2017.03.18  朴槿恵大統領罷免!
     韓国通信NO519

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)


3月10日、大統領が正式に罷免された。国政の「私物化」が次々に明るみに出て政権の座から引きずり下ろされた。「政変」というより「革命」という名がふさわしい。現職の大統領でも憲法に違反したら「罷免」という韓国人の選択に全世界が驚愕した。
昨年10月以降、20回に及んだ「ローソクデモ」にはソウルを始め、全国「坊坊曲曲(パンバンゴクコク)」(津々浦々)で「男女(ナムニョ)老少(ノーソ)」(老若男女)たち1600万人が参加したといわれる。想像を絶する参加者数、止むことのない非暴力に徹した蜂起は大統領を頂点とする政財界を震撼させた。市民たちは自分たちが「国の主人公」だと確信した。
大統領側の巻き返しにもかかわらず、市民たちは最後まで運動の手を緩めなかった。8人の裁判官のうち3人が反対すれば現職復帰という甘い期待があったようだが、見果てぬ夢に終わった。大統領は謝罪の一言も無く大統領府を後にした。側近をとおして「不服従」の意思が伝えられ、最後まで憲法を認めない朴槿恵に国民は呆れた。

<朝日新聞を読む>
翌日の朝日新聞朝刊は1面、3面、11面。15面を使って大統領罷免を詳しく伝えた。経緯、慰安婦合意への懸念、日米韓の安保協力への不安、次期大統領候補の紹介、韓国社会に生じた深い亀裂、低迷する韓国経済、日韓関係を見つめなおす提言、さらに「考/論」では柳興洙前駐日韓国大使の「日韓関係混乱を懸念」、小針進・静岡県立大教授の「左派系新大統領に高い対処能力を求めたい」というコメントが続いた。
「オピニオン耕論」では紙面の大半を使って、「罷免の底流」というテーマで、慶応大名誉教授小此木政夫氏、劇作家の平田オリザ氏に語らせた。小此木氏は韓国社会の分断を憂え、克服の道は厳しいと断じ、平田氏は文化交流の展望を語った。
これだけ紙面を費やしながら、韓国社会を揺るがした出来事について掘り下げた独自記事が無いことに違和感があった。多数の市民たちが一体何を求めデモに参加したのか。韓国だけの特殊な出来事だったのか。「混乱」「亀裂」「不安」という借り物の言葉からは、冷静に今回の事件を分析・評価する姿勢は見えなかった。専門家の意見でお茶を濁しただけ。韓国民衆の怒りは何だったのか。そこから日本は「学ぶこと」はないのか。韓国市民に対するリスペクト、謙虚さが少しも感じられなかった。
私が読んだのは「朝日」だけである。他の新聞で素晴らしい記事を読まれた方は紹介して欲しい。

<噴出したマグマとそれがめざしたもの>
判決直前に大統領は報道機関の「ねつ造」を主張した。トランプ大統領も「ウソだ! デッチあげだ!」と報道機関を叩いている。安倍首相の報道に対する干渉は人後に落ちない。批判を認めない特異な価値観を彼らは共有しているようだ。ちなみに最新の報道の自由度ランキングは韓国70位、日本72位、アメリカ41位である。
今回の事態には日本人が読み解くべき「不都合な真実」が多くある。韓国を「特殊」のなかに封じ込め、日本とは無縁な出来事と見なし、都合の悪い問題だけを取り上げようとする姿勢だ。大新聞も避ける不都合な真実について考えた。以下は、始まったばかりの韓国の「市民革命」への私なりの期待である。ローソクデモの主張から垣間見えた韓国社会は、人によっては「危険」。考え方によっては、私たち日本人にとって魅力と期待にあふれたものだ。

