2016.11.10  アメリカ帝国崩壊の二つ目の序曲
          ―米大統領選挙2016の開票を見ながら―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 トランプがクリントンに勝った。決まった瞬間、私のなかで爽快感と嫌悪感が交錯した。考えがまとまらないうちに正直な感想を書く。

 下品で、非知性的な、トランプが勝利した理由は何か。
それは、「ポピュリズムの勝利」である。ポピュリズムは悪いのか。ポピュリズムは民主制の重要な一面である。ポピュリズムにも「善い」ものと「悪い」ものの二種があるのだ。
一つの政党のなかにもあり、一人の候補者のなかにもある。

 されば善悪の区別は何によるのか。
現代アメリカの全構造を解明しているか。暴露しているか。対策を示しているか。
これがモノサシである。
現代アメリカの全構造とは何か。多国籍企業に従う権益集団が権力を握っている。世界中の庶民大衆は、彼らの利益を生み出す資源となっている。利益集団とは、「武器製造業者などの巨大企業・あらゆるテクノクラートの集団・真実を知らせぬマスメディア・金儲けに与するアカデミズム」の壮大な共同体である。それは「エスタブリッシュメント」とも「帝国」とも呼ばれている。19世紀から20世紀前半まで、この構造は「資本家階級と労働者階級」と呼ばれていた。分かりやすい図式だった。その境界がボヤけて、ノッペラボウに見えるのが現代資本主義のデザインである。

 その構造を解明し暴露するのにトランプは、例えば、TPPに反対しながら、外国労働者の不法入国を非難した。TPP反対は正論であるが、不法入国はカベ建設で防ぐ話ではない。社会主義者サンダースが若者の歓呼を浴びたのは、彼が米国資本主義の格差構造を批判し、公立大学学費の無料化・オバマケアの強化・15ドルの最低賃金、を政策に掲げたからである。

 改めて言う。対決の構図は「多国籍企業vs個人」である。この非対称的な構図は世界大の現象だ。クリントンは国民のためと言いながら企業利益集団を擁護した。トランプとサンダースは彼女に反対して個人の利益を擁護した。クリントンは、形式化した偽善的な現スタイルの資本主義を持続させるのが、アメリカの国益だと述べた。トランプとサンダースは、ナショナリズムと所得再配分が個人の利益であり国益でもあると述べた。トランプのナショナリズムは偏狭で独善的である。サンダースは最終段階でクリントン支援に回り熱狂的な若者の失望を招いた。
論争は、国内問題に傾斜したうえ泥仕合になった。そのため、安全保障や国際経済という総じて外交に関する論議は断片的であった。

 トランプの勝利は、世界企業対個人の戦いに、小さな風穴を開けた。
しかし、これから利益集団の反撃が始まろう。トランプの自発的な軌道修正も起こるだろう。それは、ナショナリズムを強調し、商業ディール的な政治を進めることになるだろう。
「米大統領選挙2016」は、「2001/9/11」と並ぶ大きな事件である。
未来の歴史家は、アメリカ帝国の終焉の二つ目の里程標だったと記すことになるだろう。

 安倍政権は、アメリカ帝国に地獄の底まで付き従うつもりであった。それは変わりそうもない。我々は日本の自立を求める機会を掴んだ。安倍晋三内閣を倒す絶好の状況を逃してはならない。(2016/11/08・午後5時記す)
Comment
不透明、マスメディア未整理の現状下、
参考になる見解多謝。
則松久夫 (URL) 2016/11/10 Thu 10:25 [ Edit ]
お上品な女性コメンテーターがトランプ次期大統領を遠慮気味に「お下劣な人が…」と表現していた。お下劣な人でも政治はできる。そもそもお上品な政治家というのは稀である。「瀬戸物屋に飛び込んだ牛」という英語の表現がある。お下劣かどうか、世界をあっと言わせたこの雄牛は出口を見つけられないことを悟ったのか興奮を収めてあたりを見回している。ちょっと早めの大統領受託挨拶はまっとうだった。だが、これで安心してはいけない。近くに欲望をそそる雌牛がいなかっただけではないのか。
彼が執務初日に行うと宣言したアジェンダだけでも次のようなものがある。200万人を超える不法移民を追い出す。医療費適正化法(オバマケア)を改廃する。テロリスト地域からの移民を停止する。オバマ大統領が発したすべての違法な行政命令を撤廃する。キーストーンXLのパイプラインの敷設を継続する。化石燃料生産の制限を撤廃する。最高裁の判事候補に故アントニン・スカリア氏のような人物を選ぶ。国連の気候変動対策費への拠出金を停止する。新しい連邦法1件につき既存の2件の法律を廃止することにする。その他、その他。
トランプ氏はすでに数回に及ぶニューヨーク・タイムズ紙とのインタビュー(要約は5月5日号)で彼の政策ばかりでなく彼のスタッフについても想を練っていることを述べていた。「私は巨大な変化をもたらすために走り回る」と言い、閣僚や主要ポストには(ビジネスマンや軍人などの中から)「意志強固な人物」を選ぶと明言している。
「この国は深刻な過ちの中にある」と述べて希望を失いつつある人に救いの手を伸べ、「裕福な出資者を頼りに選挙戦は戦わない」と宣言して選挙を自費で賄い、利権からは自由であることを売り込む。巧みにアメリカ人の心を捉えるためには「アメリカをもう一度偉大な国にしよう!」(”Let’s make America great again!)という使い古されたスローガンが依然として最大のものであることも知っている。このようにしてあらゆる逆風に耐えて選挙戦を勝ち抜いた手腕は見事としか言いようがない。しかし、これはデマゴーグとしての手腕ではないだろうか。恐るべし。恐るべし。
大統領としての抱負は「全アメリカ人の大統領になることだ」と言う。しかしアメリカはどこよりも、移民の国、多文化の国である。次期大統領の業務は執務第一日から国論を分断し、彼の掲げる高邁な意図に逆行するものでしかない。ヒラリー・クリントン氏は敗北宣言の中で「私たちの国は、思ったより深く分断されている」と述べている。このような無知こそが彼女の陣営の敗因であったと言えるのではないかと思う。
権力にすり寄るのが人の常であるならば、トランプ氏と共和党のエスタブリッシュメントとの関係も修復されるのだろうか。アメリカの歴史はいろいろなことを教えているが、まずその辺りから注目していきたいと思う。
shoji oshima (URL) 2016/11/10 Thu 21:22 [ Edit ]
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