2008.06.14
中国で大学入試、最多の受験者数記録
―他方で、「大学は出たけれど」の嘆き広範に―
9月から新学期の始まる中国で、6月7、8両日(一部では9日も)、全国統一大学入試が行われた。四川大地震の被災地である四川省の6市・州、45県(市・区)および甘粛省の2市・州、17県(市・区)では延期された。
大学入試はこの時期の年中行事で、受験生本人はもちろんのこと、親や親戚も結果発表まで落ち着かない日々を送ることになる。ただ、2000年以降、大学の門が大きく開かれ、募集定員が5倍強にもなったため、大学生に対する社会の評価も変わりつつある。
大学生といえば即エリートだったのは1980年代までのこと。今では、国家主席や閣僚を輩出する特定少数の名門大学は別として、大学生だからというだけでエリート視される状況ではなくなってきているようだ。
今年も募集定員は増やされ、中共機関紙『人民日報』社のウェブサイト「人民網」によると、大学の募集定員は前年より5%増えて合計599万人となった。このため、「合格のチャンスは前年に比べやや広がった」という。
しかし、受験者の総数も前年比4%増の1050万人とこれまでの最高を記録した。それに、募集定員の増加分は、地震被災地の大学に重点的に割り当てる方式をとったというから、合格のチャンスが「やや広がった」といっても一般の受験生にとっては“スズメの涙”程度のものではないか。
合格発表の時期になると、省や特別市ごとに最高得点の受験生が文系・理系別に顔写真入りでこのウェブに紹介される。その名も“状元”だ。これは、昔の科挙の進士の試験の首席合格者のこと。そこから転じて現在では各地域別のトップ合格者を示すようになっている。
そうした話題を含めて入試が社会的な一大関心事であることに変わりはないのだが、ここ数年来、大学を出てからの就職難が、とくに大学生を抱える父母や教育関係者の間では切実な問題になっている。
丹藤佳紀 (早大講師)
9月から新学期の始まる中国で、6月7、8両日(一部では9日も)、全国統一大学入試が行われた。四川大地震の被災地である四川省の6市・州、45県(市・区)および甘粛省の2市・州、17県(市・区)では延期された。
大学入試はこの時期の年中行事で、受験生本人はもちろんのこと、親や親戚も結果発表まで落ち着かない日々を送ることになる。ただ、2000年以降、大学の門が大きく開かれ、募集定員が5倍強にもなったため、大学生に対する社会の評価も変わりつつある。
大学生といえば即エリートだったのは1980年代までのこと。今では、国家主席や閣僚を輩出する特定少数の名門大学は別として、大学生だからというだけでエリート視される状況ではなくなってきているようだ。
今年も募集定員は増やされ、中共機関紙『人民日報』社のウェブサイト「人民網」によると、大学の募集定員は前年より5%増えて合計599万人となった。このため、「合格のチャンスは前年に比べやや広がった」という。
しかし、受験者の総数も前年比4%増の1050万人とこれまでの最高を記録した。それに、募集定員の増加分は、地震被災地の大学に重点的に割り当てる方式をとったというから、合格のチャンスが「やや広がった」といっても一般の受験生にとっては“スズメの涙”程度のものではないか。
合格発表の時期になると、省や特別市ごとに最高得点の受験生が文系・理系別に顔写真入りでこのウェブに紹介される。その名も“状元”だ。これは、昔の科挙の進士の試験の首席合格者のこと。そこから転じて現在では各地域別のトップ合格者を示すようになっている。
そうした話題を含めて入試が社会的な一大関心事であることに変わりはないのだが、ここ数年来、大学を出てからの就職難が、とくに大学生を抱える父母や教育関係者の間では切実な問題になっている。
2007年、大学卒業生は500万人近くに達したが、就職しなかった学生が120万人もいた(中国社会科学院『社会白書』)。「就職しなかった」という表現は、就職を望んだが満足できる就職先が見つからず、見送ったというケース、そのため、就職をあきらめて大学院進学へとコースを変えたケースなどいくつか内訳がある。それにしても卒業生の4分の1弱が仕事につかなかった(つけなかった)というのだから深刻だ。
そうした大学生を抱える親の世代の大卒者は、ほぼ例外なく卒業時に大学から職場を「分配」された。1970年代までは、就職できないという不安はなく、ただ、どこの、どのような職場に「分配」されるかということが問題だった時代である。
中国語に「天南海北」という4文字熟語がある。「天南地北」ともいい、南北各地、至る所などの意味で使われる。かつて大学生の間では、その原義を転じて「分配」での理想の配属地を表すものとして使われた。天(津)、南(京)、(上)海、北(京)である(南京以外の3市は省・自治区と同格の直轄市)。
では、なぜ今そうした就職難が出現したのか。大学側と卒業生を受け入れる側と双方に問題があるようだ。
