2016.06.13   安倍政権とどう戦うか――護憲を前面に
  ――八ヶ岳山麓から(186)――

阿部治平(もと高校教師)


我ら草莽の民にとって、今回の参議院選挙の争点は何か。
信濃毎日新聞の3日付一面見出しは、「経済争点化、参院選へ攻防」というものだった。「安倍首相は経済最優先の姿勢を強調、民進党などは『公約違反』と批判を強めた」
安倍首相は来年4月に予定されている消費税の8%から10%への引き上げという前言を翻して、2019年10月まで2年半先送りする決定をした。「私の新しい判断」とのことである。いわゆる軽減税率も19年10月だ。
消費増税延期は参議院選挙対策であることは誰の目にも明らかだが、庶民の多くは、子育てや老人介護がどうなるかという心配を抱きながらも、消費税を10%に引き上げられるよりは延期の方が助かるという。この感情に支えられて、消費増税延期の非難の声は大きくならない。いつの時代でも我々無権無産の民は、間近な利益を誘う甘い言葉に惑わされて自分の未来を泥水のなかにおとしてしまう。
民進党や共産党などが増税延期はアベノミクスの失敗だといくら大声でどなっても、野党もまた消費増税に延期や反対を唱えているのだから、安倍政権の弱点を突いていることにはならない。増税延期によって社会保障はうすくなるが、与野党とも子育てや老人介護の財源について語らないところが妙である。

争点の一つになりそうなTPP問題も農家にはあまり浸透していない。私の集落の飲み会では、政府が交渉の細かいところを発表しないから賛否のいいようがないという話が出た。このものいいの裏には、わが地方では輸出企業の下請け、孫請けに働く第二種兼業農家が多く、輸出増加に期待して円安とTPPを支持する人はかなりいるという事情がある。TPPの悪影響を受けそうな果樹や野菜、花卉園芸農家であっても一家に勤め人がいれば同じことである。

安倍首相は2015年の戦後70周年談話では、中韓両国をはじめとする国際世論の厳しい批判を幾分かやわらげ、昨年末の日韓慰安婦合意では、従来の政府主張を緩めて韓国に歩み寄った。もちろん自民党支持者のなかにある慰安婦問題など存在しないという人々は怒ったかもしれないが、右翼など選挙の時はどうせ自民党に投票するのだから怒らせておけばよい。
「保育園落ちた、日本死ね!」では安倍内閣はかなり追いつめられ、老人介護問題も俎上にのぼったが、保育士・介護士の賃金引き上げで何とかすり抜けた。なにせ民進党と自民党との違いは、賃金の引上げ額の違いという程度だから争点にはなりにくい。

サミットでは、安倍首相の景気判断は各国首脳の支持を得られず、国内外のメディアからは消費増税延期の正当化と笑われたが、ホストとしては大きな失敗なくやったという印象を与えた。伊勢神宮などに各国首脳を案内して日本民族の伝統を誇り、さらに「愛国右翼」を手なづけるという副産物もあった。
苦心の下工作のかいあって、アメリカからはオバマ大統領の広島訪問というプレゼントを頂戴し、一時的ではあったが日本中を「感動の渦」に巻込んで反核世論をもうまくなだめ、内閣支持率を上げた。
問題になりそうだった残業代をゼロにする労働基準法改正案は、四党共同提出にしたから参院選前には争点にはならない。

沖縄のアメリカ軍属による婦女暴行殺人事件は、安倍政権と在日米軍のねらい通りに捜査が順調にすすみ、メディアはあまり騒がず事件は一週間足らずでテレビの画面から消え去った。政府もメディアも日米地位協定のしかるべき改訂にまでもっていこうという気はない。それに操作されている世論も盛り上がらない。世界の眼からは醜悪ともいえる対米従属関係は争点にならない。

自民公明推薦の舛添都知事による公私混同問題は、週刊文春が暴露するとあっという間にテレビのニュースショーを独占したから、都議会野党が調査も追及もできないでいるうちに、舛添はたちまち死に体になった。自公も野党といっしょに舛添批判をやり、あとはメディアと都議会に任せておけば参院選には響かない。舛添の首をとるのをいつにするかだけだ。

ことほどさように安倍政権の優秀なブレーンによって、国政のしかるべき対立点がどんどんあいまいにされ消されてゆく。新聞・テレビはアベノミクスを争点だというが、選挙の争点としては庶民の関心をひきにくいものにされてしまった。論争をしても逃道はいくらでもあり、空中戦になりがちだ。私は野党にとって経済を主な争点にすることは、みずから安倍政権ブレーンの術中に陥るものだと思う。

こうなると今回の選挙で野党が敗れたとき、いやおうなしに直面するのは改憲問題だ。私は憲法9条問題こそ対立点が明確で、自民・公明など改憲勢力に打撃を与えうる争点だと思う。野党は早いうちに参議院選挙は憲法9条をめぐる攻防が第一の争点だと提唱してほしい。自公に参議院の3分の2を占めさせてはならない。
朝日新聞の憲法記念日を前にした調査では、改憲する必要はない48%、改憲すべしが43%。読売では改憲すべしが51%である。第9条に限っての毎日の調査では改憲の必要なしが55%となっている。世論調査では聞き方によって数値がぶれるから厳密な判断はできないにしても、安保法制の国会審議以来、世論調査では改憲に同意しない人が少しずつ増えている。
民進党岡田代表は安倍政権下の改憲反対を唱えている。共産、社民、生活は9条を守れといっているから、民主党内の改憲派が9条をめぐって自公に同調しない限り、野党4党は9条の改悪反対を軸にすれば、別個に進んでもともに打つ戦術が可能である。文書にしなくても暗黙の合意という方法でもよい。この点では民進党と共産・社民・生活などの候補の統一を、自民党や公明党が「野合」と非難するのにもすっきりした反論ができる。

安保法制問題は野党合意がかなり面倒な課題である。国会論戦のなか、共産党の志位委員長は外国人特派員協会で「急迫不正の主権侵害が起こった場合には、自衛隊を活用するのは当然だ」とし、また日米安保条約第5条の発動もあると話した。何しろその前までは、自衛隊の活用は日米安保体制の廃棄をする政府の成立を前提とするという、はなはだ説得力のない非現実的な安全保障政策だったのだからこれは防衛政策の転換、大進歩である。
私はこれで共産党と民進党などは共闘できるし、安倍政権からの野合批判に対処できると思う。だが気になるのは、日本に対する主権侵害の危険は中国や北朝鮮にはないという志位委員長の発言である。これは東シナ海・南シナ海問題や核ミサイル・拉致問題を抱えている現状ではたわごとにしか聞えないし、安保法制論議では批判にさらされる。早いうちにこの認識を改め、訂正発言をしてほしいと思う。

村の雰囲気からすると、民主党内閣の政治がまるで幼稚だった印象が根強く残っている。私はこのつけはなかなか取り戻せないと思う。選挙では共産党の足が頼りだが、わが村では主体は70歳前後の老人である。そのうえ村政や他党の批判を激しくやり、自党の「正しさ」を強調するものだから、村人から「えらそうなことをいうなあ」と思われてしまう。このため野党の統一候補の支持はいま一つ伸びない。
長野選挙区の民進・共産・社民の共闘候補がわりに評判のよい人であるにもかかわらず、長野県全体がわが村とそう変りがないとすれば、ひいき目に見ても自民に勝てる見通しは五分五分ではなかろうか。(2016年6月4日)
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