2017.04.05 久しぶりに考えた―働くって何なのだろう
韓国通信NO520

小原 紘 (個人新聞「韓国通信」発行人)

「政府は28日、働き方改革実現会議を首相官邸で開き、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の導入を盛り込んだ実行計画をまとめた。正社員による長時間労働など戦後雇用慣行の見直しに踏み込んだ。政府は今年の国会に関連法の改正案を提出し、2019年度からの実現をめざす」 (3/28付日経新聞デジタル版)
また、「安倍晋三首相は同日の実現会議で『日本の働き方を変える歴史的な一歩。17年は出発点と記憶される』と発言」し、テレビ・新聞は「働き方改革」について一斉に報じた。
「歴史的な一歩」と政府が「自賛」する一方、労働側も経営者側も「翼賛」、マスコミは少しだけ問題点を指摘しながら歓迎した。
しかし、今回の議論は、「ワーキングプアー」「超過密・長時間労働」という非人間的な労働の実態とかけ離れた虚飾にあふれたものに感じられた。

<憲法と労働基準法の精神が見えない>
労働基準法が定める1日の労働時間は8時間。時間外労働は例外として認めているに過ぎない。8時間労働によって憲法が第25条で定めた「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を国民に保障するのが政府の仕事のはずだ。多忙月に100時間未満にするかどうかという議論は、一体どこの国の話かと見間違えるほどだった。
「同一労働同一賃金」と「非正規雇用という言葉をなくしたい」という安倍首相の発言は格差是正への期待を持たせる。しかし「国際競争力」「企業の利益」を優先させ非正規雇用労働者を大量に生み出した張本人たちが今更、非正規雇用労働者の待遇改善に取り組むとは考え難い。経営側の人件費総枠維持を前提にするなら、「同一労働同一賃金」「非正規雇用の解消」の実現は正規社員の大幅な人件費削減の道しか考えられない。
憲法と労働基準法を認めようとしない財界と政府の意思は強い。ILO(国際労働機関)条約に定められた多くの重要な条約、1号条約(1日8時間・週48時間制)をはじめ、47号(週40時間制)、132号(年次有給休暇)、140号(有給教育休暇)、111号(雇用及び職業における差別待遇)、などはいまだに批准されていない。今回の「働き方改革会議」は国際基準に背を向け、憲法、労基法の精神からも程遠い「働かせ改革」といってよい。

久しぶりに「労働基準法」を読んだ。戦後、新しい憲法制定とともに教育では「教育基本法」、労働では「労働基準法」「労働組合法」が民主化の一環として法制化された。
労基法(1947/4制定)には「労働時間」「残業」「休暇」「賃金」など経営者が守るべき最低限の基準が示されている。労働行政の核心部分だ。
「スピード違反」「駐車違反」には厳しい取り締まりをするわが国で、全国的に労基法違反の取り締まりを実施したらどうなるのか。官公庁を始め大企業、中小零細企業まで違反の山で大混乱に陥るはずだ。守られない理由は二つ。国が企業に甘いこと。労働者が権利を主張できない、またはしないことにある。
政府は憲法を守れないから変えようとする。同様に守れない労基法まで貶(おとし)めようとしている。こんなことは、認められない。

あらためて労働基準法の冒頭三カ条を書きだしてみた。

(労働条件の原則)
第一条  労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない。
○2  この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。
この第一条は憲法が定める13条(生存権)、25条とかかわっている。人間らしい生活をするための労働条件を求めているのだ。

(労働条件の決定)
第二条  労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである。
○2  労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない。
 つまり、労働条件は「労使対等」の原則で決定されると規定しているのである。何よりも重い原則だ。
 
(均等待遇)
第三条  使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
要するに、同じ仕事をしていたら雇用形態の違い、性差で差別することを禁止しているのだ。こうした規定があるにもかかわらず「働き方改革実現会議」で議論する理由が、私にはわからない。

1日、1カ月、1年の労働時間だけが問題ではない。「休暇が取れない」「残業代が払われない」違法職場はゴマンとある。ヤマト運輸の長時間労働と残業代不払い、関西電力の過労死と残業不払いなどは氷山の一角に過ぎない。「タダ働き」と「長時間労働」の関係。「働き方改革」の論議は的外れに近い。もう一度、私たちは1日8時間労働の原点に帰るべきだ。
さらに出世競争が激しい職場では労基法で定められた最低限の権利すら自主的に返上する傾向さえある。労働組合も見て見ぬふりだ。「働き方改革」はこのような職場実態に踏み込んでいない。
労働基準法を骨抜きにして、労働者に「一身を捧げて国家と会社の為につくす」ことを求めるのが今回の改革実行計画の真の狙いだ。

朴槿恵前大統領がついに逮捕された。容疑は国政の壟断(私物化)、収賄など13の容疑である。お友だちの小学校開校のために国有財産をタダみたいな金額で払い下げたとなれば、事態は韓国と「ソックリ」ではないのか。弱気、わき道に反れそうなマスコミの動きに注意したい。

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