2016.05.17  EUの新たな難民・移民政策(上)
    難民対応システムの統一を

盛田常夫 (在ブダペスト、経済学者)


問題の所在
 2015年に爆発的に増加した欧州への難民・移民の流入は、EUの自由通行を定めたシェンゲン条約(国境管理)や難民の取り扱いを定めたダブリン協定を骨抜きにしてしまった。大量の難民・移民が流入する当事国はそれぞれ独自の国境管理・閉鎖を余儀なくされ、シェンゲン条約に定められた国境管理を実行できず、圏内の移動の自由を制限せざるをえない事態に追い込まれた。また、あまりの大量の難民・移民の流入に、ダブリン協定で定められたEU国内での難民申請・認定手続き(最初に到着したEU国での申請・認定)を厳格に行うことができず、氏名や身分不詳の大量の難民・移民を指紋採取なしでEU圏内に入国させる事態を招いた。
 EUは昨年来から、国境における難民・移民の流入管理と域内に滞留する難民・移民の管理について、統一的な政策を打ち出し、ダブリン条約を修正して、明瞭な難民対応メカニズムを構築する必要に迫られてきた。
2016年3月のEUとトルコの合意にもとづき、トルコ側が密輸業者取り締まり、不法出国の削減を約束した結果、トルコから欧州に流入する難民・移民の数は大幅に減少した。これに対応しEUは実現可能な新たな難民・移民の統一的メカニズムを構築すべく、欧州委員会は4月6日に改革指針を定め、5月4日にその具体案を提案した。
 
改革指針
 4月の指針は、以下の5つの提案を行っている。
 (1) ダブリン協定を見直し、公平で持続可能なEUの統一的な難民対応システムを構築すること。
 (2) 難民と不法入国者の指紋データを管理するEurodacシステムを強化すること。とくに、不法な入国者をチェックするために、このシステムが活用できるようにすること。
 (3) EU加盟国内の難民取り扱いの手続きを統一化し、国ごとの恣意的な取り扱いを排除すること。
 (4) EU域内での二次的な移動(難民・移民認定者が認定国から別の国へ勝手に移動すること)を阻止すること。
 (5) 現存のEASO(European Asylum Support Office)を改組して、EUの難民政策に全面的に責任を負う組織に格上げすること。
 上記の改革指針のうち、加盟国の利害がぶつかり合うのが、第1の指針である。とくにハンガリーは難民・移民を問わず、難民の強制割当に強硬に反対している唯一の国である。加盟国の負担の公平性の担保という政策にもとづいて、自動的に難民を割り当てられることに強く反対している。
 しかし、欧州委員会が制度を見直し、加盟国が協調して難民問題を解決しようとする段階において、ハンガリーのみが「いかなる割当制度にも反対」を貫き通すのは簡単ではない。

恒久的な難民受入れスキーム
 現行のダブリン協定にもとづく難民の取り扱いは、最初に難民が入国したEU加盟国に大きな負担を強いる。したがって、特定国(イタリアやギリシア)に集中している難民処理の責任をEU加盟国全体で分け合うことが、EUの難民受け入れの新しいメカニズムの原則として提案された。つまり、難民申請、必要な保護、難民のEU域内の二次的移動抑制において、加盟各国が連携して協力し合うことが提案された。その主要点は以下の通りである。
 (1) 公平性を担保するために、加盟各国が難民対応する人数の指標(reference)を決め、その指標の1.5倍を超える人数の対応が必要になった場合、それ以後に受け入れる難民は自動的に他の加盟国に振り分け、当該国の対応人数が既定の指標以下になるまで、この振り分けを続ける。加盟国はそれぞれの指標に余裕がある限り、振り分けられた難民を受け入れる義務がある。
 ただし、加盟国は、当面、この振り分けメカニズムに参加しないオプションを行使することができるが、その場合、受け入れを拒否する難民申請1名につき、25万ユーロを支払い、加盟国の連帯と公平性を担保する。
 (2) EU圏外の第三国から直接、難民を移住させることも、この新たなメカニズムの要素とする。これは安全で合法的な難民保護という視点から実行する。
 (3) 加盟国間の難民申請者の移送について、責任の押し付け合いを回避し、短時間で実行できるようにする。
 (4) 法的義務として、難民申請者が申請当該国から勝手に移動してはならないことを明確にし、恣意的な移動を抑制する。
 (5) 保護者なしで到着した子供の優先的保護と、その家族の範囲を適切に規定する。
 英国とアイルランドは、このスキームへの参加を強制されない(したがって、難民受入れ指標はなく、連帯金の支払いもない)。

難民受入れの配分指標 
 EU加盟各国の難民受入れ配分指標(reference share)は二つの要因によって決められる。一つはこのスキームに参加するEU25ヵ国の人口に占める当該国の人口比で、もう一つは同じくEU25ヵ国全体のGDPに占める当該国のGDP比率で決められる。それぞれを50%で加重平均したものが、当該国の受入れ指標(割当比率)となる。
 たとえば、ハンガリーの人口比が2%で、GDP比が1.5%だとすると、
     難民受入れ指標=0.5 x 2% + 0.5 x 1.5%=1.75%
と計算される。
 机上の計算では、たとえばEUが10万人の難民を加盟国に割り当てる必要がでた場合、ハンガリーの受入れ指標は1750名となり、その1.5倍の2625名になるまで自動的に受け入れなければならず、この数字を超えた人数は他国に振り分けることができる。また、受入れを拒否した場合、受け入れるべき人数に25万ユーロをかけた数字が、ハンガリーが負担すべき連帯金となる。

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