2016.10.18 脱原発が県民に広く浸透
新潟県知事選で再稼働慎重派が勝利

岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 10月16日におこなわれた新潟県知事選で、医師で原発の再稼働に慎重姿勢の無所属候補、米山隆一氏=共産、社民、自由推薦=が、同県長岡市の前市長で無所属候補の森民夫氏=自民、公明推薦=らを破って初当選した。この結果、安倍政権の原発推進政策は見直しを余儀なくされるのは必至で、衆院選を控えた野党共闘にも影響が出そうだ。

 新潟県知事選では、当初、これまで東京電力柏崎刈羽原発の再稼働に慎重だった泉田裕彦知事が4選出馬すると思われていた。これに対し、原発推進派の森氏も出馬を表明、このため、知事選は泉田氏と森氏の対決になるとみられていた。ところが、泉田氏が突然、不出馬を表明したことから、一時は森氏の無投票当選もあるのでは、との観測も出たほどだった。このため、全国の原発推進派は安堵し、一方、脱原発は泉氏の4選を期待していただけに落胆も大きく、危機感を深めた。
だが、次期衆院選新潟5区の民進党候補に内定していた米山氏が知事選告示1週間前の9月23日に民進党を離党し、知事選に立候補することを表明。これに対し、市民団体と共産、社民、自由の野党3党が米山氏を支援することを決定、最大野党の民進党は自主投票となった。民進党を支持する連合が森氏を支援することになったためだった。

 かくして、知事選は森氏と米山氏による事実上の一騎打ちとなった。争点は、原発の再稼働への賛否だった。なぜなら、同県には柏崎市と刈羽村にまたがる地域に巨大原発、すなわち東電柏崎刈羽原発(7基)があり、東日本大震災による東電福島第1原発の事故以来、稼働停止中だが、東電と政府はこれの再稼働を急いでいるからである。
 県知事に原発の再稼働を止める権限はないが、知事の同意が得られないと原発停止が長引く可能性がある。したがって、東電と政府は何としても知事の座に原発推進派をすえたかったわけである。一方、全国の脱原発派は、何としても泉田氏の再稼働慎重路線を継承する候補に勝ってもらいたかったわけだ。かくして、両派による激烈な選挙戦が戦われたのだった。
 
 組織力と資金力で劣る原発再稼働慎重派がなぜ勝利できたか。
一つには、市民団体と野党3党の共闘があったからと思われる。新潟県では、7月の参院選(1人区)で、野党統一候補が自民党候補を僅差で破って当選しており、その時の市民団体と野党の結束がまだ生きていて票固めで力を発揮した、と見て差しつかえないだろう。野党統一候補として当選した森裕子参院議員を知事選の選対本部長にすえたのも効いた。自主投票を決めた民進党が選挙終盤に蓮舫代表を送り込んだことも、少しは影響したかもしれない。

 それに、県外の脱原発派からの応援も勝利に貢献したのではないか。全国の脱原発団体は、傘下の人たちに、新潟県の友人、知人に米山候補に投票するようハガキや、電話、電子メールで依頼しようと呼びかけた。選挙運動を支援するために現地に人を派遣した団体もあった。こうした県外からの支援が新潟の有権者をふるい立たせたということもあったのではないか。

 でも、最大の勝因は、新潟県民の意識の変化ではないか。
 真の勝因を知りたくて、新潟市在住の元新聞記者に聞いてみた。彼は即座にこう言った。
 「原発再稼働慎重候補が勝った理由は、ひと言でいえば、新潟県民の意識の変化ですよ。県民意識の変化のきっかけは東電福島第1原発の事故です。新潟は福島の隣県。とても近いから、この5年の間に、県民は原発事故による被害の実態を知ったんですね。とりわけ、新潟県には福島県から避難してきた人たちが今なお3000人もいることが大きい。県民はその人たちとじかに接する中で原発事故がいかにひどいものかを知ったんですね」
 「中越地震の時、東電柏崎刈羽原発で火災が起きたことが決定的だったと言っていいでしょう。この時以来、多くの県民はこう思うようになったんです。あの程度の地震で原子力発電所で火災が起きた。もっと大きな地震がきたら、えらいことになるな、と」
 「要するに、原発事故で県民の意識が変わったんですね、原発の再稼働には反対だ、と。今度の知事選、言ってみれば県民の力の勝利ですよ」

 彼の話を聞きながら、私は、最近見た2つの光景を思い出していた。1つは、今月5日に目にした福島県の原発被災地の荒涼たる風景である。生き物が全くいないゴーストタウンと化した住宅街、朽ち行く家屋、雑草地と化しつつある稲田・・・。私は、その場に立ってこう思ったものである。原発被災地の惨状を知ったら、だれしも原発を再稼働させよなんて言い出せなくなるのではないかと。そして今、新潟県知事選の結果を見た私の心に浮かんでくるのは、「新潟でも原発被災地に思いをはせる人たちが増えつつあるのだ」という思いだ。

 もう一つの光景は、9月22日、滝のように降りしきる豪雨の中を「脱原発」を掲げて東京・代々木公園に全国から集まってきた人たちの姿である。約9500人。新聞・テレビはごく一部を除いてこの脱原発全国集会を報道しなかった。脱原発運動なんかやって何になるだろうと、軽視しているからだろう。
 でも、新潟県知事選の結果を前に私はこう思う。「脱原発運動は、鹿児島県知事選に続いてまた成果をあげた。これを機にさらに力をつけるにちがいない」と。

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