2017.02.01  トランプ大統領を評価するオリバー・ストーン監督
          トランプ=プーチン関係はどう展開するか

伊藤力司 (ジャーナリスト)

ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国第45代大統領に就任してからもう10日余り。この間メディアを通じて伝えられる米大統領のイメージは、老いた悪ガキが「アメリカ第一」を喚き立てるという、エゴイズムむき出しの醜態である。アメリカの大統領らしい品位は全く感じられない。大統領就任式の翌日、世界中で女性を先頭に500万人が抗議デモを展開したのもむべなるかな。

ホワイトハウスの執務室からは連日のように、メキシコ国境に長大な壁を建設、TPP(環太平洋連携連携協定)からの永久離脱、イラン、イラク、シリアなどイスラム圏7カ国からの移民・難民の入国拒否、オバマケア(オバマ前大統領が制度化した医療保険制度)の撤廃等々の選挙公約を実行するための大統領令に、トランプ大統領が署名する姿がマスメディアに公開された。

メディアが振り撒くトランプ氏のマイナス・イメージの中でアッと思ったのが、1月24日朝日新聞朝刊に載ったアメリカのアカデミー賞映画監督オリバー・ストーン氏のインタビューだ。同監督と言えばアメリカのベトナム戦争の悲劇を描いた「プラトーン」や「JFK」「ニクソン」などを作った反権力・リベラルの映画人だ。そのストーン氏が「アメリカにとってヒラリー・クリントンよりドナルド・トランプの方が良かった」と言っているのだ。

ストーン氏はこのインタビューで語っている。「ヒラリー・クリントン氏が勝っていれば危険だったと感じていました。彼女は本来の意味でのリベラルではないのです。米国による新世界秩序を欲し、そのためには他国の体制を変えるのがよいと信じていると思います。ロシアを敵視し、非常に攻撃的。彼女が大統領になっていたら世界中で戦争や爆撃が増え、軍事費の浪費に陥っていたでしょう。第3次大戦の可能性さえあったと考えます」

「トランプ氏は『アメリカ・ファースト(米国第一主義)』を掲げ、他国の悪をやっつけに行こうなどと言いません。妙なことではありますが、この結果、政策を変えるべきだと考える人たちに近くなっています」――トランプ政権下で米国の介入主義は終わりを迎えると? 「そう願っています。米軍を撤退させて介入主義が弱まり、自国経済を機能させてインフラを改善させるならすばらしいことです」

「彼は、イラク戦争は膨大な資源の無駄だった、と明確に語っています。正しい意見です。第2次大戦以来すべての戦争がそうです。ベトナム戦争はとてつもない無駄でした。けれども、明らかに大手メディアはトランプ氏を妨害したがっており、これには反対します。トランプ氏がプラスの変化を起こせるように応援しようではありませんか」

――プラスの変化とは? 「例えばロシアや中国、中東、IS(過激派組織「イスラム国」)への新政策です。テロと戦うためにロシアと協調したいと発言しており、これは正しい考えです」

以上がストーン発言のさわりである。トランプ氏は選挙戦当時から、プーチン・ロシア大統領への評価を公にしてきた。大統領当選後も「プーチン氏が私を評価してくれるということは、アメリカにとって財産だ」と公言している。一方、オバマ時代のアメリカは2014年2月のウクライナ政変を機に、ロシアとプーチン大統領に対する敵視政策を鮮明にしてきた。

プーチン大統領がこの時、ウクライナ領だったクリミア半島をロシア領に編入したことで、西側は2014年にG8(主要8カ国首脳会議)からロシアを外してG7に戻した。さらに西側はロシアに対する経済制裁を発動、折からの石油価格値崩れ時代を受けて産油国でもあるロシアは経済苦境に陥った。こうして米国が主導するNATO(北大西洋条約機構)とロシアは“新冷戦”状態を続けてきた。

だがトランプ大統領は今、ロシアのプーチン大統領と「ウマが合う」ことを公然と誇っている。このトランプ=プーチン関係は“新冷戦”に雪解けをもたらしそうだ。その手始めにシリア内戦の終結が期待されている。オバマ前政権が、多数の自国民を殺害したと非難してきたシリアのアサド政権を残したまま、シリア解決をトランプ=プーチン関係に任せることは、中東におけるロシアの影響力を飛躍的に高めることになる。

トランプ大統領としては、それでもいいと考えているようだ。米国などがアサド政権を倒すために過激派が潜り込んでいるシリア反体制派への支援を続ければ、戦乱はさらに長引く。それよりはシリア内戦を片付け、シリアとイラクに巣食って国際テロの震源地になっているIS(イスラム国)を壊滅させる作戦に取り組むべきだ。それにはロシアの協力も得るべきだしロシアも協力してくれるだろう、というのがトランプ大統領の腹積もりのようだ。

シリアでは昨年12月末、アサド政権側のロシアと反体制側のトルコの合意に基づいて全土で停戦が発効した。これに続いて本年1月23日から2日間、ロシアとトルコが主導する新たな和平協議がカザフスタンの首都アスタナで開かれた。この会議ではアサド政権と反体制派の和平合意には至らなかったが、アサド政権を支持するロシアとイラン、反体制派を支援するトルコの3カ国が停戦を監視し、2月8日にジュネーブで開かれる国連仲介の和平協議を支援するとの合意が得られた。

シリアからは昨年末以来、この停戦合意が明白に侵犯されたというニュースが伝えられていない。もしロシアとトルコを仲立ちとする停戦が今後も継続し、国連仲介の和平協議が進展すれば、中東情勢は転機を迎える。トランプ=プーチン関係が進展して、IS撲滅を目指す米ロ共同作戦が始まるとすれば、ストーン監督の予言は当たることになる。

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