2016.10.04 前置詞句(prepositional phrase)
前置詞句を主語とする表現は、英語なのに日本語のような雰囲気がある

松野町夫 (翻訳家)

和文英訳は、まず主語を設定することから始まる。主語を決めないかぎり、英文は書けない。英文に主語は不可欠だ。主語になるものは名詞、代名詞のほか、名詞相当語句(noun equivalent)である。名詞相当語句は名詞そのものではないが、その働きが名詞に相当するものをいう。たとえば、〈the+形容詞〉、動名詞、不定詞、前置詞句、名詞節など。

名詞相当語句: 下線部が名詞相当語句で主語(主部)となる。
The sick need good care. 病人にはよい治療が必要だ。→ 〈the+形容詞〉
注記:〈the+形容詞〉は集合的に複数扱い
Smoking too much is bad for your health. → 動名詞〈動詞+ing〉
タバコの吸い過ぎは健康に悪い。
To solve the problem is impossible.  → 不定詞〈to +動詞〉
= It is impossible to solve the problem.
その問題を解くのは不可能です。
Through the wood is the nearest way. → 前置詞句
森を抜けるのが一番の近道です。

前置詞句とは何か
前置詞句とは、through the wood; on the table; in the kitchen のように、前置詞で始まる句をいう(A prepositional phrase is a phrase that begins with a preposition, such as “through the wood”, “on the table” and “in the kitchen”)。前置詞の後に続く語をその前置詞の目的語という。

名詞相当語句の中で、私にとって前置詞句を主語とする表現が一番悩ましく、そのぶん新鮮な魅力を感ずる。私は長い間、この種の表現を倒置(inversion)と理解していた。原文は 〈S+V+A〉 の文型と解釈した。ちなみに、A は付加語(Adjunct)のこと。付加語とは削除することのできない修飾語(副詞または前置詞句)を意味する。SVA型の構文とは、たとえば、

a. Mother is in the kitchen. 母は台所にいます。(付加語 A) → 〈S+V+A〉
b. Ken is sleeping in his room. ケンは部屋で寝ています。(修飾語 M) → 〈S+V〉
b. の in his room は削除しても文としては成立するが、a. の in the kitchen を削除すると文は成立しない。修飾語(modifier)は削除できるが、付加語(adjunct)は削除できない。

本題に戻って、
The nearest way [S] + is [V] + through the wood [A] → 〈S+V+A〉 を倒置すると、
一番の近道は森を抜けることです。
Through the wood [A] + is [V] + the nearest way [S] → 〈A+V+S〉 となる。
森を抜けるのが一番の近道です。

つまり、真の主語は the nearest way で、through the wood は付加語にちがいないと思い込んでいた。実際、そのように解釈しても特に不都合はない。少なくとも be 動詞のSVA型の構文に関しては。

しかし、旺文社 『ロイヤル英文法』や、安藤貞雄著 『現代英文法講義』では through the wood を主語と認定している。前置詞句を主語としてみると、とたんに広々とした新しい英語の世界が展開する。

Through the wood [S] + is [V] + the nearest way [C] → 〈S+V+C〉
森を抜けるのが一番の近道です。

前置詞句を主語にすると、〈S+V+C〉というごく普通の基本的な文型となる。この解釈の方が単純で はるかにわかりやすい。前置詞句を主語とする表現には解放感があり、英語なのに日本語のような雰囲気すら漂っている。

Under the bed is a good place to hide. → 〈S+V+C〉
ベッドの下は隠れるのによい場所である。
Among her virtues are loyalty, courage, and truthfulness.
彼女の徳のなかには忠実、勇気、誠実が数えられる。
From childhood to manhood is a tedious [tíːdiǝs] period.
子供から大人にかけては、退屈な時期である。

上記の3つの表現は、それでもなお、倒置と解釈する余地は残されている。これに対して、以下の5つの表現はもはや倒置などではなく、前置詞句を主語としないかぎり、どうにも説明がつかない。ただし、すべての動詞が前置詞句を主語にできるわけではない。前置詞句を主語にとる動詞は be 動詞と suit に限定されているのでご用心あれ。

Over the fence is out. → 〈S+V+C〉
= it is out if the ball goes over the fence.
(ボールが)フェンスを越えるとアウトです。
Near the fire is warmer.
火の近くはもっと暖かいですよ。
After four is OK with me.
4時以降ならOKです。
Above the cloud is difficult for us to see.
雲の上は私たちには見えにくい。
Around eight o’clock suits you? 
8時頃ではご都合いかがですか?

前置詞句が主語になるということは、前置詞句が実質的に名詞になるということでもある。「前置詞句が名詞になる」という現象は、二重前置詞では頻繁に起る。二重前置詞とは、from across, from under, from within, from in front of のように、ふたつの前置詞が連続するものをいう。たとえば、

She called to me from across the street.
彼女は「通りの向こう」から私に声をかけた。
He took a bottle from under the counter.
彼は「カウンターの下」からボトルを取り出した。
The noise seemed to be coming from within the basement.
その音は、「地下室の中」から聞こえてくるようだった。
Please move your car away from in front of our house?
「家の前」から離れたところに車を移動していただけませんか。

前置詞の後には名詞が続く。上記の英文の from の後の前置詞句はいずれも実質的に名詞であると解釈すると、わかりやすい。日本語でも「通りの向こう」「カウンターの下」「地下室の中」「家の前」というように、いずれも名詞として表現されている。

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