2017.01.14 知覚動詞(perception verb) その 1
知覚における動作と状態の違いは「意志」の有無で判断する

松野町夫 (翻訳家)

人間は目や耳、鼻、舌、皮膚などの感覚器官を通して対象を知覚し脳で認識する。知覚とは、感覚器官を通して対象を把握すること。西周(1829-1897)が Joseph Haven の著 “Mental Philosophy” 邦訳『心理学』 を翻訳した際に perception の訳語として「知覚」という語を案出した。知覚 = perception。ちなみに perception は元来、「完全に(per)つかむ(cept)」を意味するラテン語。

知覚には五感で感知する身体的知覚(see, hear, smell, taste, feel)と脳で認識する精神的知覚(notice, understand, think, believe, know, remember)があるが、実際には両者は複雑にからみあって一体となって機能する。知覚動詞は「見える」「聞こえる」のように、五感で感知する身体的知覚を表す。感覚動詞(sensory verb)ともいう。以下の 8つの動詞はすべて知覚動詞:

視覚 → see,look at, watch
聴覚 → hear,listen to
触覚 → feel
嗅覚 → smell
総合 → notice(目や耳、鼻、舌、皮膚、その他の感覚を通して対象を知覚する)

知覚に関連する動詞は日本語にもある。「見る」「聞く」「感じる」「においがする」「気づく」など。これらの動詞は日本語では動作を表し、特に変わったところもなく、取り立てて言うほどのこともない。

しかし興味深いことに英米人の感覚では、知覚には動作を表すものもあれば、状態を表すものもあるという。知覚動詞における動作と状態の違いは、「意志」の有無で判断する。知覚動詞のうち、see(見える), hear(聞こえる), feel(感じる), smell(においがする), notice(気づく)は瞬時に感知する非意志的行為、すなわち状態動詞であるのに対して、look at, watch,listen to は意志にもとづく動作を表す動作動詞となる。

■状態動詞 (stative verbs) → 通例進行形にしない
see, hear, smell, feel, notice (非意志的行為)

■動作動詞 (dynamic verbs) → 進行形にできる
look at, watch,listen to (意志にもとづく動作)

いったい英米人は知覚に関する動作と状態をどのように区別しているのだろうか?
そこで、知覚動詞の代表格である see を通して、知覚における動作と状態の違いを具体的にみることにする。メリアム・ウェブスター英英辞典では see の原意を次のように定義している。

see = to notice or become aware of (someone or something) by using your eyes
筆者訳: see は「目で(人やものに)気づく」こと。

see の定義で使用されている動詞、notice や、動詞句 become aware of は両方とも「気づく」という動作を表す。状態ではない。「気づいている」という状態には、be aware of を使うのが普通だ。 become は動作動詞、beは状態動詞。 see は状態動詞なのに状態ではなく動作を表している!? 日本人の感覚では一見すると矛盾するような気がする。しかし「気づく」という動作は、よく考えてみると、外面的な動きではない。それは内面的な心の動き、いわば静的な動きであり、その実態は動作というよりも、限りなく状態に近い。英語ではこうした心の動きを表す動詞、たとえば、notice, understand, think, believe, know などは、すべて状態動詞とみなす。

see にはさまざまな意味がある。OALD7英英辞典は see の意味を18項目、メリアム・ウェブスター英英辞典は17項目、MED2英英辞典は11項目、LAAD2英英辞典はなんと50項目にそれぞれ分類している。ここでは、コンパクトなMED2英英辞典の11項目を紹介し、筆者の参考訳と状態か動作かを追記する。

1. notice with eyes 気づく、見る → 状態
 a. able to use your eyes (目が)見える → 状態
 b. watch something(映画・芝居・公演などを)見る、見物する → 状態
 c. look at something(確認するために)見る → 状態
2. meet or visit someone 会う、訪問する → 動作または状態
 a. meet by chance(偶然に)出会う → 状態(無意志)
 b. meet by arrangement(約束して)会う → 動作(進行形にできる)
 c. spend time with a friend 逢う、交際する → 動作(進行形にできる)
3. look up information 参照せよ → 動作(命令形のみ) 例: see above(上記参照)
4. understand something 理解する → 状態
5. consider particular way (ある見方で)みる → 状態
6. imagine someone/something 想像する → 状態
7. find something out (様子を)みる、考えてみる → 状態
8. experience something 経験する → 状態
9. happen somewhere ある時代・場所が事件・事態を目撃する → 状態
10. go with someone somewhere (面倒を)みる、付き添う → 状態
11. bet same amount 同額を賭ける → 状態

日本語の「見る」にもさまざまな意味がある。たとえば、みる(見る 視る 観る 診る 看る)。日本語大辞典は「見る」の意味を11項目、広辞苑は 5項目、岩波国語辞典は 6項目、旺文社全訳古語辞典は8項目に分類している。ちなみに、日本語大辞典の「見る」の意味を以下に列挙する。

みる【見る】 《語幹と語尾に分けられない》
1. 目で知覚する。see; look at; <用例>~と聞くとは大違い。
2. 観察する。observe; watch; <用例>~人が見たら。
3. 事態・情況を判断する。regard...as; judge; <用例>法律からみれば。
4. 読む。目を通して調べる。read; look over; <用例>新聞を~。
5. 見物する。鑑賞する。visit; see; <用例>映画を~。
6. 占う。read; <用例>運勢を~。
7. 仕事や人の世話など責任をもってする。care for; <用例>めんどうを~。
8. 見つもる。estimate; <用例>1日5マイルとみて。
9. 経験する。see; <用例>痛い目を~。
10. 物の質、人の意志や気持ちなどをためす。try; <用例>切れ味を~。
11. 物事がある状態になる。 <用例>夢の実現を~。

「見る」と seeについて、意味は共通する点が多い。しかし用法はかなり異なる。
日本語では、万物(映画・芝居・公演・パレード・テレビ番組・試合・新聞・雑誌・鳥・動物・草・木・花・物品・天・空・星・山・海・川など)を「見る」ことができる。日本語の「見る」は基本的に動作を表すので、たとえば、「今、映画を見ているところです」と、すべて「見る」という一語で一律に進行形で表現できる。

英語でも万物を “see” できる。You can see everything. 実際 see は動くもの、動かないもの、何にでも使える。ここまでは日本語の「見る」とほぼ同じ。しかし英語の see は基本的に状態を表すので通例進行形にできない。進行形にする場合は、動作動詞の look at, watch, read などを使う必要がある。たとえば、「今、映画を見ているところです」のつもりで、*I am seeing a movie now. はダメ。 I am watching a movie now. ならOK。

動かないものを見るときは look at、動くものをある程度の時間見るときは watch、新聞や雑誌を見る(読む)ときは read を使って、I am looking at flowers.; I am watching TV.; I am reading a newspaper. というように表現する。また、動くものであっても短い時間見るときには look at を使う。
He is looking at his watch. 彼は時計を見ています。*He is watching his watch. はダメ。

Comment
本当にSeeには様々な意味と使い方がありますね。
seeとwatchで気になったのが、私のイメージでは
seeは映画を見るときに、そしてwatchはテレビを見るときに使う
とゆう感じでいましたが、そうとは限らないのですね。
tora (URL) 2017/01/17 Tue 21:18 [ Edit ]
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