2016.01.06 武力の効用―中国に憑りついているものは? 5
(新・管見中国5)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 中国の軍が動いている。中国軍ではない。中国軍としての統一のとれた動きではなくて、内部が動いているのだ。中には危険な思想も垣間見える、というのが今回のテーマである。

 この年末年始、中国の軍部はせっせと存在感を高めた。まず12月31日、かねて注目されていた軍組織の大規模改革の内容が発表され、新設、衣替え合わせて3つの組織に習近平中央軍事委主席が軍旗を授与する儀式がテレビで大々的に報道された。また同日、国防部は中国が2隻目の空母(50000トン級)を大連で建造中であることを初めて公に認めた。そして年明けの2日、南シナ海の南沙諸島のうちの永暑島(ファイアリクロス礁)では既に(昨年9月との説あり)滑走路が竣工していたが、そこへ民間機を使って初の試験飛行が行われた。同島の領有権を主張するベトナム政府は即日、中国に「主権侵害である」と抗議を行った。
 このうち軍の組織改革については本題として後に回し、空母建造と試験飛行の意味をまず考えてみる。
中国海軍が現在、実戦配備している中国初の空母「遼寧」は昔、ウクライナが廃船にした旧名「ワリヤーグ」を買い取って改装、現役復帰させたものだから、国産艦ではない。したがって建造中の1隻が、中国が自力で持つ最初の空母ということになる。つまり中国は自前で空母を建造できる数少ない「空母クラブ」の仲間入りをするわけで、歴史的に影の薄かった中国海軍にとっては海軍大国・中國を象徴するものとなる。
軍スポークスマンによれば、その空母は排水量50000トン、殲-15その他の艦載機を搭載し、動力は原子力ではない通常型ということである。中國はかねて「独立自主の平和外交、防御的国防政策」を掲げているが、それと空母保有との関係について同スポークスマンは「中国は長い海岸線と広い管轄水域を擁しており、領海の主権と海上の権益を守るのは軍の神聖な職責である」とのべるにとどまった。
 次に永暑島の飛行場である。これは3000メートル級の滑走路を持つと言われ、中国本土から遠く離れたこの滑走路が実用化されれば、行動半径2000キロ程度と言われる現在の中国空軍の主力戦闘機スホイ30や轟6爆撃機の行動範囲がぐっと広がることになる。同時に昨秋、米のミサイル駆逐艦「ラッセン」とB52爆撃機 が中國による埋め立て人工島の「領海」「領空」に接近して、中国の主権を否認することを行動で示したことへのしっぺ返しの意味を持つ。
 ただベトナムの抗議を受けた後の記者会見で中国外交部の華春瑩報道官は「中国政府は民間機を徴用して試験飛行を行った。同飛行場の施設が民用航空の基準に適合しているかどうかを測定するためである。活動は完全に中国の主権の範囲内のことである」と述べて、中国の主権内との立場は譲らなかったが、主体は「中国政府」で「民用航空」の基準に適合しているかどうかを測るためであったと、軍との関わりを極力否定した。
 この2つの出来事を頭に置いた上で、12月31日に発表された軍改革の内容を見ることにしよう。この改革は中国軍の時代に合わなくなった部分をより現代的なものにするという大義名分のもとに行われた。
 従来の軍の組織は陸、海、空の3軍に第二砲兵(ミサイル部隊)を加えた4軍構成であったが、今回の改革でまず第二砲兵軍は「火箭軍」(ロケット軍)と改名して、これまでのいかにも伝統的な砲兵部隊から生まれた組織といった名称から最新鋭軍にふさわしい名称となった。確かに短距離から中距離、長距離まで砲種を揃えた「東風」系列の弾道ミサイル群は今や中国の戦略の要であり、陸・海・空3軍と肩を並べる以上の存在になったことをこの名称変更は示している。
次に新設は「陸軍領導機構」と「戦略支援部隊」の2つ。陸軍領導機構というのは要するに陸軍司令部である。奇妙なことにこれまで海軍司令部、空軍司令部はあったが、陸軍司令部は存在しなかった。なぜなら中国軍は伝統的に陸軍が圧倒的比重を占めてきたため、総参謀部が陸軍司令部でもあった。西側流でいえば統合参謀本部がすなわち陸軍司令部であり、海軍と空軍の司令部はそれに従属する形であった。今回、陸軍領導機構という名の陸軍司令部を新設することで、陸軍は海・空軍と同格にいわば格下げとなった。
「戦略支援部隊」の内容は具体的には明かにされていないが、習近平は「国家の安全を守る新しいタイプの作戦組織」と説明しており、サイバー部隊や衛星、無人機など最新の戦闘技術の開発、実用化などにあたる組織と考えられる。
