ってみる―1年前からIS爆撃を開始した米国主導の有志国連合に加え、15年9月30日、ロシアがシリアの「テロリスト」爆撃を開始した。ロシアの爆撃はISだけでなくISとも戦っている反アサド政権勢力下の地域に対しても行われ、一般住民にも犠牲が出たため、反アサド勢力と国際社会から強い非難を浴びた。信頼できる国際人権団体アムネスティの発表によると、ロシアは9月30日-11月29日までの25回のシリア爆撃で、少なくとも一般住民200人の生命を犠牲にした。
 10月30日:ウイーンでシリア情勢打開のための17か国外相会議が開かれた。アサド政権を支援するロシア、あくまで退陣を求める米、英、仏とアラブ諸国、ロシアとともにアサド政権を支えるイランも参加する初めての会議となり、アサド政権に対する立場を棚上げにして、ISに対する戦いでの協調を確認した。(本連載①参照)
 10月31日:エジプトのシナイ半島上空で、ロシアの旅客機が爆破墜落。乗客・乗員全員死亡。「ISシナイ半島」を名乗る地元組織が犯行声明。
 11月12日:レバノンの首都ベイルートのシーア派住民が多い地区で、大規模テロ事件が発生。ISが犯行声明。
 11月13日:パリで大規模連続テロ事件が発生。ISの支援による犯行と仏当局断定。
 11月20日:国連安保理が上記およびチュニジアとトルコで発生した「ISによるテロ行為」を「最も厳しい言葉で非難し」「ISによるテロ行為を阻止し」「ISがイラクとシリアの重要な部分で築いている支配地域を撲滅するために」「加盟国に対し、国際法とく に国連憲章と国際人権、難民、人道法を順守して、すべての必要で可能な行動をするよう呼び掛ける」と全会一致で決議した。(本連載⑥参照)
  11月23日:フランスが本格的なIS爆撃を開始。
  12月15日:サウジアラビアがイスラム教徒が多数の34か国による反テロリズムの軍事同盟を結成し、本部を同国の首都リヤドに置くことになったと発表。ただしシーア派多数のイラン、イラクは不参加。
  12月18日:国連安保理はシリア紛争の和平プランを初めて全会一致で決議した。これまで米・英・仏とロシア・中国が対立し、具体的な国連和平プランがまとまらない原因だったアサド大統領の取り扱い(米・英・仏は和平プロセスからアサド除外を条件とし、ロシア、中国は条件としないと主張)の棚上げに事実上合意したことで、決議が成立した。このことは、米国主導の有志国連合が支援する反政府勢力はアサド政権を打倒できないこと、IS壊滅が最優先課題であり、そのためには政府軍と反政府勢力の停戦が必要なこと、ロシアの参加によってIS壊滅が現実的な見通しになったこと―などを双方が認識したことを示している。

  ▽安保理の権威が懸かる全会一致の和平プラン
    安保理が決議したシリア和平プランのポイントはつぎの通りー
  ▽1月前半に、政権と反政権勢力間の停戦と政権移行プロセスについての公式な協議を開始
    するよう、求める。ただしイスラム国およびナスラ戦線(アルカイダ系反政府反IS武装組織)
    などテロ・グループとの停戦は含まない
   ▽これらのテロ・グループに対する軍事行動(有志国連合とロシアによる爆撃を意味する)は
    継続する
   ▽潘国連事務総長は2016年1月18日までに、停戦監視のやり方について報告する
   ▽信頼でき、包括的で非宗派的な統治体制を6か月以内に設立
   ▽国連監視の下、自由で公正な選挙を18カ月以内に実施
   ▽政権移行をシリア人主導で行う
 
  前記の通り、国連安保理は11月20日に、ベイルートやパリの大規模テロ事件を重大視して、すべての加盟国に「すべての、可能な行動をするよう」呼び掛ける決議を全会一致で採択しているが、こちらも全会一致で採択した。その成立は、シリア紛争による悲惨な犠牲者が巨大な数に上り、衝撃的なテロ事件が続発したことで、一致した国際的行動を常任理事国が妨げることが許されなくなったからだ。
  この決議では、和平プランの日程が明確に示されている。その日程の成否には、国連安全保障理議会の権威がかかっている。米国、ロシアはじめ常任理事国間の調整が綿密に行われたことは間違いないが、本当に実現できるのだろうか、実現できれば、「シリア紛争解決への転機」になるだけでなく、シリア難民への大きなプレゼントになる。前途は多難だが。
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