2016.07.21 参議院選挙、私の感想
――八ヶ岳山麓から(192)――

阿部治平(もと高校教師)

今回の参院選は、自民公明連合は3分の2強をとって勝利した。民進、共産など、安保法制の廃棄、安倍政権下では改憲をしないなどの点で一致した4野党は、1人区32で統一候補を立ててかろうじて11勝したが、比例区でも不振で与党を脅かすことはできなかった。共産党の人は改選3議席倍増の6議席を確保したことを喜んでいるかもしれないが、比例区で掲げた獲得目標は9議席だった。前回2013年の8議席にはおよばず、期待したほどの成果は得られなかったのが現実なんだが。

民進党はこのままでは政権を回復できない
私も野党4党勝利のために少しばかり努力した。そのなかで、かつての民主党政権の失政が思った以上に深刻なことを再認識した。長野県は共産党や社民党系の固定票は3分の1しかない。今回、野党統一候補が自公候補との一騎打ちに勝つためには保守派の一角を崩す必要があったが、それは難しかった。民進党候補杉尾秀哉氏の印象がわりによかったために、辛くも勝つことができたと思う。
安倍晋三首相は参院選では3回も長野県に来たが、そのたび民共協力は「野合」だと品のない非難をくりかえした。たしかに信濃毎日新聞がまとめた「各党公約」でみても(2013・7・9版)、現状での改憲反対、集団的自衛権の閣議決定と新安保法制反対を除けば、基本の点で共産党の政策よりは遠く、自民党とは近い印象を受ける。
有権者としては自民党と似た路線なら、たよりない民進党に政権を任せる必要はない。やり慣れた自民党の方が安心だということになる。

民進党がもう一度政権の座に座ろうというなら、民主党政権失政の分析をやって出直す必要があると思う。経済政策はもちろん、鳩山内閣の「対等平等の日米関係」とか「普天間基地の県外移設」の腰砕け、尖閣諸島での中国漁船船長逮捕とその措置や尖閣国有化などの一貫しない外交、福島第一原発事故での対応の右往左往などについて省みることである。
右翼改憲派から社会民主主義的傾向の者までが「野合」した民進党に、失敗の総括を期待することは無理かもしれないが、それができなければ第二保守党として影が薄いまま先細りになるばかりだろう。

たとえば、民進党の安全保障政策だが、その基本線とする日米安保体制は、アメリカの「(核の)抑止力」を前提としている。「抑止力」は米ソ冷戦時代にはそれなりに理由があったが、現在では存在意義を失った。ソ連向けの「抑止力」をそのまま中国や北朝鮮に向けるわけにはいかない。日本はもちろん、アメリカもEUも、経済的には中国とは相互依存関係にあるからだ。どんなに中国の拡張主義が尊大であっても、南シナ海だの東シナ海だのの問題を最終的に武力で解決することは不可能だ。
さらに今日、「抑止力」ではテロには太刀打ちできないという問題がある。ISによる日本人ジャーナリストの殺害と抑留、アルジェリアでの日本人10人殺害事件、このたびのバングラデシュの事件で日本人7人が殺傷された事実だけを見てもそのことは明らかだ(本ブログ伊藤力司氏の論考(2016.07.13)参照)。
いまや、昔ながらにアメリカの「抑止力」に頼る自民党流の安全保障政策は無力だ。これに代わるものは、「対等平等の日米関係」「東アジア平和構想」を考慮した新しい安全保障政策である。それを民進党が鮮やかな形で出す必要がある。

「あーあ、やっちゃったあ」の共産党
ところで、今回の選挙で「まいった」のは、共産党の藤野保史衆院議員の「失言」だった。私はNHK日曜討論会を見ていて、防衛費を「人を殺すための予算」といったとき「やったあ!」と思わず口に出した。その日のうちに赤旗新聞編集部にメールを送って藤野発言に抗議したら、最初の返事は「発言は撤回しました」というそっけないものだった。
撤回したから好いというものじゃありませんよ、藤野発言で選挙運動の勢いが止まったんだから。これがなければ反自公勢力はあと2,3人、共産党も1人くらいは当選者を増やせただろうに。
しかも後始末がわるかった。すぐに志位委員長が「藤野議員の除名を検討する」とでもやれば、傷は小さくてすんだかもしれない。ところが藤野政策委員長の辞任までに2日もかかった。そのうえ志位委員長は謝罪もせず、「藤野発言は党の政策とは異なる」と発言した。党の政策委員長たるものが党の政策を知らなかったことをトップが認めたのである。

