2017.01.27 ツキノワグマとの共生を求め続ける
―NPO法人信州ツキノワグマ研究会の仲間たち

坂井定雄(龍谷大学名誉教授)

すでに紹介したことがありますが、NPO法人信州ツキノワグマ研究会を改めて紹介します。この1月に機関誌71号が出て、編集者の一人、林秀剛さんから送られてきたからで、イスラム教徒やメキシコ移民との共生を壊そうとするトランプ新政権が米国で発足したからではありません。ご存知の通り、私たちのリベラル21が掲げている3本の柱は「護憲、軍縮、共生」です。
信州ツキノワグマ研究会は、主に長野県在住のツキノワグマ生態研究者あるいは友人たちの活発な研究会。年2,3回発行の機関誌には、ツキノワグマの生態と住民との関わりのリポートが、ぎっしり詰まっていて驚きます。71号は20ページですが、うち1~3ページをすこし短縮して、ここに紹介します。

NPO法人 信州ツキノワグマ研究会
信州ツキノワグマ通信
Newsletter of Shinshu’s Black Bear
No. 71, 2017.01.05

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あるとき遠くにクマが登っている杉の木を見つけ、根元で待ち伏せしたことがあります。クマの姿は真下からではまったく見えません。「じきに降りてくるだろう」と思っているうちに5時間が経過。もしかすると木を見誤ったかと思い、再確認のためその場を離れた瞬間、クマがダダッと降りてきました。野生動物が人間を探知する能力と辛抱強さにはかないません。(澤井俊彦氏/写真家)

2016年長野県クマ人身事故状況
岸元 良輔(信州ツキノワグマ研究会)

2016年は、秋田県鹿角市で春にツキノワグマによる死亡事故が続いたために、全国的にクマの出没や人身事故が話題になりました。では、長野県での2016年の人身事故の状況はどうだったでしょうか?
長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室で聞いてきたところ、12月現在で人身事故は9件(被害人数は各件1人で計9人)で、例年並みとのことでした。以下、その内容について紹介したいと思います。

1. 過去の人身事故の推移

まず、人身事故が例年並みとは、どれくらいの被害人数を指すのでしょうか?これまでの毎年の人身事故に遭われた人数をみてみましょう (図1)。
実は、20年以上前は年間1~2人で、多くても3人でした。まったく事故がない年もあります。ところが、1994年頃から人身事故が増える傾向にあります。特に、大量出没が起きた2006年・2010年・2014年は突出して多くなっています。2008年は大量出没ではなかったにも関わらず、10人を超えています。それ以外では、最近は6~9人の年が多く、これが例年並みといったところです。
では、なぜ最近になって人身事故が増えてきたのでしょうか?これは、おそらく、里山が放置されてクマの生息地がだんだんと低標高に広がってきて、人とクマが遭遇する機会が増えたからだと思います。ちなみに、長野県での死亡事故は2004年に1件、2006年に2件起きています。

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図1.長野県のツキノワグマによる人身事故の被害人数の推移
(長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室資料より)

2. 2016年の人身事故状況

さて、2016年の人身事故は8月までに3件だったので、今年は少なめに推移するかなと思ったのですが、9月に2件、10月に4件と秋に事故が続いてしまいました(表1)。特に、キノコ採りで事故に遭われた方が多かったようです。これについて、長野県の担当者は、今年はマツタケが豊作でキノコ採りに出かけた人が例年より多かったのではと推測しています。また、コナラの堅果が豊作の傾向にあり、コナラが生育する標高の低い地域を多くのクマが徘徊したためではないかとのことです。いずれにしても、2016年の人身事故はほとんど山林内で、人がクマの生息地に入り込んでの事故でした。一方、1件は飯山市瑞穂地区の集落内で、住宅の庭で事故が起きています。この地区は、クマに限らず野生動物の被害が多いために、林縁部に防護柵が広い範囲に張られているのですが、それでもクマが入り込んだようです。生ごみなどクマを誘引する原因が住宅や農地周辺にないか、もう一度、集落全体でチェックする必要があるでしょう。

今回の人身事故のもう一つの特徴は、特定の地域ではなく、全県に散発していることです。クマに出会っても襲われることはまずありませんが、偶発的に事故につながることがあります。長野県の山林はどこでもクマが生息しているので、入山者は常にそのことを認識して、鈴などを携行したり、クマが潜むようなヤブからはできるだけ距離をとったり、山林内では走らないなどを心がけることで、少しでも偶発的な事故を避けることができます。

表1.長野県のツキノワグマによる人身事故の被害人数
(2016年12月現在/長野県林務部鳥獣対策・ジビエ振興室提供)
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クマは木から落ちる?
林 秀剛(信州ツキノワグマ研究会)

11月24日、全国で早すぎる初雪だより。こんな日に、もの好きにも、星野さんと安曇野市穂高の浅川山でクマ棚調査をしてきました。クマ棚の調査は、長野県の生息状況調査として始まりましたが、クマ研として関わったのは2005年から。その後、継続が大事と、自発的にいくつかのルートで調査を続け、10年目になります。クマの大量出没との関係もいろいろと見えるようになってきましたが、まだ大量出没の「予測」につながるかどうかはわかりません。今年の浅川山には、コナラの棚は、たくさんありましたが、ミズナラはさっぱり。これは何を意味するかは、星野さん、濱口さんが解析中ですので、そのうち報告されることを期待します。
クマ棚は、しばしば、とてつもなく高いところに作られています。私はごく最近まで、クマは高い木に登るのが好きなんだ、景色の好いところで食事するんだ、と思い込んでいました。不勉強を反省!

「通信」No.64(2015年1月)に、大町市の調査結果を「速報」として報告しました(林・星野、2015)が、これまでの調査結果を整理してみると、ドングリが豊作の年にはあまり棚を作らない傾向がありそうです。クマは好き好んで高い木に登るのではないようです。高い木に登り、餌獲得の競争に負けまいと、必死に冬眠の準備をするのでしょうね。
高い木に登るということは、落ちるというリスクを負うことにもなるわけです。野生のクマが木から落ちて死ぬことについて、20年前に議論したことを思い出しました。「通信」No.8(1997年2月)に、星野さんが書いた“ダイゴローはなぜ死んだ?”という記事があります。北アルプスで捕獲されて追跡していた92㎏の立派な雄ダイゴローが死んだことについて、激論?!を闘わせた記録です。議論の一部を転載してみます。皆さんは、どうお考えですか?
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