2016.03.12  子育て世代の怒り「保育所落ちた日本死ね!」(匿名ブログ)が安倍政権を直撃している、女性の怒りが日本の世論を動かし始めた
  ~関西から(181)~    

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

いま話題の「保育所落ちた、日本死ね!」のブログを原文で初めて読んだ。2月29日の衆院予算委員会国会中継で、このブログをめぐる安倍首相と民主党の山尾志桜里議員との激しい論戦を見たのがきっかけだ。原文を知りたくてインターネットで検索したら、ネット上ではもう炎上に近い状態になっていた。新聞各紙の関連記事も増えていて、この「怒りのブログ」が投じた波紋がとてつもない大きなエネルギーを持って広がっていることがわかる。3月7日の参院予算委員会でも、この匿名ブログをめぐって社民党の福島瑞穂議員が安倍首相と激論を交わした。福島氏はブログについて「この声をどう聞くか」と問いかけ、「もうすぐ4月だが、保育園に子供を預けて4月から仕事を再開したい女性が仕事に戻れない。これは本当に悲痛な叫びだ。政策の失敗だ」と首相に迫った。

注目されるのは、衆院と参院での安倍首相の答弁の変化だ。2月29日の衆院予算委員会では、ブログが匿名だったため、首相は「本当に起こっているのか確認しようがない」などと突き放し、まともに議論に取り合わなかった。与党席からは「やめろ、やめろ!」「誰が言ったの!」「本人出てこいよ!」「出典は?出典!出典はないんだろ?」といった攻撃的なヤジが飛んだ。この光景は、政府・自民党が「一億総活躍社会」などと言いながら、実際は保育所問題に真剣に取り組んでいない様子をあからさまに映し出した。

ほどなくしてツイッター上には「#保育園落ちたの私だ」というハッシュタグができ、自らの体験をツイートする人が続出する。3月5日には、それが国会前でプラカードを掲げる抗議行動にまで発展した。こうした反響の大きさを無視できなくなった政府は、3月7日の参院予算委員会では、社民党の福島瑞穂氏が「政策の失敗だ」と追及したのに対し、首相は保育の受け皿を2017年度末までに50万人に増やす政府の方針を説明し、「失敗には当たらない。一生懸命頑張っている」と反論した。また、待機児童を減らすため「政権交代前の倍のスピードで受け皿作りを進めている。保育士の待遇改善にも取り組みたい」と理解を求めた。菅官房長官も7日の記者会見で、「子供を保育所に預けられない、仕事を今まで通り続けられないといった悲しみや切実さをなくしていくことが極めて大事だ」と述べた(毎日新聞3月8日)。もはや「匿名ブログ」だから取り合わない、議論しないといった不遜な態度が許されなくなったのである。

発端となった匿名ブログ(2016年2月15日)を改めて読んでみよう。激しい怒りに包まれたこのブログは、私などの世代には絶対に書けないストレートな文章だ。だが、そこに流れているやり場のない怒りや必死の思いには強い共感を覚える。高齢者の私でさえそう思うのだから、子育て中の現役世代の怒りの感情はもっと激しいのだろう。 
「保育園落ちた日本死ね!!! 何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ? 何が少子化だよクソ。子供産んだはいいけど希望通りに保育園に預けるのほぼ無理だからって言ってて子供産むやつなんかいねーよ。不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。エンブレムとかどうでもいいから保育園作れよ。有名なデザイナーに払う金あるなら保育園作れよ。どうすんだよ会社やめなくちゃならねーだろ。ふざけんな。日本保育園増やせないなら児童手当20万にしろよ。保育園も増やせないし児童手当も数千円しか払えないけど少子化なんとかしたいんだよねーってそんなムシのいい話あるかよボケ。国が子供産ませないでどうすんだよ。金があれば子供産むってやつがゴマンといるんだから取り敢えず金出すか子供にかかる費用全てを無償にしろよ。不倫したり賄賂受け取ったりウチワ作ってるやつ見繕って国会議員を半分位クビにすりゃ財源作れるだろ。まじいい加減にしろ日本」

 私の地元の衆院京都3区での宮崎健介自民党議員の不倫辞職問題の時でも感じたことだが、自民党の驕りと劣化は想像以上に進行しており、国民とりわけ女性の怒りはもはや臨界点に達しているのではないかと思う。上記のブログの中でも「不倫」が厳しく批判されているが、自元選挙民が「下司野郎」としか言わない宮崎氏を、公募選考した張本人の伊吹衆院議員(元衆院議長)はいまだ彼のことを「同志」と呼んでいるのだから呆れて言葉が出ない。また次期参院選(衆参ダブル選)への波及をおそれた谷垣自民党幹事長が京都3区補欠選挙への自民党立候補を止めると言っているのに、地元の自民党京都府連はいまだ候補者擁立を断念していない。要するに自民党は何も反省していないのであり、何をやっても国民は黙って自民党についてくると思っているのだろう。