失敗にすばやく対応できなかったのは、党の幹部には普通の社会生活の経験が乏しく、人の心が読みとれないからだ。しっかりしてほしい。
共産党は似たことをほかでもやっている。選挙期間中、赤旗日曜版は「『北朝鮮、中国が心配』/国民を守る対策は」という2ページ見開きの記事を載せた。有権者は尖閣問題以来、中国の拡張主義には警戒心を、強権的な内政には嫌悪感を抱いている。この反応を見て、中国・北朝鮮問題が無視できないとみたからだろう。中国批判をやるならもっと早くからやるべきだった。遅くては効果はない。だがつい最近まで、赤旗新聞は中国報道をろくにしないといういいかげんさだった。

藤野発言には、あらためて共産党の安全保障政策のなかで憲法と自衛隊がどういう関係にあるか考えさせられた。このたび共産党は新安保法制廃止の連合政府を提案した。そして志位委員長は連合政府は安保体制下でも自衛隊を活用すると発言した。赤旗ネットから引用すれば、
「仮に急迫不正の主権侵害があったり、大規模災害にみまわれるなど、必要にせまられた場合に(略)自衛隊を活用するのは、国民に責任を負う政府の当然の責務です」
従来は、「日米安保を破棄した政府」のもとでの自衛隊の一時的活用はある、ということだった。安保破棄の政府などいつできるかわからない。その政府でなければ自衛隊を使わないというのでは、南シナ海や東シナ海が緊張し、日本人がテロにやられている現在、人の心をとらえる安全保障政策にはなりえない。
思うに志位委員長の発言は防衛政策の現実的方向への変更であった。私は、これによって民進党との連携は可能だと思った。事実、民進党など4野党共闘が進んだ。藤野議員は政策委員長でありながらこれがわかっていなかった。
わが家にいつも赤旗日曜版を届けてくれる人は、「藤野議員の、防衛費は人殺し予算だという発言は基本的に正しい。だがいま言うべきではなかった」という意味のことを話した。
この人の意見は、憲法9条からすれば自衛隊は本来解消すべきものだ。非武装・平和外交以外ありえない。だがいま国民の理解はそこまでいっていない。ましてや民進党などと統一候補を担いだ以上、自衛隊は人殺しなど言ってはならないという意味だろう。

共産党は、長いこと「自衛隊は憲法違反」といいつづけたから、共産党内には志位委員長の政策転換の意味が分からない人が多いと思う。だが共産党はもともと日米安保体制からの脱却を目指す、その後は憲法改定、「中立武装(自衛)」だと主張してきた政党である。旧社会党流の「絶対的非武装論」ではなかったのである。
共産党は(とおい将来解消するとしても)、現状では自衛隊の存在を積極的に認めるようになった。だが、この転換は志位委員長などごく上層の独断だったのではないか。だから政策委員長も下部組織も、その趣旨がよくわからないのではなかろうか。どんな安全保障政策でも、武装を想定する限り憲法9条に矛盾しないものなどあり得ない。共産党員は自分らの言っていることの意味を十分に理解してほしい。そうでなければ藤野発言の亜流は絶えることはないだろう。

わが祖国は長い長い右傾化の流れの中にある。安倍晋三氏の登場以来この流れは激しくなり、ときに抗しがたいものとなった。今回の参議院選挙は、これを幾分かでも変えることのできる機会だった。
われわれは努力した。だが成功しなかった。また忍耐強くこの努力を続けなくてはならない。そのために護憲・軍縮・共生を唱える人々は、ゆきがかりを捨てて結集しなければならない。妥協し屈辱にも耐えなければならない。援軍はいない。反動派が改憲を具体化するにまでには、まだ時間がある。私も老骨に鞭打って、残された人生をこの流れを変えるためにささげたい。

Comment
八ヶ岳山麓の先生の話、私の感覚に近いことをおっしゃっていると思って読みました。民主党は政権を取らない方が良かった位ですが、政治を変える過程の中でどんな役割を果たせるのか(自民と同じ役割ならば自民を選択します。)考えて、まだまだ頑張って欲しいです。共産党は、真面目で献身的な人達が多いので、一般国民を意識して民主主義を実践していただければ、もっと票がとれるのでなないかと思いました。先生は中国にも詳しい方のようなので、お気に入りに入れて時々読ませていただきます。
haru-san (URL) 2016/07/30 Sat 10:14 [ Edit ]
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