2016.12.06  中国の不正追及・・・ハエの叩かれ方
    新・管見中国(18)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのいくつかの競技の競技場をどこにするかがここへ来てややこしい問題となっている。それは時を追うごとに五輪開催費用が兆円単位で膨れ上がっていく裏にはおそらくスポーツ界のボスたちとゼネコンの利権が絡んでいるに違いないという庶民の感覚があり、それを目ざとくキャッチした小池新知事が競技場見直しを言い出したからである。
 しかし、不正追及となればここ数年は中国の習近平政権のそれがさすが大国というか、規模の大きさで群を抜いている。しかもそれは「虎もハエも叩く」という合言葉に現れているように、国・地方の最高級指導幹部から末端官僚まで幅広く摘発の手が及ぶために、副作用として官僚の間に「なまじ働いて、目立つより、何もしないほうが安全」という「不作為症候群」が生まれているとさえ言われている。
 虎のほうでは、2007年から12年まで国のトップ7人に入る共産党政治局常務委員として司法・公安関係を握っていた周永康、1級行政区である重慶市のトップだった薄熙来、胡錦濤総書記時代に共産党中央弁公庁主任という日本でいえば政権与党の幹事長か内閣官房長官とでもいうべき要職にあった令計画、軍の制服組のトップである中央軍事委員会の副主席2人、徐才厚、郭伯雄と、飛び切りの大ものが網にかかって、彼らの不正利得の大きさとともに国民を唖然とさせた。
 一方、ハエの方はどうか。勿論、地位は低くても収賄などの明確な犯罪もあるが、一番大勢がひっかかるのは「8項紀律・6条禁令」という犯罪以前の紀律規程である。これは習近平が共産党総書記に就任した直後の2012年12月に共産党の政治局会議で決定されたもので、その内容は8項規定では、調査研究を真面目にやれ、会議や文章は簡潔に、出張のお供は小人数に、ニュース報道では会議などは伝える価値があるかどうかを考えて簡潔に、勤倹節約を旨とし、住居、公用車は規定を厳格に守ること、個人で著作や講演を出版しないこと、といったものである。こちらは抽象的だからそれほど恐ろしくない。
 多くの中・下級役人がひっかかるのが6条禁令のほうで、次のような事例が厳禁事項として列挙されている。公費を使っての相互訪問、贈り物交換、基準を超えた接待、上級機関に地元の特産品などを送ること、下級機関からもらうこと、規定に違反して謝礼、有価証券、プリペイドカードなどをやり取りすること、冠婚葬祭に名を借りて金を集めること、行事の派手さを競って散財すること、年末に予算を使いきるために手当てを増発すること、買物ができるカードなどを印刷して配ること、公費で観光を組織すること、休日に公用車を使うこと、賭博をすること・・・
 いずれも確かに褒められたことではないが、われわれの常識ではまあ程度問題という感じもする。それを政治運動にして細かいところにまで目くじらを立てては、組織全体として委縮し、怯えてしまうだろう。不作為症候群もムべなるかなである。
 それではこれまでにどのくらいの数の人間がこれに引っかかったか。11月29日の『人民日報』が「紀律・禁令」決定以来の摘発人数を公表した。それによると、処分対象となった事例は13万9622件、何らかの処分を受けた人数は18万7409人、うち党政紀律違反に問われた数は9万1913人ということである。この数をどう見るか。日本の10倍の人口大国であることを考えても、一級行政区(省や直轄市)一つあたり3000人ほどになるから、少ないとはとても言えまい。
 昔、建国後の1950年代に行われた反右派闘争といった政治運動では、各部署とも1人2人の右派分子を摘発しないと、運動をさぼっていると見られるために、むりやり誰かを右派分子に仕立てたりして、たくさんの悲劇を生んだ(朱鎔基元首相が当時「右派分子」とされたことは有名)が、今も似たようなことが起きているかもしれない。
 紀律違反に問われた9万人強のうち、一級行政区や中央省庁の幹部は15人にすぎず、以下ランクが下がるごとに数が増えて、末端の地方の課長クラスが8万4000人余と圧倒的である。
 それでは「罪状」で多いのは何か。最多は公用車の不正使用で2万6000件余、以下規定違反の手当て支給が1万4000件弱、派手な冠婚葬祭が1万3000件弱、謝礼の金品を渡すが1万1000件余である。勿論、中には贈収賄や売官買官など悪質な罪を犯して、刑罰を受けるものも少なくないだろうが、多くの中・下級幹部が摘発に怯えているのはこの程度の不正である。
 そんな中で最近報道された事例で、私の目を引いたものを紹介したい。11月29日に北京市の呂錫文という女性の党委員会副書記が「牝虎」として報道された。党委書記なら各地のトップだが、副書記は通例数人いるから単純にナンバー2とは言えない。それにしても副書記となればかなりの幹部である。
 彼女はなにを問題にされたかというと、北京市の指導幹部となってから自分の周りに多くの「小さな(人間の)輪」をつくったというのである。彼女はテニスが好きなことから「テニスの輪」、漢方医療の健康法を好む「漢方の輪」、彼女の夫は紹興酒の商売をしていることから、家で定期的に紹興酒の品評会を開いて「品酒の輪」という具合である。
ここで「輪」と訳した中国語は「小圏子」という単語である。じつはこの「小圏子」は今、目の仇にされている。小さなグループの意味だが、党内に小圏子をつくるな、というのが、派閥をつくるなという意味の政治スローガンになっている。
それにしても呂さんのテニスや漢方の集まりが政治的な分派と見なされたのであろうか。報道ではそれ以外に罪状らしきものは挙げられていない。こんなことで公職追放の処分を受けたとすればはなはだお気の毒と言わざるを得ない。もっとも香港のネット・ニュースが伝えた中国のテレビ画面では、呂さんの写真の下に「住宅でかなり儲けた」というスーパーが見えているから(写真参照)、そちらの不正が罪状の本命かもしれない。
もしそうだとしても、テニスや漢方の「小圏子」まで問題にするあたり、習近平総書記は党の「核心」に持ち上げられても、なお党内の「小圏子」に戦々恐々としなければならない状況にいるのだろうか。(161204)
      田畑原稿用彩度

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