だが、安倍政権を取り巻く世論状況はそれほど甘くない。彼らは内閣支持率が(何をやっても)低下しない状況に胡坐(あぐら)をかいているのだろうが、事態は着実に変化しつつある。その変化はどこにあらわれているのだろうか。私は、ひとつには今回のブログのように国民が直接怒りの声を上げ、公然と街頭行動を始めたことに確かな変化の兆候を見る。安保法反対の時もそうだったが、街頭行動で民意をあらわす行動様式がその後国民各層に浸透し、それが天下国家の一大事だけではなく、日常生活の切実な要求の分野にまでダイナミックに広がってきたのである。そしてこのような声に耳を傾けない政権に対しては「死ね!」との激しい言葉を投げつけるほど国民の政治意識が明確になり、政治行動の「見える化」が進んできたのである。

もうひとつは、マスメディアの世論調査に表れ始めた「静かな変化」だ。日本経済新聞の世論調査(2月26~28日実施)では、アベノミクスを「評価しない」が50%に達し、「評価する」の31%を大きく上回った。「評価しない」が50%に届くのは初めてで「評価する」31%も最低だった。内閣支持率は47%で1月の前回調査から横ばい、不支持率は5ポイント上昇し39%だった。日経紙は、この結果を次のように分析している。
―現在の安倍政権は「大胆な金融緩和」「機動的な財政出動」「規制緩和などの成長戦略」で脱デフレを目指してきたが、実現に至っていない。政権発足以降の金融緩和による円安で、大企業を中心に企業業績は過去最高の水準にあるが、地方の中小・零細企業には恩恵が行き届いていない。会社員らが受け取る賃金も物価変動の影響を除いた実質で15年まで4年連続のマイナス。景気回復を実感できない人の中には不満もたまっている。年明けから続く株価の乱高下や中国経済の失速、原油安による世界経済への懸念もアベノミクスの評価に影を落とす。16日に日銀の「マイナス金利政策」が始まったが、円高・株安が続いていたさなかで、効果がまだ見えていない(日経新聞2016年2月29日)。

 また読売新聞の世論調査(3月4~6日実施)では、安倍内閣の支持率は49%で前回調査(2月12~14日)の52%をやや下回り、2か月連続で低下した。不支持率は40%(前回36%)に上昇した。この結果を読売紙も同様に、支持率低下は経済政策への不満などを反映したとみられると分析している。
―安倍内閣の経済政策を「評価しない」は47%で前回より3ポイント上昇し、この質問を始めた2013年6月以降で、昨年12月17~18日調査と並んで最も高かった。「評価する」は39%で、最低だった前回と並んだ。景気の回復を「実感していない」とした人は78%に上った(読売新聞2016年3月7日)。

だが、私が最も注目したのは毎日新聞の世論調査(3月5~6日実施)だ。安倍内閣の支持率は1月前回調査から9ポイント減の42%、不支持率は8ポイント増の38%だった。日経、読売に比べて支持率の低下は大きいが、私がそれ以上に注目したのは、同紙の「男女別に見た最近の内閣支持率」に関する分析である。
―内閣支持率は前回調査で51%に上昇していたが、今回は昨年12月調査の水準に戻った。男性は昨年10月調査から支持が不支持を上回る傾向が続いているのに対し、女性の支持率は前回の48%から37%に11%低下。不支持が30%から38%に8ポイント上昇した。自民党では2月、育休取得を宣言した宮崎健介氏が自身の女性問題で衆院議員を辞職した。また、保育園の待機児童問題への不満をつづったブログに注目が集まり、先月29日の衆院予算委員会でも取り上げられた。女性の内閣支持率低下にはこうした出来事も影響した可能性がある(毎日新聞2016年3月7日)。

問題を感じているのは女性だけではない。アメリカ大統領選において民主党サンダース上院議員がクリントン氏に対して(信じられないような)健闘ぶりを示しているのは、格差問題への若者の怒りを背景にしているからであり、とりわけ公立大学の授業料無料化に関する公約が大きな支持を得ているからだと聞いている。日本でも私学や国公立大学を問わず授業料の高騰はもはや家計負担の限界を超えており、若者の学ぶ権利が著しく侵されている。この現状を見れば、いつ若者や学生の不満が街頭に表れてもおかしくない。「大学いけない日本死ね!」とブログが日本中に駆け巡り、「大学いけないの私だ」のプラカードが国会前に溢れるのは時間の問題だというべきだろう。

来る参院選(あるいは衆参ダブル選)での野党選挙協力(野党共闘)に関しては、マスメディアは全体として肯定的な評価を下していない。また野党共闘が実現したとしても、その効果は一部にとどまるとの観測が多い。たしかに表向きはそうも見えるが、上記のような国民の政治行動の「見える化」が進行し、それがネット空間やマスメディアで拡散するようになると情勢が一変することも考えられる。野党共闘に「ママの会」や「SEALDs」が加わるとき、ネット空間や路上に表れた新しい政治行動の胎動と水面下で進んでいる国民世論の静かな変化が必ずコラボする。私はその時を待っている。
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