まず、大学の入学者(したがって卒業生)激増。21世紀を目前に控えた1999年、前年度108万3600人だった募集定員が159万7000人に引き上げられた。2002年度になるとさらにその倍近い320万5000人に増員され、2006年度には546万1000人にふくれ上がった。1999年度対比では実に5倍強である。上記したように、2008年度は前年度より5%増えたから、大学への新入生600万人時代が到来した。
この募集定員増は、1998年、当時の江沢民国家主席(党総書記)が大学教育の拡充策を打ち出したことによるものだ。中国が国策として推進している「計画生育」は、とかく産児制限策と受け取られがちだが、教育の普及・拡大を含む「人口資質の向上」も重要な柱になっている。
また、国民の間では、経済成長による所得向上とどの家庭にもほぼ共通な「一人っ子」状況とがあいまって、こどもに高等教育を受けさせる傾向が強くなっている。そのおかげで、18~22歳の大学生の年齢層の若者のうち、全日制大学に進む割合(大学進学率)は2001年の13%から2005年21%へと向上した。
一方、卒業生に対する新規求人は伸びていない。この間の事情について、「人民網」(日本語版)の週刊特集(5月22日)は「中国の経済成長率は07年には10.1%に達し、高い数字を維持しているとはいうものの、大学卒業者の増加スピードにはかなわない」と指摘している。
「人民網」によれば、就職難に直面して競争の激しい大都市での就職をあきらめ、農村に行って「村官」(村の幹部補佐)になる道を選択する学生も出ているという。“狭き門”から転換を始めた中国の高等教育は、こんどは市場経済によって課せられた就職難という新しい試練に直面している。
そうした大学生を抱える親の世代の大卒者は、ほぼ例外なく卒業時に大学から職場を「分配」された。1970年代までは、就職できないという不安はなく、ただ、どこの、どのような職場に「分配」されるかということが問題だった時代である。
中国語に「天南海北」という4文字熟語がある。「天南地北」ともいい、南北各地、至る所などの意味で使われる。かつて大学生の間では、その原義を転じて「分配」での理想の配属地を表すものとして使われた。天(津)、南(京)、(上)海、北(京)である(南京以外の3市は省・自治区と同格の直轄市)。
では、なぜ今そうした就職難が出現したのか。大学側と卒業生を受け入れる側と双方に問題があるようだ。
まず、大学の入学者(したがって卒業生)激増。21世紀を目前に控えた1999年、前年度108万3600人だった募集定員が159万7000人に引き上げられた。2002年度になるとさらにその倍近い320万5000人に増員され、2006年度には546万1000人にふくれ上がった。1999年度対比では実に5倍強である。上記したように、2008年度は前年度より5%増えたから、大学への新入生600万人時代が到来した。
この募集定員増は、1998年、当時の江沢民国家主席(党総書記)が大学教育の拡充策を打ち出したことによるものだ。中国が国策として推進している「計画生育」は、とかく産児制限策と受け取られがちだが、教育の普及・拡大を含む「人口資質の向上」も重要な柱になっている。
また、国民の間では、経済成長による所得向上とどの家庭にもほぼ共通な「一人っ子」状況とがあいまって、こどもに高等教育を受けさせる傾向が強くなっている。そのおかげで、18~22歳の大学生の年齢層の若者のうち、全日制大学に進む割合(大学進学率)は2001年の13%から2005年21%へと向上した。
一方、卒業生に対する新規求人は伸びていない。この間の事情について、「人民網」(日本語版)の週刊特集(5月22日)は「中国の経済成長率は07年には10.1%に達し、高い数字を維持しているとはいうものの、大学卒業者の増加スピードにはかなわない」と指摘している。
「人民網」によれば、就職難に直面して競争の激しい大都市での就職をあきらめ、農村に行って「村官」(村の幹部補佐)になる道を選択する学生も出ているという。“狭き門”から転換を始めた中国の高等教育は、こんどは市場経済によって課せられた就職難という新しい試練に直面している。
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賃金が上昇すると、中国は今までのように、世界から部品を調達して、組み立てて、世界に輸出すという、世界の工場方式という、低賃金労働による仕組みを維持できなくなります。
そうすると、もっと高い次元の製造などを行わなければなりません。それも、すばやく転換する必要があります。そのためには、若い世代に頑張ってもらわなければなりません。
私のブログでは、80後世代をおおまかに三つに分類してあります。これらの三つの層にはそれぞれの使命があると思います。三つの層に関しては、ここでは詳述できませんので、是非私のブログをご覧になってください。
中国政府はこの転換をスムーズに行えるように、これからいろいろと政策を打っていく必要がありそうです。