2016.05.26
40人の中東研究者たちが「安保法制」を厳しく批判・分析・提言する本を共同執筆・出版
坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)
40人の中東研究者たちが、その立場から安倍政権が強行採決した「安保法制」を厳しく批判・分析し、提言する本『中東と日本の針路―「安保法制」がもたらすもの』(長沢栄治、栗田禎子編、大月書店、280ページ)を共同執筆し、出版した。
第1部:岐路に立つ日本と世界
第2部:中東と世界で起きていること
第3部:日本の軍事大国化と中東
第4部:いま私たちがやるべきことー平和憲法と日本の外交力
メッセージ編:私たちはなぜ「安保法制」に反対するのか

中東研究者たち105人は昨年8月8日、参議院議員会館で、審議中の「安保法案」に反対する中東研究者のアピールを発表している。自民党政権が米国の強い要請に従い、巨額の戦争経費を負担し、イラクに自衛隊を派遣した中東。安倍政権が、平和憲法を踏みにじってゴリ押しした、集団自衛権行使の可能性のある事例の一つとするホルムズ海峡。もちろん現在、すさまじい戦争の惨害が拡がり続けている中東の研究者たちが、共同執筆したのが本書だ。
私が書いたメッセージ編の1章だけを以下に紹介させてもらう。
平和国家への信頼を裏切る安保法制 坂井定雄
安保法制は、安倍政権が例示するホルムズ海峡封鎖の事例に限らず、現実には、日米安保条約により、米国から要求され、日本政府も日本の安全保障を損なう恐れがあると主張する様々な事態で、集団的自衛権に基づき自衛隊の海外派遣、作戦参加に道を開く、きわめて危険な戦争法制です。憲法の前文と9条の条文と精神に全く反するものであり、「平和国家日本」への中東の人々の信頼を裏切る法制です。安保法制の廃棄、憲法改悪を阻止するため、力を合わせましょう。
これまで自民党政権は、米国主導で開始した湾岸戦争(1990~)で、米国政府の要求に従い、米国の戦争経費611億ドルのうち、21%の130億ドルを支払いました。03年に米国が開始したイラク戦争では、自民党政権が“戦場ではない”と主張し続けたムサンナ州に、2年半にわたり自衛隊約5,500人を派遣しました。さらに米国主導のアフガニスタン戦争開始の2001年から、米軍がイラク撤退を完了する2010年まで、インド洋北部に補給艦、護衛艦を派遣。米軍はじめ11か国の艦艇に大規模な給油支援活動を続けました。
このような米国主導の戦争への協力は、米国の強いい要求による支援であり、給油支援は「テロ対策」のためとして特別措置法を国会で議決しなければできませんでした。憲法とそれに基づく法体制下では、歴代自民党政権も、ここまででしかできなかった、とみることもできます。
米国の共和党ブッシュ政権は、偽情報で固めた大量破壊兵器疑惑を根拠に、イラクに対する軍事行動を国連安保理が承認しないまま始めました。米国には、それ以上に帝国主義的な、危険な政権が出現する可能性もあります。集団的自衛権を認めた日本に対し、この同盟国は、もっと大規模な戦争参加を要求してくるでしょう。
新安保法制が憲法違反であり、日本の法制度の土台である立憲主義に反していると、国内世論の大勢とりわけ憲法学者の多数が厳しく批判しました。安倍政権はその立場をとらない研究者や元官僚を使って反論しました。ところが、安保法制の立法強行後、安倍首相は「自民党の憲法改正草案がある。9条については変えていくと示している」、稲田自民党政調会長は「すでに現実に合わなくなっている9条2項を、このままにしていくことこそが、立憲主義を空洞化するものだ」と公言するようになりました。“盗人たけだけしい”としか言いようもありません。
わたしは1973年に通信社の特派員として、レバノンに赴任、間もなく起こった第4次中東戦争を報道していて以来、通信社記者として、以後は大学の教員、研究者として、中東にかかわってきました。その間、計6年余りベイルートとカイロに住み、生活しました。そのなかで、特に戦争や内戦のさなかに、戦場の兵士や民兵たち、そして街の人々から“平和国家日本”、“戦争に負けたが先進国になった日本”、“戦争をしない日本人”として大事にされた経験が数多くあります。内戦下のベイルートで暮らした妻と子供たちが毎朝、現地の学校に通う途中にあるチェック・ポイントで、笑顔になった民兵たちが「ヤバーニー(日本人)はノープロブレム」といって通してくれたことを今でも妻は懐かしがります。(さかいさだお、現代中東政治)
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