2016.09.11  南スーダン内戦と日本政府の認識
   ―PKO軍増派に鈍感な日本政府

半澤健市 (元金融機関勤務)

  2016年9月10日付拙稿「安倍内閣の支持率はなぜ高いのか(4)」の原稿執筆(9月6日)直後に、南スーダン内戦と自衛隊派遣についてメディア報道が重なったので紹介したい。

《宿営地の共同防衛の違憲リスク》
 日本政府は、本年3月に施行された改正「国連平和維持活動(PKO)法」に基づく「『駆け付け警護』」と『宿営地の共同防衛』ともに自衛隊にその任務は与えてない」と発表している。たしかに、閣議決定が必要な「駆け付け警護」は、「未決定」だから実行不能である。だが「宿営地の共同防衛」は、本PKO法施行と同時に実施可能となっているから、政府発表はミスリードである。スーダンの現実はいまどうなっているのか。

陸自施設科部隊約350名は、すでに首都ジュバに派遣されており、国連施設の整備や道路補修をおこなってきた。本年7月にキール大統領派とマシャル副大統領派との間で戦闘が発生した。自衛隊はその時、外での活動を中止し宿営地にこもった。宿営地には避難してきた地元民が押し寄せ、自衛隊は活動を生活支援に切り替えた。8月からは道路整備を再開したが、国連はこの間、宿営地2カ所周辺で銃撃戦があったこと、政府軍兵士による民間人の殺害や性的暴行があったことを明らかにしている。
宿営地が攻撃された場合、自衛隊はどう対処するべきなのか。改正PKO法に「宿営地の共同防衛」が追加されているので、武器使用はできる。しかし、相手が国や国に準ずる組織(国準)の場合、憲法九条が禁止した武力行使にあたるおそれがある。現に2013年12月、上記両派の最初の武力行使が起きた際、当時の自衛隊は、PKO本部から宿営地の防衛強化を求められたが、武器使用には踏み切らなかった。

ジュバの宿営地は東西2キロメートル、南北300メートルで、ここに自衛隊の他、ルワンダ軍など六カ国の部隊がいる。遠く離れた他国軍を守るため、攻撃もされていない自衛隊が南スーダン軍と撃ち合ったとすれば、先制攻撃=武力行使そのものになるおそれがあり、違憲のそしりは免れない。
国連安保理は8月に、ヨリ積極的な武力行使の権限をもつ4000人規模の「地域防護部隊」の追加派遣を決めた。キール大統領は、これに反発を強めており、PKO要員への妨害が強まる可能性がある。文民警察を派遣していた、ドイツ、英国、スェーデンは自国要員を退避させた。日本のJAICAは自力で脱出、日本大使館の4人も自衛隊機でスーダンを離れた。
しかし菅官房長官は「武力発生とは考えておらず、参加五原則が崩れたとは考えていない」と自衛隊の撤退を否定した。稲田朋美防衛相が9月中旬、ジュバを訪問する。

《青森からの陸自交代要員のリスク》
 次の会話は、民進党の国対委員会が、先日、関係省庁からヒアリングしたときの問答である。

民進党議員「現地では武力衝突が起き、敵対行為が行われ、国内避難民まで出ている。それでも紛争は起きていない、ということか」
政府側出席者「PKO法上の武力紛争が発生したと考えていない」

南スーダンPKOには11月以降、交代のため陸自の部隊が青森から派遣され、安保関連法に基づく新任務が命じられる可能性がある。隊員の家族からは不安の声があがっている。政府が「武力紛争は発生していない」という理由に挙げるのは、南スーダンが2011年に独立した際のスーダンとの停戦合意である。その合意が崩れない限り、いくら独立後の今の南スーダンで戦闘が起きても、紛争当事者による武力紛争とは見なさない。
外国人はおろか日本人にも理解するのは難しいだろう。もちろん青森の人にも。

《国連PKO部隊は、増派で18,000人に》
 2年半も続いている南スーダンの内戦では、民間人の虐殺、児童の兵士化、供給緊急食料の炎上、女性・少女の強姦、などが発生し、数万人規模の死者が出ている。
9月4日に、国連安保理のPKO要員増加決定に対して、南スーダン政府はその受け入れに応じた。これより先、ケリー米国務長官とパワー米国国連大使らは、国連安保理に対してPKO部隊の増派と武装強化を強く主張していた。アフリカ諸国はこの動きを支持しているが、南スーダン政府は、主権侵害だと反発する空気もある。

しかし多くの南スーダン国民もPKO増派を望んでいる。パワー氏らは、問題の基本は南スーダン政府の統治能力の向上であり、PKO軍増派は万能薬ではないとしながらも、増派の早期実施を期待している。。増派は主にアフリカ諸国から行われよう。コンゴや南スーダン内戦の経験から、国連PKOの任務は、傍観的で抑制的な立場から、当事者性の強い積極的介入へと変化してきた。国連の基地では20万人の民間人を直接に保護している。

上記の情報は、三つのメディア記事からの抜き書きである。出所を記しておく。
《宿営地の共同防衛の違憲リスク》は、『東京新聞』の半田滋論説兼編集委員が『週刊金曜日』(2016年9月9日号)に書いたもの、《青森からの陸自交代要員のリスク》は『毎日新聞』(2016年9月9日)の「発信箱」というコラムに同紙佐藤千矢子論説委員が「PKO珍問答」と題して書いたもの、《国連PKO部隊は、増派で18,000人に》は、 『International New York Times』(2016年9月7日・印刷版)の Jefferey Gettleman 記者の記事である。《》内の小見出しは半澤がつけた。(2016/09/10)
Comment
管理人にだけ表示を許可する
 
TrackBack