2016.12.22 動作動詞と状態動詞
put on (動作)と wear (状態)の違いを検討する

松野町夫 (翻訳家)

英語の動詞は動作動詞と状態動詞の2種類に分類できる。おもに動作を表す動詞を「動作動詞」と呼び、おもに状態を表す動詞を「状態動詞」と呼ぶ。動作動詞は進行形(be + ~ing)にすることができ、進行形にすると、その動作の継続・反復など一時的な状態を表すようになる。状態動詞は通常、進行形にしない。というか、もともと状態を表しているので進行形にする必要がない。

動作動詞と状態動詞の区別は日本語にはない。日本語には状態動詞という概念がない。だから私たちは、英語動詞における動作と状態の違いをなかなか理解できない。しかし両者を区別できないかぎり、和文英訳はできない。そこでここでは put on (動作動詞)と wear (状態動詞)を比較・検討し、動作と状態の違いを理解する手助けとしたい。ちなみに、動作動詞 (dynamic verbs) と状態動詞 (stative verbs) を動詞ごとに分類した英和辞書は少ないが、『ジーニアス英和大辞典』は各動詞の意味ごとに動作 [D] と状態 [S] を分類している。

put on と wear の違い

put on はその場で「身につける」という動作を表し、wear は「身につけている」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがある。このことはメリアム・ウェブスター英英辞典の定義を見れば一目瞭然である。

put on = put something on your body. (何かを体につける → 身につける)
wear = use or have something on your body (着用する、または身につけている)

put on の定義で使われている put は、「置く」という動作を表す動詞で、状態を表すことはない。
しかし wear の定義で使われている2つの動詞のうち、have は「身につけている」という状態を表し、use は「使用する(=着用する)」という動作を表す。つまり、wear は「身につけている」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがある。

put on = 「身につける」 → 動作

急いで!上着を着なさい。 → 動作
Hurry up! Put on your coat. (*Wear your coat. はダメ)

彼女は上着を着て外出した。 → 動作
She put on her coat and went out. (*She wore her coat and went out. はダメ)

彼は眼鏡をかけた。 → 動作
He put on glasses. (*He wore glasses. はダメ)

wear = 「身につけている(have)」 → 状態

彼は眼鏡をかけていた。 → 状態
He wore glasses. (*He was putting on glasses はダメ)
= He was wearing glasses.

いいセーターを着てますね。 → 状態
What a nice sweater you're wearing! (*you’re putting on. はダメ)

私は5年間同じスーツを着ている。 → 状態
I've worn the same suit for five years. (*I’ve put on ... はダメ)

彼女はジーンズとピンクのTシャツを着ていた。 → 状態
She was wearing jeans and a pink T-shirt. (*She was putting on ... はダメ)

一般の英和辞書にはたいてい、「身につける」「着る」「はく」「かぶる」などの動作には put on を用いる、と説明する。しかしこの説明は不完全で、「身につける」「着る」「はく」「かぶる」などの動作には、文脈により put on または wear のいずれかを用いる、とすべきだと私は思う。現行の説明では、たとえば次のような和文英訳には役に立たないどころか、かえって混乱を招く。「かぶる」「履く」「かける」「着る」「つける」という動作にいずれも wear が使われていることに留意してください。

wear = 「着用する(use)」の用例

屋外では帽子をかぶりなさい。 → 動作
Wear a cap outdoors. (*Put on a cap outdoors. はダメ)

私はふだん眼鏡はかけません。 → 動作
I don't wear glasses. (*I don’t put on glasses. はダメ)

何かを読むときは眼鏡をかけます。 → 動作
I wear glasses for reading. (`I put on glasses for reading. はダメ)

結婚式には何を着て行ったらいいかしら? → 動作
What should I wear to the wedding? (*What should I put on ... はダメ)

代表者は全員、バッジをつけなければなりません。 → 動作
All delegates must wear a badge. (*All delegates must put on a badge. はダメ)

葬式のとき、日本人は黒い喪服を着る。 → 動作
At funerals, Japanese people wear black. (*put on black clothes. はダメ)

しかし韓国では、故人の家族は白い喪服を着る。 → 動作
But in Korea the family of the deceased wear white. (*put on white clothes. はダメ)

このように、「かぶる」「履く」「かける」「着る」など「身につける」という動作を表す日本語の動詞は、英訳すると、文脈により put on または wear のいずれかになる。「身につける」 = put on or wear。
これは日本語の動詞からは put on と wear の違いを区別できないということを意味する。

それでは put on と wear の違いを見分ける決め手は何か?決め手はその動作にかかる時間だと私は考えている。 put on はほとんど時間がかからず瞬時に完結するが、wear はある程度の時間、持続する。翻訳の際、put on か wear かで判断に迷ったとき、私はその所要時間で判断する。たとえば、

A. 帽子をかぶりなさい。 Put on your cap. 
B. 屋外では帽子をかぶりなさい。 Wear a cap outdoors. (*Put on a cap outdoors. はダメ)

A と B両方とも帽子をかぶることにかわりはないが、B では「屋外では」 (outdoors)」という語(句)が付加されている。こうした付加語の有無により所要時間は異なる。単に、「帽子をかぶりなさい」は、その場で今すぐ帽子をかぶることを意味し、瞬時に完結するので put on、一方、「屋外では帽子をかぶりなさい」は、その場で今すぐ かぶるわけではなく、屋外では帽子を着用する(use)という動作を表し、ある程度の時間、持続するので wear となるという次第。ちなみに「結婚式では」や「葬式のとき」などは付加語。

put on はその場で「身につける」という動作を表すので動作動詞。一方、wear は「身につけている(have)」という状態を表す場合と、「着用する(use)」という動作を表す場合の2通りがあるが、おもに状態を表すとみて状態動詞と分類される場合が多い。状態動詞は通常、進行形や命令形にしないが、wear は進行形や命令形で頻繁に使用される。その場合、wear は「着用する(use)」という動作を表していると解釈すれば合点もいく。

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