2016.12.10  中國紙「核兵器を増強する!」と威嚇、トランプ氏は習近平の「旧友」を大使に                                                      ・・・トランプ・蔡英文電話会談の余波続く
    新・管見中国(19)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 アメリカの次期大統領、ドナルド・トランプ氏が台湾の蔡英文総統と電話で会談し、あまつさえ蔡氏を「The president of Taiwan」(台湾総統)と呼んだということから、中國とトランプ氏がかなり本気でやり合うという事態になった。中国紙は「軍事費を大幅に増額して、核兵器を増やす」とまで書いている。このいさかいに弾みがついて武力衝突・・・などということはよもやないだろうが、かたや初めが肝心とベルトをしめるだろうし、もう一方もとりわけメンツにはこだわるタチだから、うかうかしてはいられない。
 事実経過をおさらいしておく。
 発端は12月2日の台湾時間の午後11時(米東部時間同日午前11時)、台湾の蔡英文総統がトランプ氏に当選祝いの電話をかけたのをトランプ氏が受けて、10分ほど話したことだ。その際、蔡氏が「Mr. Trump」と呼びかけたのに対して、トランプ氏は「台湾総統」と応じたという。言うまでもなく、台湾は不可分の自国領土と主張している中国にとって、そこのトップ(中国の言い方では「政治指導者」)がかけた電話をアメリカの時期大統領が受けること自体がけしからんのに、「総統」という、台湾がかってにつけている官職名で呼び返すなどとは言語道断ということになる。1979年に中国がアメリカと国交を結んで以来、こんなことはいまだかつて一度もなかった。

     蔡
                   12月3日『環球時報』電子版より

それから一週間がすぎようとしているが,激震の余波がなかなかおさまらない。もっとも、中国側は南シナ海での紛争についての国際仲裁裁判所の7月の判決に見られるように、強腰一点張りの外交がこのところ壁にぶつかっているためか、当初は王毅外交部長が3日、「台湾側の小細工にすぎない。“1つの中国”の原則は中米関係の健全な発展の基礎だ」と受け流す構えを見せ、外交部の耿爽副報道局長も「すでに米側に厳重な申し入れを行った」とのべて、あとは「世界に中国は1つであり、台湾は中国の不可分の一部である・・・」と公式の立場を繰り返しただけであった。
 ところがトランプ氏のコンウエイ報道官がCNNに「トランプ氏は米国の過去の中国政策を十分に理解している」と語ったことから、事情不案内のうっかりミスという逃げ道は双方ともに使えなくなり、トランプ氏はお得意のツイッターで「アメリカは台湾に数十億ドルも武器を売っているのに、お祝いの電話に私が出るべきでないというのは、なんともおかしなことだ」と確信犯であることを自ら明らかにした。
 こうなると中国も黙っているわけにはいかない。しかし、トランプ氏は今のところまだ一民間人である。そこで連日、『人民日報』系の国際情報紙『環球時報』が登場する。まず3日、「蔡英文・トランプの電話会談と“一つの中国”」というタイトルの社説を掲げた。
 「トランプ(呼び捨て!)が大統領就任前に蔡英文と電話で話したのは、就任後、中国とどう付き合うか、どうしてより多くの利益を得るかの方法を探るためであろう。・・・
 トランプが1つの中国の原則を突破するならば、それは中米関係を破壊し、両国の利益構造と現在の国際秩序をひっくり返す重大な行為である。・・・
 大陸の実力は高速度で増大しており、米国はすでに台湾海峡の主導的な勢力ではない。台湾への決定的な力は外国の支持ではなくて、大陸である。蔡英文がこの構造から出ようとすれば、大陸にはそれに懲罰を加える能力がある」
 蔡英文政権に対する露骨な威嚇である。
 同紙は4日にも「トランプとの対話では台湾当局に懲罰を」という社説を出し、まず「トランプの行動は一種の甘えで、ここで小さな得点を上げて、今後の中米関係でより大きな利益を得るための勢いをつけようとしているのだ」と、トランプ氏を牽制した後、台湾に向けてこう言う―
「中国大陸は台湾と“国交”を持つ国のいくつかを取り上げることができる。蔡英文がトランプと10分間話した代償として、また台湾の民進党当局がこのところ行っている“隠れ台湾独立”への警告として、である。大陸には力がある。この力がひとたび発動されれば、台湾の境遇に対する影響力はアメリカの政策よりもすでに大きい。・・・
情勢の発展によって、必要となれば、大陸は反国家分裂法にもとづいて“台湾独立運動”の軍事部署に打撃を加えることができる。・・・」
この表現が武力行使もいとわないという意味であれば、今世紀に入ってからは聞いたことのなかった強硬姿勢である。
するとトランプ氏はその4日、再びツイッターで南シナ海問題と経済問題を持ち出す。
「中国は南シナ海の真ん中で大規模な軍事複合施設を建設してもいいかとわれわれに了承を求めただろうか。私はそうは思わない。通貨価値を下げることや、中國に入るわれわれの製品に重い税金をかけることについて、われわれの了承を求めただろうか」
選挙中はふれたことのなかった問題をあえて持ち出したのはトランプ氏の意図は分からないが、いかにも中国を挑発しているように見える。
これに対して5日の『環球時報』社説、「トランプは中国という“うまい肉”を切り取ろうと思うな」は正面からアメリカに向かう。
「トランプの態度は、たんにカッとなったものか、それとも考えた上でのことかは、にわかに結論は出せないが、彼のカードの切り方は予測できなかったものだ。・・・
彼が大統領に就任すれば、これまでの何人かの大統領の就任直後に比べて、より突出した衝突が起こることは避けられそうにない。・・・」
米中関係全般の緊張さえ予想のうちと言い出した。
中国側にしてみれば、オバマ大統領は中国がもちかけた「新しい大国関係」という形で世界を分け合おうという提案を一貫して無視し、さらにアジア回帰政策のもと、南シナ海に勢力圏を広げようとする中国の動きに「航行の自由作戦」を掲げて、中国の主張する中国の領海に軍艦を航行させるなど中国の邪魔ばかりしてきた。
それに対して、トランプ氏はビジネスマンだからなにごとも取引(deal)で決着できるはずだし、選挙戦では日本や韓国の自主防衛努力が足りないと不満を漏らしていたから、中国にとっては「話の分かりやすい」相手と踏んでいたふしがある。だから選挙中にトランプ氏がメキシコと並んで中国を貿易上の標的として攻撃しても、さほど意に介せず、11月14日に習近平がトランプ氏と電話で話した際には、習が「協力が中米両国の唯一の正しい選択だ」と述べたのに対し、トランプ氏も米中両国はウインウインを実現できる」と応じ、早期に会談することで合意するなど、まずまずの滑り出しと見えた。
ところがその後、トランプ政権の随所に「ネオコン」と言われる右寄りの強硬派が地位を占めるにつれ、警戒心を高めていた矢先のトランプ・蔡英文電話会談だから、中國側とすれば裏切られたという思いであったろう。
情勢は5日までの『環球時報』社説3連発で一段落かと思われたが、8日、同紙は念を押すような社説「中国は米に対して強硬には強硬でぶつかり、友好には友好で迎える」を載せた。この社説はこれまでの中米関係で、中國は大量の米国産品を買いこむなど、譲歩してきたが、それは双方が相互尊重、意思疎通の基礎の上に実現したものである、と述べた後、「相手が態度を変えれば、こちらも同様の態度に出る」として、次のように述べる。
「中国は来年1月20日以降、米国に“貢ぐ”ことはしない。そんな金があれば、われわれは軍事費の増額にあて、新型核兵器の生産ラインを増やすべきである。2017年度の中国の軍事費は大幅に増額して、東風41の配備を加速し、戦略核兵器の数を大幅に増やすべきである。
われわれはさらに台湾海峡における軍事闘争の準備をより一層真剣に展開し、いつでも“台湾独立”に厳罰を与え、外部からの介入を阻止する能力を現実のものとすべきである。
このほか南シナ海においても、米国のさらなる挑発への備えに万全を期し、南シナ海の波がどれほど高くなろうとも、われわれの力が誰よりも上回る状態を確保しなければならない」
これはアジアにおいて中国が軍事的覇権を確立することを声高に宣言したものである。その中心は台湾の蔡英文政権に「中国は一つ」という原則を受け入れさせることで、もしアメリカがそれを邪魔するなら、真正面から全面的に対決するという宣言である。
一方、トランプ側はその間、6日にアイオア州のブランスタッド知事を中国大使にあてることを内定した。この人は1983年に36歳の最年少知事としてアイオア州知事となり、99まで16年間、その職にあった後、現在再び知事をつとめているが、その間、84年に友好州省関係にあった河北省を州代表団長として訪問、翌年、河北省の地方幹部だった習近平が省代表団を率いてアイオア州を訪問した時にはその接遇にあたり、関係を深めた。さらに2012年、習近平が国家副主席として米国を訪問、再度、アイオアに赴いたときに再会、「古い友人」になったという。

