2016.12.26  もうひとつの火種――台湾海峡を忘れるな
    ――八ヶ岳山麓から(207)――

阿部治平(もと高校教師)

まだ日本では本格的に取り上げられないが、台湾に民進党蔡英文政権が成立してから、中国ではいままでになく台湾の「武力解放」をめぐる議論が盛んになった。とくに蔡英文総統が次期アメリカ大統領のトランプと電話で話をしたことが明かになってから、中国上層の議論は凄みを帯びてきた。
いわずもがなのことながら、台湾の民進党は国民党の圧政・暴政が生んだ政党で、台湾独立をめざしている。大陸中国すなわち中国共産党は民進党綱領の独立条項に対しては、「民族を分裂させ、国土を売り渡す陰謀」として激しく非難してきた。――「民族分裂」というのはそれなりにわかる。「国を売り渡す」というのは誰に売り渡すというのだろうか。

2008年台湾に国民党馬英九政権が発足し、新しい国共合作が期待できそうな時期には、中国政府内のタカ派は非主流であった。解放軍少将で海峡両岸関係協会副会長を担当した王在希は、かつては実務派を自称し「両岸関係は長い平和の時期に入った。タカ派人物はごく少数」などと発言したから、かれもまたハト派に見られていた。だが、本年12月にいたって、人民日報系の環球時報の年会で次のように台湾情勢を語った際には、武力統一を論じでいる。

――台湾の政権は李登輝時代まで日米反中国勢力の代理人だった。「台独(台湾独立)」勢力はそれに利用されていた。だが民進党が政権の座についてからは、指導者が蔡英文であろうがなかろうが、「台独」の勢いは止めようがなくなった。彼らは(口では)現状維持を望んでいるというが、本音は両岸の平和的発展でも「統一せず独立せず」でもなく、「台湾の分離独立」である。
一方いまや国民党は台湾で大政党の地位を失い、民進党を有効に抑えることができない。「台独」勢力をコントロールできるのは、とりもなおさずわが大陸中国である。
いま民進党は「立法院」の多数を占め、最高裁判所判事も「台独」になったから、「改憲」あるいは「憲法解釈」を立法府を通過させるといった方法で、台湾の独立を謀るかもしれない。これは陳水扁時代にも試みられたが、あのときは挫折した。だが、今日トランプの登場によってアメリカの対中国政策が(「台独」に有利に)変化する可能性がある。
中国は「和平統一・一国両制」の方針を30年余実行してきた。実利を得たのは台湾同胞だけで、台湾の民意と政治生態は我々が思うようには変化せず、「台独」勢力がだんだん大きくなってしまった。私の見方では、現状は「台独」勢力の最後の狂瀾である(環球ネット、2016・12・19)。

「最後の狂瀾」は穏やかでないが、これ以上に刺激的なことをいった人物がいる。もと南京軍区副司令員だった王洪光中将である。
「台湾海峡では、2020年前後に一戦を免れない。解放軍は開戦後100時間足らずで台湾の武力統一に成功する」
「大陸からは台湾にむけてすでに(一国二制度といった)十分な善意を示しているのに、トランプと電話会談なんかやる。口では現状維持とか言っているがこれが現状維持か?」「蔡英文はもう危ない橋を渡った。おれたちが遠慮する理由はなくなった」(以下も環球時報ネット2016・10・21)。

王洪光中将は台湾攻略について、その戦略をかなり具体的に語った。
まず台湾海峡の中央線について、解放軍の海軍・空軍がこれを越えて台湾西海岸に接近することは可能であるという。
「台湾海峡の中央線は、双方が協議したものではない。ただの暗黙の了解にすぎない。台湾は数か月前中央線以東(つまり台湾側)で訓練したことがあるが、解放軍は問題なく中央線を越え、台湾の西海岸を制圧し、さらに東海岸をも圧倒できる」
「解放軍の航空機は台湾の防空識別圏を周航するが、台湾軍の戦闘機は飛び立つことはできまい。次に解放軍機は台湾の防空識別圏内に入る。台湾はこれにどう対応するか。その次には解放軍機は台湾島上空を飛ぶ。これは近い将来実現可能だ」
「台湾戦略は一歩ずつ、分散封鎖→緊密封鎖→重点に対する火力打撃→全面的な火力打撃とすすみ、離島の占拠から台湾本島の占領に向かう。はじめから終りまでこの順序でやってもいいし、中間段階から始めてもいい」

同じく王洪光は、多維新聞ネットの記者の「解放軍は具体的にどの程度の軍を投入する必要があるか」との問いには、「台湾海峡で開戦したら、解放軍は北・南・東・西・中央の5つある戦区のうち、台湾・日本方面を担当する東部戦区を動員するだけで十分だ。これに特種部隊(?)・両栖部隊(?)、空挺部隊、電子対抗部隊、特戦部隊(?)などの特殊部隊を加えれば、日本軍を合わせても完全に制圧することが可能だ」と答え、自衛隊の参戦まで想定している。
武力統一にはどの程度の時間を費やす必要があるか、との問いには次のようにいう。
「そもそも台湾国防部長がそのたび『台湾は数日守れるだけだ』と答えているじゃないか。一般には2週間、最近は1週間以上は持ちこたえるといっている。台湾奪取には、実際には時間単位を使うべきだ。解放軍は100時間以内に戦闘を終る能力がある」(多維新聞ネット、2016・12・19)

