2017.04.04 こいつぁ見ものだ! 6,7日のトランプ・習会談
新・管見中国(21)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 トランプ政権が発足して最初の米中首脳会談が4月6,7の両日にわたって米南部のフロリダ州で開かれることになったと3月30日、両国政府が発表した。それを聞いた時の感想がこの一文のタイトルである。
 米中両国はGDPで世界の1位と2位を占める大国同士だから、一方に新しい統治者が登場すれば、速やかに首脳会談が開かれるのはむしろ当然である。しかし、今回はそんな一般論ですむような話ではない。なぜなら2人ともなんとか自らの威信を高めなければならないところに追い込まれているからである。それなら2人でせいぜいお互いに相手の顔を立て合えばいいではないか、ということになるが、現状ではそれはほぼ不可能に見える。
 両者の現況を見よう。
 習近平が中国のトップの座、中国共産党の総書記の地位についたのは5年前、2012年秋の同党の第18回全国大会後の中央委員会であった。翌年春の全国人民代表大会で国家主席にも就任して、名実ともに政権党と国家組織のトップを兼ねることになった。
最高指導者として彼が打ち出したスローガンは「中華民族の偉大な復興を実現することが近代以来の中華民族の最も偉大な夢である」というものであった。具体的には中国共産党成立から100年後の2021年に1人当たりGDPを2010年比で倍増させて、国民にまずまずの生活(「小康状態」)を保障し、中華人民共和国が成立して100年後の2049年には世界の先進国の水準に到達することをその夢の実現目標として掲げた。今ではこのスローガンは「中国夢」という3字に省略されている。
 漠然と「中国」と称される広大な土地の上に立つ政権はその威信の程度が版図の大小に直結する。中央政府の力が弱まれば周辺の異民族地域は独立志向を自動的に強める。新疆やチベットや台湾や南シナ海を中国が「核心的利益」として無条件に権利を主張するのはその故である。(そのメカニズムは昨年12月の本欄に書いた)
 毛沢東には抗日戦争、国共内戦に勝利したという大きな威信があった。鄧小平には改革・開放政策の「総設計者」という威信があった。それに続く江沢民、胡錦濤には前の2人にはおよばないにしても、ともかく鄧小平路線を大過なく受け継いで中国を世界第2の経済大国の地位に上らせた実績があった。
 しかし、習近平が権力を引き継いで以降の中国経済はもはや高度成長は望むべくもなく、成長率の傾向的下降を自ら「新常態」と名付けて国民を納得させざるを得なかった。それを埋め合わせるべく台湾の国民党政権に近づき、一昨年には当時の馬英九総統とシンガポールで握手をするところにまでこぎつけたものの、昨年の台湾総統選で民進党の蔡英文総統が誕生してからは台湾との距離は前より遠くなってしまった。
 また根拠不明の「九段線」なるものを持ち出して南シナ海に広大な管轄範囲をつくる努力をしているが、これはASEAN諸国との関係を緊張させ、さらに米の「航行の自由作戦」なる介入を呼び込んでしまった。
 国内では腐敗根絶作戦を展開し、共産党や軍のトップにまで粛清の手を伸ばした。それは国民の喝采は得たものの、こういう刺激策は中途半端に終わらせることはできず、その間、時間とともに刺激効果が減衰する一方で、中級以上の党幹部や公務員の間に不正を疑われるのを恐れて業務に積極的に取り組まないという弊害をも生み出している。
 何よりも不正摘発が進めば進むほど、その対象となった人々が地位の上下を問わず、習近平に深い恨みを抱くことは避けられない。まして中途半端に終わらせれば、これまでの「被害者」がその不公平を声高に叫ぶことになり、収集がつかなくなる。
今秋の第19回党大会を控えて、高級幹部の人事にかつての部下を数多く登用したり、さらには「総書記は2期10年まで」という慣例を破って自らを「主席」の地位につけて永久政権を目指そうとしたりと、かつての毛沢東のごとき個人崇拝の再現を夢見ているかに見えるのは、習近平の威信の高さを示しているのではなく、逆に彼の焦りと危機感の表れと見るべきだと私は考えている。
したがって習近平はトランプとの会談に赴いて(米中首脳会談の経緯からは今回はトランプが中国に出かけるのが順序である)、手ぶらで帰るわけにはいかない。なんらかの成果を国民に見せなければならない。逆にトランプ大統領から通商、為替政策、アジア安保などで荷物を背負わされるようなことになれば、習近平の権威は地に落ちる。第19回党大会を半年後に控えてそんな事態は政権にとって命とりになりかねない。
一方のトランプ大統領はどうか。
