2017.01.12 危険な世界を歴史の中に見直す年賀状

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

今年も年賀状を友人たちからいただいた。メールで、戦後最悪というべきかもしれない世界と日本について、詳しく心情を書いてくれた年賀状も増えた。
A紙の敏腕記者だったSさんの年賀状には、「ベイルートから度々出かけたシリアの惨状に胸が痛みます。トランプ、プーチン、習近平3悪人時代の世界と日本はいかに。」と添え書きがあった。わたしなら、トランプにゴマすりの抜け駆けをして世界に恥をさらし、プーチンを自分の故郷に迎え、領土問題で点数稼ぎをしようとして惨めな失敗をした、安倍首相も加えたいところだ。
「リベラル21」にも寄稿してもらった金子敦郎さんの年賀状は、ぎっしりトランプ政権の危険性について分析し、“「暴走」の結果、弾劾に追い込まれるなどして任期途中で辞任するという米国の有力ジャーナリストや学者の見方もあります。こちらに賭けます”とあった。わたしは、ウオーターゲート事件で弾劾必至となり、不名誉な辞任をしたニクソン大統領を思い出した。
なかでも、この現在を欧州の歴史のなかで考えた藤野雅之さんの年賀メールに、なぜか、ほっとした。藤野さんは、共同通信で共に働いた元同僚で、文化部長、出版局長も務めた、文化畑の記者だった。長年にわたり沖縄の与那国島で、サトウキビ農家を支援してきた与那国島援農隊の中心的な活動家だった人でもある。ご本人の了承をえて、彼の年賀メールを紹介したい。

▽ジャーナリスト・藤野雅之さんの2017年賀メール

新年おめでとうございます。
 昨年は夏にドイツを3週間旅し、バイロイト、ライプツィヒ、ドレスデン、ハンブルクを訪ね、そのどこもが、先の大戦とその後の70年に関わる時代に向き合ってきたことを感じることができました。
 ナチスの文化的なシンボルとなったバイロイトでは、ナチスに迫害を受けた芸術家に思いをいたすパネルが祝祭劇場周辺にフェスティヴァル史上初めて展示され、リヒャルトの曽孫らが自分たちの歴史に真摯に対している姿を垣間見ることができました。
 ライプツィヒでは聖ニコライ教会で続けられた東ドイツの民主化を求める集会が街頭に出たことが機縁となって、1989年11月のベルリンの壁崩壊につながったのですが、この教会を訪ねて深い感銘を受けました。
 ドレスデンでは、大空襲によって完全に破壊された聖フラウエン教会が、ほんの10年ほど前に元と全く同じ姿に再建されたのを見て、ドレスデン市民の自分たちの文化への篤くたくましい意思を実感しました。
 ハンブルクでは、30年来在住する姪の知人の案内でベルゲンベルゼンの元強制収用所跡を訪ねました。ここはアンネ・フランク姉妹が解放寸前の1945年3月に餓死したところです。
 ドイツは戦争体験を真摯に受け止めて戦後を築き、そこからEUを実現しましたが、今それが厳しい状況に追い込まれているのも事実です。
 またシリアなどからの難民を100万人も受け入れてきたのですが、旧東ドイツ地域で難民受け入れへの反発が強まっています。私が出発する直前にバイエルン州を中心にテロ事件が数件あり、フェスティヴァル事務局から注意を喚起するメールが来たりしたのですが、滞在中はどの都市でも穏やかでした。
特に難民受け入れに積極的だったハンブルクでは朝早く散歩していると、難民らしいアラブの男性たちが連れ立って地下鉄から出て来て、仕事に出かけるのに毎朝出会いました。東洋人の私を見て陽気に挨拶の声をかけて来たりしました。
 それなのに、年末に至ってベルリンで多くの犠牲者を出すテロ事件が起きたのは残念です。
 昨年の英国のEU離脱、米国でのトランプ大統領当選、フランスなどでのテロ続発、今年は欧州各国で予定される国政選挙、中国の南シナ海進出、TPPの破綻、そして身近では沖縄での辺野古基地・高江ヘリパッド強行建設問題など、さらに世界的な貧富の格差拡大と人々を2分する不穏当な動きが一層激しくなりそうです。
 こういう時代の動きに対するこちらの精神及び体力を養うことにもつながるのでは、と1昨年に続けて去年も地域の第九コンサートの合唱に参加しました。新日フィル、プロのソリストを迎えてのパフォーマンスは稽古も大変でしたが、充実感もありました。今年も参加したいと思います。
 与那国島援農隊が終わって2年が過ぎ、今年は2年ぶりに島を訪ねたいとも願っています。
 ところで、坂井さんはクルドに関心が深いようですが、私もクルドには親近感があります。前に話したかもしれませんが、クルド人の美的な感性には独特のものがあり、それに共感するからです。
このメールを以って年賀の挨拶に替えさせていただきます。
藤野雅之

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