2017.01.23 アフガンに手を伸ばすプーチンのロシア
―英BBC「新グレート・ゲーム」と指摘

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

シリアでアサド政権を強力に軍事支援してきたプーチンのロシアが、内戦状態が再び悪化しているアフガニスタンへの影響力拡大に動き始めた。
英紙フィナンシャル・タイムスは13日、アフガニスタン情勢の報道で国際的に最も信頼されているパキスタンのジャーナリスト、アハメド・ラシッドの「モスクワはアフガニスタンの真空状態に付け込む」と題した記事を掲載した。ラシッドはこの分析記事を「ソ連がアフガンのムジャヒディン(武装勢力)に打ち負かされ、赤軍の屈辱的な撤退によって10年間に及ぶ占領が終わって以来、ロシアはこの地域から引き下がっていた。しかしいまロシアは、この地域での影響力を競う戦いに熱を入れ、その地位を再建しつつある」と書き出している。
また、英BBC電子版は1月12日「世界の大国がアフガニスタンでの新“グレート・ゲーム”を争いだした」と、カブール発の署名記事で詳報した。グレート・ゲームとは18世紀から19世紀初頭にかけての、英帝国とロシア帝国の中央アジアでの覇権争いのこと。同紙は「アフガニスタンへの戦略的視野が変化しつつある。この地域の諸国はタリバンとの関係を見直し、新“グレート・ゲーム”ともいえる視野の中で互いに競いあっている」と分析している。
どちらも同じような視点から、米国中心のアフガニスタン再建が政治的にも、軍事的にも行き詰まり、オバマ政権の関心が冷める一方で、ロシアが活発に動き出し、タリバンとの接触を始め、タリバンの事実上の保護者のパキスタンだけでなく、イラン、インド、中国までも巻き込んで、アフガン紛争解決に乗り出してきたのに大きく注目したのだ。

2001年のアフガン戦争で、米軍をはじめとした多国籍軍によって偏狭なイスラム主義のタリバン政権が壊滅。10万人超の米軍中心の国際治安支援部隊(ISAF)が駐留して、カルザイ大統領の政権によるアフガン再建を軍事的、経済的に支援してきたが、パキスタンに逃れたタリバン勢力も再建されて、アフガン国内に越境攻撃をするようになった。それでも04年から14年にかけてのカルザイ政権の間は、国家再建が徐々に進み、タリバンの武装攻撃も限られていた。このためISAFは14年末までに撤退を完了、最終的に1万2千人となった米軍だけが残留し、政府軍を支援する態勢になった。同年に行われたカルザイの後継者の選挙では二人の候補者の対立で混乱し、2回の選挙と米国の必死の調停工作でやっと親米色の強いガニ大統領の政権が発足した。しかし、カルザイ政権と違い、ガニ政権は指導力も弱く、国民の支持も低かったため、タリバンの攻勢が急増し、支配地域が増加しだした。
タリバンは、カタールの首都ドーハに連絡事務所を設け、和平交渉のルートを開いた。米国はアフがニスタン政府、パキスタンに中国も加えて、和平協議を開く(最近は2016年1月)など、再三にわたりタリバンとの交渉による解決を探ったが、タリバンの最高指導者オマルの死亡による指導者の交代もあって、タリバンとの直接交渉は全く前進していない。
ロシアは、1989年のソ連軍全面撤退以来、90年代の内戦でタリバンの対抗勢力「北部同盟」を支援した以外にはアフガニスタン問題に関われなかった。タリバン政権崩壊後もロシアはアフガニスタンの内戦解決への和平交渉から事実上疎外されてきた。そのロシアが、動き出したのだ。モスクワから見ると、アフガニスタン内戦に対する米国の政策は、政治的にも、軍事的にも行き詰まっている。オバマ政権も末期には、アフガン内戦終結への関心を失っていた。ロシアにチャンスが回ってきたのだ。
すでに2015年12月、ロシア外務省の有力外交官が、中東で急成長しアフガニスタンにも手を伸ばしてきた偏狭なイスラム過激派「イスラム国(IS)」との戦いで、「タリバンとわれわれの利害は一致している。タリバンとロシアは情報を交換するチャンネルを開いている」と発言した。タリバン側も、タリバンの代表がロシア国内とほかの国で過去2年間に数回会談したことを確認した。
その後もロシアとタリバンの接触が続いた。また、昨年12月には、ロシアの主催でパキスタンと中国の代表を招いて、アフガニスタンから中央アジアに拡がるテロの脅威についての協議が行われた。そこでは、「イスラム国(IS)」との戦いでタリバンをどのように役立てるかが討議されただけでなく、アフガニスタンでの内戦を終わらせるためのタリバンへの働きかけについても話し合われたとみられている。この会議に招かれなかったアフガニスタン政府のガニ首相は激怒した。ガニ首相は、米国のトランプ次期大統領が、アフガニスタンを見捨てるのではないかと恐れているという。しかし、トランプは、アフガニスタンの新任大使として、タリバン政権時代からアフガニスタンにかかわり、米国の政策に最も影響を与えてきたハリルザード元国連大使を選んだ。それは、トランプがアフガニスタンを見捨てないことを示しているとの見方もある。

シリアのアレッポ制圧作戦で、ロシアはシリアのアサド政権を軍事支援。シリア軍とともにアレッポを完全包囲して激しく砲爆撃、このシリア最大の都市で市民多数を殺傷し、反政府勢力を追い出した。最終段階の停戦協議には、これまで繰り返されたシリア和平会議を主導した米国は招かれず、ロシアが主導し、アサド政権と一部の反政府勢力、トルコ、イランが参加した。アフガニスタンでも、このような成功をプーチンが目指していることを、最近のロシアの行動が示している。国連と米・欧に代わり、ロシア主導で、ロシアと友好関係にあるイラン、インド、中国、中央アジア諸国などを招くアフガン和平会議だ。プーチンが目指すのは、ロシアの覇権の下でのこの地域の安定だろう。英国のメディアが新“グレート・ゲーム“だというのは当たっている。

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