2016.04.25 スンニ派女性も抑圧、脱出した女性たちの証言
―国際人権組織HRWが最新報告(3)

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

「イスラム国(IS)」は、占領・支配したイラクの少数宗派ヤジディ教徒の女性たちを奴隷化し残虐に虐待している一方で、占領支配したイラク第二の都市、北部のモスルをはじめ支配下のイラクとシリアのスンニ派のアラブ女性たちに、IS流の戒律を強制し、違反した女性たちに処罰を加えている。2014年6月にISが占領したモスル(IS支配前の人口200万人前後)や近くのハウィジャ(人口45万人前後)などから、真っ先に少数民族やアラブ人シーア派の住民が脱出。間もなくISは市内にIS流の戒律を強制した。物価が高騰、市内の医院が減り、すべての学校で粗雑なIS流の教育をさせるようになったため、住民の大部分を占めていたスンニ派の住民まで、一家で女性と子供を連れて脱出し始めた。14年後半だけで50万人程度が脱出したとイラク当局は推定している。ISはこの流れを阻止するため、市外に通じる道路の検問を強化し、その道路以外には地雷を敷設したが、その地雷原を縫ってスンニ派住民の流出が続いている。しかし、最近脱出してきた女性たちは、2年近くになるIS支配下での生活で、疲れ果て、さまざまな精神・神経障害に陥っている人が多く、彼女らの治療・リハビリが支援に当たるHRWはじめ国際人権組織(もちろんイラク政府当局とクルド人自治区当局にとっても)の重い課題になっている。

HRWは今年1,2月、モスルとハウィジャから脱出してきた女性たち21人とインタビュー(面接調査)し、以下のように報告しているー
▽女性の衣服・行動の制限
インタビューした21人のすべてのスンニ派アラブ女性・少女が、外出時には身体、顔、頭をすっぽり隠すニカブ、両目のベール、手袋、ソックスを身に着けることを強制された。すべて真っ黒で、飾りがあってはならない。目が覆われているので、何処に居るのか分からず、ときには転び、道路から落ちた。ISの占領前は、頭にスカーフを付けていたが、顔を出し、着るものには色彩があった。
このISの掟に従わないと、ISに打たれることが恐ろしかった。それだけでなく、彼女たちの男性の親族が、着衣の掟違反として、むち打ち30回か、罰金5万~10万ディナール(45~90ドル)を科せられた。リヤド町の住民だった44歳の女性は「私の隣人たちは、自宅の外でニカブなしの姿で街灯を修理していたら、罰金を払わせられた」と証言した。
ハウィジャなどでは、宗教警察の金棒付きの制服を着た外国人の女性IS戦士がヒスバ(道徳強制行動)に加わり、着衣の掟違反の女性を突き刺し、叩いた。他の女性の証言によると、女性IS戦士たちは、隣人の女性たちが顔を覆わないまま自宅の前で座っていると、下水の水を汲んでぶっかけた。男性の親族の同伴なしに、女性たちが自宅外で行動することは、近所の親類を訪ねることさえ許されない。
このような制限は、女性たちが自分のコミュニティに参加する機会をひどく減少させる。ISが支配するまで、多くの女性たちは、毎日自宅から外出し、家族や店を訪ねていたが、ISのもとでは1か月に一度かそれ以下になった。HRWはIS支配下のモスル、中部のラマディから逃げ出した女性それぞれ2人にインタビューしたが、4人とも、同様な厳しい着衣の掟を強制され、違反すると厳罰を加えられたと語った。モスルから逃げ出した女性たちは、ヒスバ(道徳強制行動)を行うIS戦士が、金属器具で女性の手の指を切る、と証言した。
▽医者への厳しい制限
IS支配下のハウィジャからは、多くの医師、医療関係者が脱出したので、市民たちが頼る医療施設がひどく減った。残った男性医師たちは、ISによる厳罰を恐れ、女性患者を診察しなくなった、と女性たちは証言した。
ハウィジャ病院を含むいくつかの病院では、ISのメンバーだという外国人の男性医師が、女性患者とくに緊急患者に触ることができた。しかし、様々な制限が女性や少女への治療を低下させた、とインタビューした女性たちは語った。少数の女性医師だけでは、とうてい女性や少女の患者全部には対応できず、3日待ってやっと女性医師の診察を受けられる状況だった。
一人の女性は、薬局の薬剤師が血圧を測るため彼女の腕に触ると、薬剤師はISメンバーに殴られると語った。二人の女性は、彼女らや親せきの女性が妊娠した時には、規制が厳しい医者ではなく、地元の助産婦のところに行ったが、そのために難産になったと語った。
ISが各所に設けたチェックポイントでの様々な嫌がらせが、女性たちが医療を受けることを妨げている、ISは女性戦士によるヒスバで、診療所と病院の中でも女性たちの着衣を検査している。シルカットから逃げてきた50歳代の女性は「ハウィジャ病院の中で、赤ちゃんに授乳していた親せきの女性を、ISの女性ヒスバがひっぱたいた」「病院に行くのを、女性たちは怖がっている」と証言した。他の女性は、他の病院の中で、目を覆っていなかったとして、ヒスバに腕を痛くつかまれた、と語った。
▽学校は洗脳の場に
多くの家族は、子供たちが学校に行くのを止めさせた。資格のある教員のたちの一部がISの攻撃を恐れ、一部はISが授業科目をコーラン、戦闘技術、IED(仕掛け爆弾)の製造方法などに変更したため、逃げてしまったからだ、と母親たちと子供たちが証言した。
ハウィジャから逃げてきた16歳の少女は、教育が「洗脳」の場になったと語った。インタビューした女性たちは、教師の不足と両親が爆撃を恐れるために学校が閉鎖された、と語った。ISの性的な規制は、特に女生徒たちへの障害になった。三つの村では、ISが女生徒を学校から追い出し、男生徒には通学を許した。アスタナ村ではISが女生徒にも通学を許したが、12歳以上の女性には全身を覆うニカブを強制した。マフリア村では、男性生徒にだけ中学に通うため村外に出ることを許した。
一部の学校と幼稚園では、ISが基地にしているため、爆撃を恐れて一部の家族は子供たちの通学を止めさせた。
国連安全保障理事会は、すべての紛争参加者に、子供たちの教育を妨げる行動を行わないよう、呼びかけている。(続く)

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