2017.04.06 それ買え、やれ買え、「新区」を買え! 生まれる前に不動産ブーム―中国「雄安新区」の前途やいかに
新・管見中国(22)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 今月1日、中国共産党中央と国務院(政府)は河北省に「河北雄安新区」なる特別区域を設置することを決定したと発表した。そしてこれは「習近平同志を核心とする党中央の重大な歴史的戦略的選択である」と、「習核心」のイニシアティブであることを強調し、広東省の深圳特区、上海市の浦東新区に続く「全国的に意義のある千年の大計、国家の大事である」と伝えた。
 深圳特区は周知のように対外開放の先行モデル地区として設置され、浦東新区は国際空港を中心に大都市・上海を補完する役割を担っている。今回設置が決まった「河北雄安新区」の役割として第1に挙げられているのは北京の中の非首都機能を移転させることで、それによって人口・経済の密集地区における環境を重視したハイレベル開発のニューモデルを探ることが強調されている。
 香港に隣接した深圳、大都市・上海の国際空港を擁する浦東に比べると、「国家の大事」というわりには河北雄安はいまひとつ役割がはっきりしない。それでも初期段階で100㎢、中期目標が200㎢、長期的には2000㎢を目指すと、規模は相当に大きい。
 まあ河北平原のど真ん中にどのような新区ができるのか、これからゆっくり見ることになるが、今回はこの発表があった直後から始まった不動産ブームが興味深いので、それを紹介する。
 『環球時報』といえば、『人民日報』傘下の国際情報紙として他国に厳しい論調で知られる存在だが、珍しく3日の紙面にその不動産ブームのルポを掲載している。以下はそれからの抜粋である。
 その前に新区の場所を紹介しておくと、北京と天津を一辺とする正三角形の南西側の頂点のあたりと言ったらいいだろうか。北東の北京にも、東の天津にも100キロほどの地点にある雄県、容城県、安新県という3つの県を中心とする地域である。
 新華社が伝えた雄県中心部を俯瞰した写真を拝借しよう(下図)。
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 『環球時報』の記者は決定翌日の2日午後に雄県に着いたそうだが、すでに前日の夜には北京、天津ナンバーの車が群れを成して押しかけ、雄県北部では交通渋滞が発生したという。皆、値上がりを見越して現地の家を買おうという人たちである。この人たちはすぐさま地元の不動産仲介業者に殺到した。
 ある仲介業者の言葉、「2日の午前だけでうちの店に来たお客は少なくとも500人、もしかしたら1000人はいたかもしれない。全国各地から来たが、やはり一番多かったのは北京、天津、それから山東省の人だった」。
 記者が直接会った北京から来た投資家の話、「じつは3月29日の夜に新区の情報を聞いた。翌日駆けつけて、ある業者のところで一棟の建物を買う契約を交わしたが、1日の夜、家主が『売らない』と言って、5万元(約85万円)の手付金を返してきた。裁判するわけにもいかないし、どうしようもない。あわてて別の家主と売買契約を結んだが、1日に新区が発表されると、相手は契約を取り消してきた」
 この混乱した状況に雄県政府は2日午前の会議で不動産取引を停止させることを決め、午後、各店舗に通達、業者は入口を封鎖して、店じまいを強いられた。
 
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   不動産業者の店頭から立ち去りかねる風情の投資家たち(『環球時報』)

『環球時報』記者によると、新区設置の情報がもれたのか、この地域の不動産は最近急に値上がりしていたという。中国の建物物件は1㎡あたりの単価で取引されるが、雄県の中古物件は1年前には4,000元(約68,000円)だったのが、去年の4月ごろから上り始め、年末には全県の平均価格が8,000元に高騰。4月1日の新区発表後、中古市場は混乱状態となり、まあまあ良心的な価格で15,000元(約260,000円)にもなったという。
 しかし、実際は多くの家主は値上がりを待って売りたがらない。ある家主は50,000元なら売ってもよいとうそぶいているそうである。
 しかも雄県政府は昨年末以来、建物の売買を禁止した。したがって法律上は取引が成立しても名義の書き換えはできなくなった。それ以降の取引はすべて私的な約束か、弁護士を頼んで証人になってもらうという形で行われているという。
一般には突如、降って沸いたような「雄安新区」。これからどんな狂騒曲が奏でられることやら・・・
じつは私は3月半ば、1週間ほど中国の湖南省に行ってきた。長沙、常徳という都市を見たが、相変わらずのビル(マンション)建設ラッシュだった。しかも一方には完成間近で工事が中断しているものや、完成しているのに入居者のいないビルがあるのに、他方では新築工事が進んでいる。いったいどうなるのだろうと、他人事ながら心配になるほどだった。
中国の不動産市場は一昨年夏に株式市場がこけてから、その資金の受け皿としてバブルが心配されるほどに活気づいている。ただし、それも条件による差が大きく、飛び切り高い沿岸部の一、二線級といわれる大都市ではなく、三、四線級と言われる地方中都市がブームの中心だが、「雄安新区」がそれに一石を投じたことは間違いない。

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