    習近平と
       2012年2月、習近平がアイオア州を再訪し、85年に泊まった家を
       訪ねた際の写真。習の向かって左側がテリー・ブランスタッド知事(新華社)

写真はその時、習近平が85年にホームステイした家を再訪した際のもので、画面で習の左側がブランスタッド知事である。興味深いのは新華社が8日になって、この人事を6枚もの写真を使って大きく伝えたことである。紹介した8日の『環球時報』社説も、その末尾でこの件に触れて、「中国は準備を整えて最悪事態に対応すると同時に、前向きな動きには開放、歓迎の態度でのぞむ。それが中国の長期的な“平常心”である」と述べている。とりあえずこの大使決定を好意てきにとらえているということであろう。
以上がトランプという「新事態」を迎えて、早くも火花を散らした中米関係の現状である。今年5月に発足した蔡英文の台湾に対して、習近平自身も、中国の軍部も、なんとかして「一つの中国」の旗の下に取り込むべく、状況を打破する糸口を探している。その標的にされた台湾は、5月以降、国際的な場面でことあるごとに中国のボイコット圧力を受けている。それは政治色のない国際民間航空協定(ICAO)や国際刑事警察機構(ICPO)、それに世界鉄鋼連盟の総会といったところにまで及んでいる。
これに対して、台湾の蔡英文総統は来年1月8日から約1週間、ニカラグアなど国交のある中米の3国を歴訪する予定を建て、その途中、アメリカを経由する際、大統領就任前のトランプ氏、それが叶わなければトランプ政権での要職予定者との会談の可能性を探っているといわれる。当然、中國側はそれを阻止するべくトランプ陣営と現米政権に強く働きかけるはずだから、そこが米中対決の次の山場となるであろう。
すべてが不透明な中で新しい年はスタートする。その中で台湾海峡がにわかに荒れ始めることのないよう祈るしかない。(161207)
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