<韓国が目指す新しい「国づくり」>
◆まず、次期政権は韓国社会最大の懸案である所得格差、貧困問題の解消を真っ先に取り上げるはずだ。金持ち優遇税制の廃止、大企業への増税によって所得再配分をめざす。非正規雇用労働者の正規雇用化も国をあげて取り組むはずだ。どうする日本!
◆セウォル号事件は現在でも韓国民の一大関心事である。人の命が粗末に扱われてきた象徴的な事件と考えられているからだ。真相究明と責任者の厳正な処罰を求められる。わが国の福島原発事故と好一対である。
◆米韓FTA協定によって農業の将来に絶望した農民たちの不満は大きい。FTA協定の見直し、または廃止。日本はトランプ政権との個別交渉によってすべて投げ出そうとしている。
◆言論の自由の回復。北朝鮮の「脅威」を理由に言論・報道が制限されてきた。特に朴槿恵が大統領就任後に強行した統合進歩党の解散、「スパイ防止法」の成立によって市民的自由、政治活動の自由が制限された。野党の反対を押し切って成立した「スパイ防止法」は廃止されるに違いない。「共謀罪」を狙う安倍内閣との類似性を指摘しておきたい。
◆財閥企業と政府の癒着問題が大きな問題として浮上した。サムスングループのトップが逮捕された。今後は経済の民主化が進むはずだ。わが国でも大企業と政府の癒着があらためて問われそうだ。企業の政治献金は明らかな「賄賂」だ。銀行と政府の癒着。何故東京電力を潰さないのか。
◆大統領(政府)は憲法を無視してはいけない。国政を私物化してはいけない。当然のことだ。普遍的な民主主義のルールを冒したために大統領は退陣に追い込まれた。集団的自衛権容認は明らかな憲法違反だ。安保法制(戦争法)を成立させた安倍内閣は韓国なら完全に「アウト」、日本なら「セーフ」。森友学園の国有地払い下げ問題も韓国なら「アウト」。韓国の「風」が日本に伝わるのを恐れている人たちが日本には大勢いる。
◆慰安婦問題の政府間合意は白紙の可能性。日本政府が朴槿恵退陣によって怖れていたのがこの問題だ。当事者抜きの「合意」だったうえに、安倍首相発言「謝罪する気持ちは毛頭ない」発言は日本側が合意をぶち壊したと考えられる。「少女像」の撤去を迫るのはやめたほうがいい。安倍政権となれ合うのが「親日」ではない。これから真摯な交渉を新政権と行う必要がある。新政権を「反日」と警戒しているのは安倍政権だ。
◆米軍THAAD配置も白紙化の可能性。朝日新聞の記事でもTHAAD配置の白紙化で日米韓の安保体制の足並みが乱れると懸念した。韓国全土が臨戦態勢という状況に韓国人はウンザリしている。日本人としても北朝鮮・中国との緊張緩和を目指す新政権に期待したい。
◆韓国は脱原発を目指す。福島原発事故を目の当たりにして、反原発・反核の主張はローソクデモの中心的テーマになっていた。環境問題の取り組みも一層すすむ筈だ。台湾に続いて韓国も脱原発は必至だ。わが国は世界の常識にいつまでも逆らい続けるのか。

<どうする日本>
「混乱」「亀裂」「不安」という評価からは何も見えてこない。1600万人が参加した大衆運動を評価するのは容易ではない。前代未聞のエネルギーの爆発は巨大過ぎて私たちの理解を超えている。今後の予測は難かしいが、私たち日本人は今回の「「市民・民衆革命」から謙虚に学ぶ必要がある。今後の韓国の変化に注視していきたい。

『2・19総がかり行動 -格差・貧困にノー!!みんなが尊重される社会を!-』
韓国人の目に「大集会」がどう映ったか。「静でおとなしい」を連発、退屈そうにしていた。銀座までのデモに参加。4千人あまりのデモだったが、東京電力本社前を黙って通りすぎるデモ行進に私もショックだった。「年寄りの参加者が多いのは素晴らしいことだ」と励まされた。日本から老人を抜かしたら何もなくなりそうな現実を強く感じた。これから韓国の若者たちのエネルギーが日本に伝わるのを期待したい。

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