ここまでが軍中央の組織改革であり、時代の要求に応える組織変革と見えるが、じつはここまでは序の口で改革はこれでは終わらないというのが一般的な見方である。
習近平政権は2012年秋の成立以来、反腐敗に力を注いできたが、その過程で徐才厚、郭伯雄という胡錦濤時代の軍のトップ(中央軍事委副主席)2人がともに旧悪を暴かれて失脚した。この2人の罪状の主要なものに「売官」があった。部下から多額の賄賂を取って、見返りに軍内の重要ポストにつけたのである。そして売ったほうは粛正されたが、「買った」ほうはまだ大勢残っているはずである。身に覚えのある者ない者、それぞれが落ち着かない状態で、軍中央の出方を固唾を呑んで見守っている。それを罪状に応じて清算するのが、今回の改革にともなう人事の大きな狙いでもある。
中国軍の組織では中央組織とは別に各地に7つの軍区が設けられている。北から南に瀋陽、北京、済南、南京、広州の5軍区、それに西部の蘭州、成都の2軍区である。まだ公式発表はないがこの7軍区制を東・西・南・北・中部の5軍区に再編成し、7軍区に隷属している1から65までのうちのランダムな数字がつけられた18の集団軍を13に減らすという改革案が進んでいると言われている。
これが実施されると、軍幹部の大幅異動は不可避であるし、集団軍の縮小では機械的には約10万人の兵員の削減が見込まれる。この人事の大嵐の中でうまく反腐敗運動の後始末をつけられるかどうかが、習近平の軍掌握の度合いを測る試金石である。中央組織の改革から時間をおかずにそれが出来るか、それとも意外に長引いて軍内が混乱するか、これからの見どころである。
以上が軍改革の現状であるが、これをめぐるさまざまな発言の中に外国人としてはいささか気になる言葉が散見されるので、それに注目しておきたい。
12月31日の3組織発足式における習近平の指示に次の一節がある―
「わが国の国際的地位にふさわしい、国家の安全と発展の利益にふさわしい、強固な国防と強大な軍隊を建設することは、『2つの百年』の奮闘目標を実現するための、中華民族の偉大な復興という『中国の夢』を実現するための、堅強な力の保証を提供する」
ここで言う「2つの百年」とは中国共産党100周年の2021年までに「小康社会」を実現し、中華人民共和国100周年の2049年までに「社会主義現代化国家」を建設するという習近平の号令であるが、軍隊がその実現のための力になるというのはどういう意味だろうか。集会での指示であるから、たんなる言葉のあやとも受け取れるが、全体の調子は現代化建設を他国の侵略から守るという受け身の軍隊ではなく、強大な軍の存在それ自体が建設を助けると言っているようでもある。
そんな疑問を抱えていたところで1月2日の「環球時報」の社評(社説)が目にとまった。この新聞はご存じの方も多いだろうが、「人民日報」傘下の国際問題専門紙とされているが、中国のタカ派の本音を載せることで知られている。社評のタイトルは「解放軍の改革を支持し、中国の不怒自威を期待する」。『不怒自威』とは「怒るまでもなしに相手を恐れさせる」という意味である。
その一節―
「発展の道が西側と異なるために、中国の発展は主として西側から特殊な圧力を受けている。強大な軍事力こそは中国の道の合法性の源の1つである。中國台頭の道において西側との摩擦は一般的な地政学的政治を越えており、この争いは長期的なものである」
「中国の軍事力が強大になれば、われわれの号令する力、影響力、威嚇力、説得力ないし吸引力は増強される。他国はよりわれわれを信ずるようになり、安全は米国に頼り、経済は中国に頼って、中米間でバランスをとろうとするある国々の奇怪なやり方はもはや不可能になるだろう」
この社評は明らかに軍備にたんに国の安全を守る以上の役割を期待している。「威嚇力」(中国語では「威懾力」)とは軍事の世界では通常は抑止力の意味で使われるが、ここではより広く中国の国益に相手を従わせる力である。具体的には現在、韓国やアセアンの一部の国がとっている「安全は米国に頼り、経済は中国に頼る」という二股政策は許さないというのである。この中にはあるいは日本も含まれているかもしれない。
一新聞の論評とはいえ、この主旨とその前の習近平の指示とは矛盾していない。習近平の指示をこう読んだとしても深読みとは言えない。空母の建造も南沙の滑走路もそのための布石とすれば話は全部つながる。これからはこの文脈で中国の軍事力を見なければならない。(160104)

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