2017.04.10 シリアの影で無難に終わった米中首脳会談、じつは・・・
新・管見中国(23)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 いやお恥ずかしい。今月4日の本欄で「こいつぁ見ものだ!」と触れ太鼓を叩いた6、7日の両日、米南部マイアミで開かれた米中首脳会談。初日の会談最中、現地時間(米東部時間)6日午後8時40分、トランプ米大統領は地中海上の米駆逐艦2隻から巡航ミサイル「トマホーク」計59発をシリア西部のシャイラット空軍基地に向けて発射したと発表した。このため世界の関心は米中間の問題からシリア情勢およびそれを取り巻く力のバランスの行方へと移ってしまい、米中首脳会談はせっかく豪華な舞台が設えられたにも拘わらず見せ場のないままに終わってしまった。太鼓を叩いたものとしては引っ込みがつかない形である。
 米軍がこの挙に出たのは、4日にシリア北部で多数の住民が化学兵器と見られる爆弾で死傷した事件をシリア政府軍の仕業と断定し、その出撃基地を無力化するためとされている。これに対して、シリア、ロシア両国政府は化学兵器の使用を真っ向から否定しており、その真否はわれわれには判断のしようがない。ただこれによって米中関係を考える上で重要なヒントがもたらされたことも確かである。
 それにしても今回の米中首脳会談は期待外れであった。さまざまな対立・矛盾が積み重なっている両国関係について、両首脳がどう考えているかを世界に発信する機会であるはずなのに、2人ともそういう発想は全くなかったようである。
習近平にとっては2013年春に国家主席に就任して以来昨年まで、オバマ大統領とは毎年会談を重ねてきたから、米大統領との首脳会談は今回で5回目である。とすれば、こういう舞台に慣れてもいいはずなのに、相変わらず会談後に共同文書も出なければ、共同記者会見もなし。新華社がせっせと両首脳(と夫人)の仲睦まじい写真を配信するだけで、なにを話したかについては確たる材料はないままに終わってしまった。
会談後、メディアが伝えた会談の内容は、①両国間の貿易不均衡については、「100日計画」を策定して改善を目指す ②4分野(外交・安保、経済、法執行とサイバーセキュリティ、社会・人文)での対話メカニズムをつくる ③トランプ大統領は習近平の招きに応じて年内に訪中 ④北朝鮮の核開発は「深刻な段階にあるとの認識で一致」 ⑤米軍のシリア爆撃について、習近平は「理解」を示した(中国側は否定)といったところだろうか。
それでは中国側はどう伝えたか。
 会談後、7日の新華社電は「初めての首脳会談は積極的なものであり、成果は大きかった。双方はともに努力して、互いに利のある協力を拡大し、対立は相互尊重の基礎の上で処理することに同意した」とまず型どおりに成果を強調した。
 注目されるのは双方の軍の相互信頼と意思疎通を図る措置を詳述していることで、並べてみると、階級別の軍人交流、両国国防部の防衛協議の継続、アジア太平洋安全対話メカニズム、設立される連合参謀部の対話ための新しいフォーラムのよりよい運用、重大軍事行動の相互通報と海空における遭遇の際の安全行動準則の2大相互安全メカニズム…等々である。この軍交流について米側からは発言はない。両国の軍どうしの密接な関係をアピールしたい中国の思惑が現れたものであろうか。
 この新華社電は軍以外の4分野での対話メカニズムにも触れているが、軍関係ほど力を入れていない。
 さすがにこれだけでは華々しさのわりに中身が乏しいと思ったのか、北京に残っていた王毅外相が8日付で、訪米前のフィンランド訪問と合わせて今回の習近平の外遊の成果を説明したという一文を新華社が真夜中、日付が9日に変わってから配信した。
 それもまた米大統領が親子孫の3世代で歓迎したことは会談重視の表れ、大統領は習主席の招待を「愉快に」受け入れた、といった調子であるが、肝心の対立点については両首脳のこんな発言を紹介しているだけである。
 習「中米両国間に対立が存在するのは正常なことである。大事なのは敏感な問題を妥当に処理して、建設的に管理することである」
トランプ「米国は中国と協力して、両国関係に悪影響を及ぼす要素と問題を消すように努力し、米中関係をさらに発展させることを願っている。米中関係は必ずやよりよく発展するだろう」
 結婚式の祝辞みたいなやりとりである。会談の前に北朝鮮がミサイルを発射したことでにわかに注目度が高まった北朝鮮については、王毅外相は「会談において両首脳は朝鮮半島の核問題など、ともに関心を持つ国際問題、地域問題について深く意見を交換し、地域また地球規模で協力を広げ、地域および世界の平和、安定、繁栄により貢献することで一致した」と、世界平和についてのお経文の一節にちらりと言及しただけであった。
会談前に注目を集めた「中国が協力しないのならば、米単独でも行動する」という北朝鮮に対する米側の強硬姿勢が話題になったのかどうかさえ王毅は明かさず、トランプ大統領がかねて声を荒げていた対中貿易赤字についても、王毅外相は双方が合意したはずの「100日計画」という言葉さえ口にしなかった。シリアのシの字も出てこなかったことは言うまでもない。
首脳会談について共同文書が出ても、記者会見が行われても真実が明らかにされるとは限らないし、見る方もそれを期待するほどお人よしではなないが、しかし、それらが何かしら真実を反映することも間違いないところだ。
そう思って、今度の米中会談の顛末を見るに、やはり会談自体が中身の薄いものだったと判断せざるを得ない。確かに会談の途中でシリアに対する武力攻撃実施の発表といったアクシデントが挟まれば、双方ともに腰がうわつくのはやむをえまい。やり取りも通り一遍にならざるをえないだろう。
歓待ぶりだけが目立って、ややこしい対立点が無難に通り過ぎたのだから、これは中国側にとって棚ボタの結果であるとは言える。
 とすれば、習近平は帰りの機中では側近たちと心ゆくまで祝杯を上げることができただろうか。とんでもない。おそらく米軍のシリア攻撃が習の胸に重くのしかかっていたに違いない。米国では武力攻撃を命じた直後は大統領の支持率が跳ね上がることが多い。とくに今回は洋上からのトマホーク発射だから、米軍に人的犠牲はまず生じない。米国民が喝采を送っても不思議はない。
 強がっていても、不人気に頭を抱えていたに違いないトランプ大統領が今後この誘惑にとらわれないとは思えない、というより、武力行使というカードがことあるごとに彼の頭の中にちらつくことは避けられまい。そして、さしあたっては北朝鮮が次の標的となる可能性は相当に高い。
 これは習近平にとってもっとも見たくない場面だ。万一そうなれば、今の北朝鮮が米に対抗できるはずがない。中国としても1950年のように「抗米援朝」戦争に乗り出すことは論議のほかである。北朝鮮が生き残るのはまず無理だ。つまり朝鮮半島全体が米の勢力圏に飲み込まれることになる。
中国の権力者にとって、勢力圏を狭められることは政権の弱体化、政権の危機を意味する。それを避けるために、米に「新しい大国間関係」を提案して、互いの勢力圏(これを中国では「核心的利益」と称する)の相互不可侵を認めさせようとしてきたのだが、前任のオバマ大統領には無視され、今回は話題にも上らなかったようである。
 となると習近平にとっては、米の怖さを現地で味わうためだけにわざわざ出かけて行ったような今回の訪米であった、ということになるのではないか。

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