2016.08.30  クルド結婚式への自爆テロとエルドアン大統領

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

 トルコのクーデター未遂事件から1か月が経過して間もない8月20日夜、クーデター計画を半日で鎮圧し、政敵ギュレン師派の大規模な粛清を実行したエルドアン大統領をあざ笑うように、少数民族クルド人の結婚式をシリアが本拠地のイスラム過激派「イスラム国(IS)」が自爆テロ攻撃した。死者54人、負傷者69人の大惨事。現場はトルコ南東部、シリアとの国境に近いガジアンテップ市(人口約150万)。結婚式には花嫁、花婿が住む近くの地区の住民多数が出席、大勢でにぎやかなクルド人の民族ダンスを踊っているさなかに、爆弾が爆発した。トルコ議会野党の国民民主党(HDP)によると、花婿は同党の党員だった。
 私自身もかってトルコの地方の町で、クルド人の結婚式に招かれたことがあるが、住民がいっぱい参加して歌い、踊りまくる盛大で楽しい結婚式だった。子供たちもたくさん集まっていた。今回はそこでのISの爆弾テロなのだ。イスラム世界では、どこでも結婚式に親族だけでなく周辺の住民が多数集まり、歌い、踊り、食べる。中東にはアルカイダはじめ、多数のテロ組織や過激派組織があるが、女性、子供が必ずたくさんいる結婚式を狙ってのテロ攻撃は、ISの残酷な特質を示している。
 エルドアン大統領は、ISによる犯行だとほぼ断定、実行したのは12-14歳の子供だと語ったが、のちにイルディリム首相はISの犯行だと推定したうえで、犯人が子供かどうかは不明だと発表した。また同首相は、シリアでクルド人武装勢力がISへの攻勢を拡大、最近、ISの本拠地ラッカとトルコ国境を結ぶ幹線道路の要所マンビジからISを駆逐したことへの報復として、今回の自爆テロをやった可能性があると語った。
 イルディリム首相はまた、トルコは今後、シリアでの紛争により積極的な役割を果たす、と表明した。その一つは、シリアで米軍などの空爆支援を受けつつISと地上戦を戦い、ISの根拠地を奪って、次第に追いつめているクルド人武装勢力のトルコ国境通過を自由に認めること。シリアでISと戦っているクルド人武装勢力は、地元のクルド人民兵に加え、イラク政府が公認しているイラク北東部のクルド人自治区を本拠地としているクルド人部隊だ。その大部分はトルコ人の反政府武装勢力PKK(クルド労働者党)で、イラク人のクルド人民兵部隊ペシュメルガも加わっているといわれる。トルコ政府は一時期、イラクからトルコ経由で、クルド人武装勢力が支援のため国境を越えてシリアに入ることを認めたが、その後は国境通過を拒否している。もし、イルディリム首相の発言通り、イラクからのクルド人部隊の国境通過を認めれば、シリアのクルド人武装勢力にとって、大きな力となり。ISをさらに追いつめることができる。
 しかし、エルドアン大統領の意向は違うようだ。BBC電子版によると、トルコの地方紙が伝えた大統領の公式声明では、「IS、PKKの過激派、米国を本拠にしているギュレンに従う者たちの間には違いがない」「わが国と国民は、われわれを攻撃する者たちに対して、改めてただ一つのメッセージを発するだけだー『お前たちが成功することはない』と。」
 エルドアン政権は昨年、国内クルド人の自主的権利拡大をめざす武装勢力PKKとの和平協議・停戦を中断して攻撃を再開、南東部のクルド人の村落の囲い込み、移住強制なども強めてきた。
 今回のクーデター未遂事件では、事件発生10日後、野党の共和人民党(CHP=中道世俗政党)と民族主義行動党(MHP=極右)の両党首と会談、イスタンブールで開く巨大集会に参加を求め、国家正常化への協力を求めた。しかし、クルド人と民主化を求める知識人や学生層に支持が高い野党第2党の国民民主主義党(HDP=クルド系、リベラル・左派)は除外した。
 クーデター未遂事件で、8万人を超えるギュレン師支持者たちを軍、警察、司法、教育など各界から逮捕、拘引、解雇、停職にしたエルドアン大統領は、独裁的権力を決定的に強化にしたように見える。しかし、今回のクルド人結婚式爆弾テロ事件への対応、シリアでISと戦うクルド人武装勢力への支援をめぐり、与党党首のイルディルム首相の発言とのずれも見える。8千万人近い国民のうち1千万人以上を占めるクルド人は、エルドアン大統領への恐れと反感を強めているに違いない。ISと戦うシリアのクルド人武装勢力への支援にしっかり取り組むかどうかと関連して、エルドアン大統領の決断はトルコ国内だけでなく、中東諸国のISとの戦いに大きく影響するだろう。次稿では、いっそうクローズアップされてきたクルド問題の全体図を検討しよう。
Comment
2016年9月3日、当地のブロック紙夕刊に、共同通信舟越美夏記者の筆になるトルコ治安部隊のPKK掃討作戦で包囲され、負傷しながら生還したレフィク・テキン カメラマンのルポルタージュが掲載されました。記事から引きます。「トルコでは今、政権が臨む報道だけが許される。現場で、政府系メディアの取材を何度も見た。防弾チョッキとヘルメット姿で装甲者に乗り、治安部隊が発砲する場面を撮影し戻って行く。政府の求める戦争を、政府の支援を得ながら報じる。戦争を通じて、政府は望む政治を可能にする。『戦争の最初の犠牲者は真実』。この有名な言葉を実体験した。」(引用者註:レフィク氏の言葉)
「トルコ当局は銃撃事件後の2月、IMCテレビ(引用者註:レフィク氏の所属社)の放映禁止措置を講じた。7月のクーデター未遂後、メディア弾圧はさらに強まり、反政府系とされた約130社が閉鎖を命じられ、100人近い記者らに拘束命令が出た。」(引用者註:舟越記者の解説)
銃口を向けずとも真実を犠牲にしてくれる極東某国の「ジャーナリスト」たちに、この記事を捧げます。坂井様の次の記事に期待いたします。ありがとうございます。
夜ノ森の桜 (URL) 2016/09/04 Sun 14:20 [ Edit ]
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