2017.04.12 「オオカミはなぜ草を食うようになったか」
――八ヶ岳山麓から(217)――

阿部治平(もと高校教師)

<中国のネット上で、大変読まれている寓話を紹介します>

虎と豹と狼の故事
                     無名氏

ある日
ライオンが豹にオオカミ10頭の世話をさせ、餌の肉を分けてやるように命じた。
豹は肉の塊を受取ると、不公平のないように、これを均等に11個に切り分けた。自分はまずそのひとつを取り、残り10個をオオカミどもに分けてやった。ところがオオカミらは、どうも自分に与えられた肉は他より少ないと思いこんだらしい。
しばらくすると、誰もが豹に向かって大いに不平を鳴らすようになった。豹にしてみれば1頭くらいならなんとでもなるが、オオカミが10頭そろって歯向かってくるのには参ってしまった。
そこで豹は大いに困惑ししょんぼりして、ライオンに仕事をやめたいと申し出た。ライオンはそれを聞くと「へーえ、そうか。じゃ俺のやり方を見てみろよ」といった。

2日目
ライオンは、こんどは肉の塊を大小さまざまに、11個に切り分け、自分がまず一番大きいのを取った。しかる後にオオカミどもに威張りくさってこういった。
「おまえら、自分らでこの肉を分ける方法を相談しろ」
その途端、オオカミどもは相談なんかクソくらえ、猛烈な奪いあいを始め、容赦なく噛みつき蹴飛ばしあった。中ぐらいの塊りを狙えばどうにかものできるものも、大きなのをめざして仲間に噛みついた。
これを見た豹は大いに感服して、ライオンに「これはまた、どういうやり方でしょう?」と訊ねた。
ライオンは微笑して「人間どもは成果主義賃金制というらしいぜ」と答えた(注)。

注)中国の成果主義賃金制度は、一般に賃金の半分くらいを労働成果によるものとし、毎月管理職が成績評価をして決める。たとえば毎月3000元の賃金なら1500元が基本給で、1500元が成績評価分とされる。2割の奨励金が出るとすれば1500+1800=3300となる。怠けているとみなされれば3000元を割ってしまう。

3日目
ライオンは、やはり肉の塊を11個に切り分けたが、自分では大きいのを二つ選んで取り、しかる後にまたオオカミどもに威張りくさってこういった。
「おまえら、自分らでこの肉を分ける方法を相談しろ」
オオカミ10頭は9個の肉の塊をめざして、また猛烈な争奪戦を演じた。肉はとにかくそれぞれの口に入ったが、一番弱いオオカミだけは肉を食うことができず、腹が減って死んでしまった。
豹はまた、大いに納得して「これはまたどういう方法でしょうか」と訊ねた。ライオンは口元に笑いをうかべ、「人間どもは優勝劣敗・末位淘汰というらしいぜ」といった。

4日目
ライオンは今度は肉を二つに切り分けて、半分を自分が取ってから、しかるのちに威張りくさってオオカミどもにいった。
「おまえら、この肉を分ける方法を自分らで相談しろ」
オオカミどもはまた壮烈な争奪戦を演じたが、最後に一番強い奴が勝利して、戦利品にかぶりついた。彼は腹いっぱいになると、ようやく肉から離れ、ほかのオオカミどもに「残りを食ってもいいぞ」といった。
この結果、何頭かが最強の奴の子分になり、ぺこぺこと頭を下げていうことをきくようになった。ほかのオオカミも強いほうから残り物を頂戴するようになった。
これからというものは、ライオンはただその一番強いオオカミを手なづければよくなった。そいつに餌をやりさえればほかの連中の心配をすることもなくなったのだ。
豹はまた、大いに感心してライオンに「これはまたどういう便法ですか」と尋ねた。
ライオンは苦笑しながら「人間どもは失職者の職場復帰競争というらしいぜ」と答えた。

5日目
この日、ライオンは肉を五つに等分した。その三つを自分が取って、一つは残し、もう一つを九つに小分けして、しかる後にオオカミどもにそっくり返っていった。
「小さなのをひとつずつ分配する。お前たちのためを考えて、一番優秀な奴には奨励金としてでかいのを与える」
オオカミどもは、急いで自分の取り分をもらい、それから各自どうするかじっくりと考えた。そこでオオカミのなかには、自分の取り分のなかから一部をライオンに献上するものが現れた。他のものは全部を差出した。さあ、そこで一番優秀な従業員がボーナスとして比較的大きな塊を得ることとなった。
しばらくすると、ライオンは肉の80%を完全に自分のものにするようになった。
豹はすっかり恐れ入って、地面に身を投げ出し、「これはいったいなんという計略ですか」と伺いを立てた。
ライオンはせせら笑って「人間の役人の間じゃ、これがきまりになっているじゃないか」と答えた。

6日目
やがてライオンは餌の肉を独り占めし、オオカミは草を食うしか手がなくなった。かくして以前のようにけんか口論はなくなり、オオカミは劣悪な環境に耐え、理不尽ながらこの待遇に甘んじることとなった。豹はおおいに尊敬の念をもってライオンに訊ねた。
「これはいったいなんという戦略ですか」
ライオンは鼻を鳴らして答えた。
「人間社会じゃ『調和ある(和諧)社会』といっているのを聞いたことがあるけどね」(注)

注)「調和ある(和諧)社会」は胡錦濤国家主席時代に提唱され、今日でも中国が目指す社会として政府主導のスローガンであり、学校でも教える。民主主義と法治や、人と社会活動における誠信友愛、社会的活力の充満、社会秩序の安定、人と自然の調和がうたわれている。

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