2016.08.20  大統領、巨大デモで死刑復活方針を表明
          ―トルコ・クーデター未遂事件から1か月

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 わずか半日で壊滅された、7月15日のトルコでのクーデター未遂事件から1か月。8月8日の本欄で詳細に書いた通り、エルドアン大統領は、非常事態令を発令し、軍、警察、裁判所、検察はじめ官公庁、大学、新聞・テレビ通信社などメディアで職務についている多数の人々を素早く逮捕あるいは解雇、休職させた。すべて、3年前までは与党公正発展党(AKP)の最有力の同志だったギュレン師(米国滞在中)を支持する、とみなした人々ばかり。その後、トルコ国内の政情はどのような状態になっているのか。
 8月12日のユルドゥルム首相の談話によると、クーデター未遂の関連で約3千人の軍人を含む国家公務員4,897人が解雇され、76,597人が停職にされた。また、クーデター計画の連絡通信網には5万人がかかわっていたと、同首相は語った。一方、8月15日のBBC電子版によると、事件での死者は270人。トルコ軍・治安当局に逮捕された者は2万3千人以上。それ以外に、約8万2千人が解雇または停職にされた。逮捕、解雇、停職にされた人々には、将官以下の軍人のほかに、多くの警察官、裁判官、検察官、教育関係者その他の公務員が多数を占めている。
 これだけ多数の逮捕者を収容できる拘置施設はないため、相当に劣悪な施設に拘置されている者が多数いると人権団体は伝えている。トルコ政府は、17日、非常事態令に基づき、収監中の囚人のうち、3万8千人の仮釈放をできる政令を出した。政令では囚人の刑期を短縮して仮釈放を可能にする。テロ、殺人、性犯罪などの囚人は除外される。
 事件以後、トルコ国内から国外に伝えられる信頼できる情報が少なくなり、国内メディアは、エルドアン大統領の演説や、政府発表・情報と大統領支持の集会やデモのニュース、政敵ギュレン師(米国滞在中―事実上の亡命)とその支持勢力を攻撃する論評が占めている。しかし、ギュレン師が全面的に否定しているクーデター計画の全容どころか一部でさえも、これだけ多数のギュレン師支持者を逮捕しながら、1か月もたっているのに発表されていない。
 ▽「死刑は米国にも、日本にも、中国にもある。」
 エルドアン大統領は8月8日、イスタンブールで開かれた500万人を超える(ロイター通信が伝えた政府筋情報)大集会で、死刑制度を復活する方針を次のように演説したー
 「死刑について決定するのは、トルコ議会だ。わたしは、その手続きが進んでいると、断言する。わたしは議会の決定を承認する。」
 「EUには死刑は存在しないといわれる・・・だが、米国にある、日本にある、中国にある、世界の国のほとんどにある。それらの国々ではその死刑制度を持つことを許されているのだ。われわれも1984年までそれを持っていた。主権は国民に属し、国民がその決断をするならば、政党もそれに従うことを私は確信する。」
 エルドアン大統領は、今回のクーデター未遂事件を機に政敵ギュレン師と幅広いその支持者たちを一掃するために、トルコ政府の長年の願望だったEC加盟を放棄してまで、死刑復活を強行する決意を示したと国民多数に受け取られているようだ。
 トルコの死刑制度は、1923年の共和国建国以来、維持されてきた。しかしEU加盟を強く求めるトルコ政府に対し、EUが加盟条件の一つとして死刑廃止を要求し譲らなかったため、2002年の国会議決を経て法改正し、04年に死刑廃止を実施した。
 ▽非常事態令の悪用を厳しく批判―HRW
 クーデター未遂とその直後のギュレン師派大弾圧について、トルコ国内にも協力者が多く、国際的な信頼の高い人権団体ヒューマンライツ・ウオッチ(HRW=本部ニューヨーク)は、8月3日に発表した詳細な調査報告で、次のように厳しく批判しているー
 「4万人以上の人々が、そのポストから解職された。それには国中の大学の学長も含まれている。とくに司法機関は、裁判官と検察官のうち2,167人が拘引され、2,745人が解職されたため、大きな打撃を受けた。7月25日以降、約90人のジャーナリストに拘引状が出された。7月27日、通信社3社、テレビ16局、ラジオ23局、新聞45、雑誌15、出版・頒布会社29が閉鎖された。」
 「トルコ政府によるニュースメディアの閉鎖は、非常事態令が、今日の公的秩序を支える合法的な目的を超えて、言論の自由の権利を否定するために使われたことを示している。」
 「7月23日に発令された非常事態令第1号は、無制限に行動したい政府の野心を力づけた。政府は、法的手続きなしに数千の私立教育施設、病院、診療所、協会の閉鎖を命令した。同令によって政府は、いかなる再調査要求や法的対抗措置を受け付けないまま、裁判官、検察官、公務員を解雇できる。
 非常事態令第1号はまた、裁判官の許可なしに、警察が容疑者を30日間拘留することを認め、裁判前に拘留されている人々が弁護士と、秘密が保持されている連絡を取る権利を制限し、劣悪な留置が行われ、有効な弁護を得る権利が奪われる危険を増大している。」
 「すでに、クーデター未遂関連で逮捕された軍幹部その他の人々に対し、拷問と劣悪な留置が行われている証拠が明らかになっている。」
 ここで紹介したのは5ページわたるHRWの詳細な報告書の一部にしか過ぎない。これだけでも、エルドアン政権によるクーデター鎮圧事件の真相を示唆していると思う。エルドアン大統領はこの権力闘争の第1幕に勝利したのち、独裁的な権力をさらに強化し、トルコ国民をどのような国家へ導こうとしているのだろうか。
Comment
『失敗したモサデク失脚型』クーデターと言うのが『ロシアイラン陣営の定説』として広められ『トランプのアメリカ黒幕批判』も広まってエルドアン大統領の『英雄化』を助けてます。
ローレライ (URL) 2016/08/20 Sat 14:51 [ Edit ]
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