彼の発言で非常に奇抜なのは、台湾人の一部と日本人はすでに完全に結託しており、台湾独立後は台湾の「琉球化」である、といっていることだ。かつての琉球処分のように台湾が日本領になるという意味であろう。
さらに奇想天外なのは、台湾制圧後台湾にいる日系人はもっとも強固な「台独」勢力になると判断していることだ。
「1945年日本敗戦時、日本人は30万人が台湾籍に変り、日本統治時代台湾人は600万人で、その内8%の48万人が日本と縁があった。それに先の30万人を加えると80万近い。すでに3世代75年を経過しているから、現在の台湾人口を2300万人とすれば、その内の600万人以上はその末裔である」――まさか!この人は、台湾社会を何もわかっていないようだ。これで台湾統治ができるのか?

以上は解放軍高官の話だから解放軍内では定説であろう。これが現実味を持つことは否めない。だが王洪光は米軍の大規模介入への対処策と、台湾人の大量死という重大な課題について頭が回らない。
台湾大陸委員会主任の張小月は、王洪光の発言が伝えられた19日に「大陸はいつも台湾に『ニンジンと棍棒』というやり方で臨んできた。だが、いかなる脅迫も両岸関係(改善)の助けにはならない。我々は両岸の平和と安定した発展を望んでいる」と声明を発表した。

もちろん専門家のなかには、王洪光とはややニュアンスを異にする意見もある。
さきの王在希少将は、両岸の統一に時間表はなくなった、(平和的な)談判だけで統一するのは完全に困難になったとしながらも、「もし兵を動かして『城下の盟』に持ちこめば、これも一種の和平統一といえる」とも話している。つまり軍事的圧力を背景に降伏を迫ろうというわけである(多維新聞ネット、2016・12・19)。
もっと慎重な意見がないわけではない。中国社会科学院台湾研究所所長周志懐は、将来最も可能性の高いのは、神経戦・心理戦の圧力のもとで両岸の和解が達成されることであるとみている。
「台湾問題の長期性・複雑性・巨大性を十分に認識すべきであり、さらに大きな歴史の流れの中で考慮すべきだ。民進党が登場したからとか、トランプの『わがまま』が登場したからといって、和平統一の可能性は失われたなどと考えるわけにはゆかない」
だが現在、この種のハト派は少数微力である。習近平総書記は、まずこれには組しないだろう。

20年前、1996 年に台湾人による初の総統の直接選挙が行われた。
江沢民政権は優勢だった李登輝を「隠れ独立派」とみて、大規模な軍事演習を行い、基隆沖にミサイルを発射して台湾人民に圧力をかけた。これに対してアメリカは空母2隻を台湾近海に派遣して中国を牽制した。台湾人は李登輝を総統に選び、中国の攻勢に屈しなかった。
だが20年後の今日では話は異なる。中国軍の力量は20年前とは比べものにならないほど向上し、その意気天を衝くものがある。万が一民進党が冒険にはしり、独立宣言かそれに近い行動にでるならば、中国に開戦の好機を提供することになる。そして台湾は中共の統制下におかれ、内モンゴルや新疆やチベットのような新しい国内植民地に姿を変えるのである。

トランプ外交がどうであれ、これから中国は朝鮮半島から南シナ海までを制圧し、アジアの覇者になろうとするだろう。台湾の命運は台湾人民の意志とは別に、中国やアメリカなど各国のパワーゲームによって決まるだろう。

日本は?――日本はトランプであろうがなかろうが、アメリカの尻にくっつくほかありません。オリンピックもあるし。
Comment
21世紀には、いよいよますます「国民国家の正当性・有用性・不可欠性」が問われるでしょうね。存在からも意識からも。
帝国主義的植民地政策や大民族による少数民族への抑圧・収奪の存在を前提に擁護され続けて来た民族自決権や内政不干渉原則なども、ますます相対化、無意味化してくるはずです。
だから、台湾、沖縄などの問題性格や解決策も、そういう国際社会の発展的流れの中で変容してくるでしょう。国民国家への回収政策も分離独立欲求もニセ問題化して行くはずです。

新自由主義政策への国際連帯的対抗が今後発展して行く中で、かつての帝国主義論的世界図式の一掃はもちろんのこと、ポスト帝国主義的な資本の世界展開もその内実が転換され、それと共に次代社会の萌芽が顕現・肥大化してくるのが2030年頃からの人類世界であろうと予測しています。

世界経済における製造業の比重低下や外交・軍事における武力政策(武力自衛政策も含む)の無意味化、つまりは、それらに帰結する人類社会の全局面での社会化の進展は、20世紀と異なる新しい次代社会モデルを必ずや露出させてくるはずです。

21世紀後半こそ、「物質的生産の彼岸にある自由の国」(マルクス)が本格的に到来し始める時代です。

ペシミズムよ、さようなら。
バッジ@ネオ・トロツキスト (URL) 2016/12/26 Mon 12:48 [ Edit ]
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