こちらも就任わずか2か月で支持率は36%(ギャラップ)と、新大統領のこの時期の平均支持率の6割程度にまで落ち込んでいる。それはそうだろう。選挙戦中の威勢のよさとは裏腹に、中東・アフリカ諸国からのイスラム教徒の入国を制限しようとした大統領令第1号が司法に阻止されて、空振りに終わったのをはじめ、オバマケアの見直し法案は与党であるはずの共和党の保守派に妨げられて議会に提出できずじまい、彼のトレードマークともなったメキシコとの国境に壁を築くという奇策も経費の予算を付けられず、あえなく「絵に描いた壁」となってしまった。公約を果たしたと言えるのはわずかにTPPからの離脱だが、これはまだ始まってもいないものをやめただけである。結局、全米を揺るがせたあの選挙公約の数々は金持ちじいさんのたんなる怪気炎に終わろうとしている。
そこで公約の中でも最重要なものに数えられる「不公正貿易」による貿易赤字解消を目指す大統領令を3月31日に発令した。習近平との会談を発表した翌日である。あたかも習近平を巌流島に呼び寄せる手はずがついたのを確認してから、刀の鞘を払ったかの如くである。
勿論、これは中国だけを相手にしたわけではなく、日本、ドイツ、メキシコなども対象になるだろうが、昨年の米の貿易赤字約7300億ドルのうち対中赤字は約3500億ドル、ほぼ全体の半分を占める。上に挙げた3国はいずれも600億ドル台だから、文字通り桁がちがう。
この大統領令は商務長官と通商代表部代表が90日以内に貿易相手国の高関税や非関税障壁の影響を調査して、大統領に報告し、それを受けて大統領は「必要な法的措置をとって、相手国の不公正貿易を終わらせる」というものだ。勿論、数日後に迫った習近平との会談とは別のタイムスケジュールにのせるものだが、会談で3500億ドルの貿易赤字が話題にならないとは考えられない。
もっとも公平に言って米の対中赤字には、米企業が中国で生産したものを米国内に輸入することで生じたものがかなり含まれているから、一方的に中国を責めるのは筋が通らない。とはいえ、理屈はどうあれトランプ大統領としては目に見える結果を習近平から引き出したいところだろう。
しかし、中國経済は成長も下降ぎみ、貿易も下降ぎみ、3年ほど前には4兆ドル寸前だった外貨準備も今や3兆ドルのラインを上下するところにまで落ち込んでいる状況で、習近平には対米貿易の巨額の黒字をごそっと減らすような約束ができるはずがない。
そのほかにも、南シナ海、北朝鮮など、簡単に「わかった」と手を握り合えそうもない問題が控えている。ともにこの会談で相手を譲歩させることが自分の政治生命を保つために必須という状況にあるだけに、観衆としても思わず力が入る。
それにしても、なぜ今、首脳会談を開くことにしたのか、開けばのっぴきならないことになると予想されるのに、という疑問が湧く。
トランプ時代の米中関係は当初から波乱含みであった。当選直後に台湾の蔡英文総統からのお祝いの電話にトランプ氏が直接応答して、「台湾総統」と呼びかけたことで、まず亀裂が入り、それは年明けの元宵節にイバンカさんが娘を連れてワシントンの中国大使館を訪れて、なんとか解消。その後、トランプ・習の直接電話会談、中國の杨洁篪国務委員の訪米、米のティラーセン国務長官の訪中と手順を踏んで、首脳会談となったものだ。
それにはやはり米中の首脳会談は必要だという判断が双方にあったのであろう。そしてそれは中国側により強かったと思われる。中国はかねて米に対して両国関係を「新しい大国関係」と認めるよう求めてきた。その中身はまず「中国を対等の大国と認める」こと、「新しい」の意味は従来の大国関係は先行大国を新興大国が追撃し、新興大国が先行大国を打ち破って覇権を握るという形だったが、米中両国はその轍を踏まず、平和的に共存しようというものだ。
言葉を変えれば、戦わずに談合で世界を分割統治しようという提案である。つまり中国は米州や欧州には口を出さないから、アジアのことは中国の思うようにやらせてくれという、現状の力関係で言えば、はなはだ虫のいい提案だ。
これに対して、オバマ政権は一貫して取り合わなかった。習近平がいくら「新しい大国関係」という言葉を口にしても、それにオバマ大統領が直接答えることはなかった。思うに習近平には就任直後のいわばどさくさにこの「新しい大国関係」というキーワードをトランプ大統領に認めさせたいのではないか。それができれば彼の「中国夢」は実現に近づく。
うまくいきそうもない米中首脳会談を習近平が急いだのはそのせいではないか、というのが私の推測である。さまざまな具体的難問がどう処理されるかとならんで、この「新しい大国関係」という言葉が双方の発言なり、共同文書なりに登場するかどうか、どういう形で登場するか、これが両国関係のみならず、両首脳の政治的立場に大いに影響するはずである。
さあ、結果がどう出るか、方々、ゆっくり眺めようではないか。

Comment
管理人にだけ表示を許可する
 
TrackBack