2017.04.27 安倍内閣の支持率はなぜ高いのか(6)
―「ハッピーです」と「お前在日か」―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 二世代の発言を紹介する。
一つは、ある学者の若者観察であり、一つはある作家の時代観察である。

《近代史家の若者観察》
 2016年12月のあるシンポジウムで、日本近代史家成田龍一(1951~、日本女子大教授)は次のように発言した。(■から■は原文、以下同じ)
■斎藤美奈子さんという評論家の説なんですけれども、戦前派、戦中派、少国民世代、団塊の世代を挟んで、戦後第一世代までは、ほぼ同様の戦争認識や戦後認識を持っている。ぷっつりとここから切れるのが、戦後第二世代だというのですね。戦後第二世代の代表的な論者の一人がご承知の古市君です。

古市憲寿は今テレビに出てきて盛んに色々コメントをしています。その彼は、今までの世代とは対話をしようとしない。もう自分たちの世代は自分たちの世代でやっていくんだ、という考えです。世代はふつう上の世代と対話をして、その中で自分たちの世代の主張を訴えていくんですが、彼の世代は、もう関係ないんです、自分たちは自分たちなんだと言っている。そこでもう切れ目をつくろうということを意図的にやっていく。そして彼は何をしているかというと、実際に自分で起業をする。雇われるのは嫌だという。彼の専門は社会学ですけれども、大学などに雇われてヒーヒーいうのは嫌だということでいく、そういう世代が出て来ているんです。

そして「現在の僕たち世代はとてもハッピーだ」と言う。これは、彼が書いているんですが、彼自身は戦後の日本の世論調査を見てきた結果として、現在の僕たち、古市世代ですが、一番幸せだと考えている率が高いというんです。僕ら(成田)から見たら、こんなに悲惨な状況、「就職もないのに大変ね、可哀想でしょう」と思うんですが、彼はそうではない、一番幸せだというんです。そして「実はもう僕たちは先がない。今を楽しまなければいけない。今が一番良くてハッピーなんだ」と。ほとんど年寄りの心性なんですね。そういうふうな若者たちが登場してきている。
そうしますと、今150年の切れ目を迎えているということは、同時に全く今までの歴史認識や戦後認識、あるいは近代認識というものとは違った若者たちが登場してきていることを意味しています。私が目の前にしている学生たちは皆、古市君のファンです。「ああいう生き方がいい」と言っています。それなので、私も、今日の会の中では若い世代かもしれませんが、まさに立ちすくんでいる、という状況です。■

《芥川賞作家のバブル以降論》
 作家の中村文則(1977~)が、バブル前後の青年の時代感覚を通して時代がどう変化したかを書いている。(2016/1/11、『朝日新聞』ウェブ版)

バブル期には、「夢を持って生きること」、特に「普通の就職でなく、ちょっと変わった道に進むのが格好いい」という空気があった。バブルが崩壊すると「正社員になれ/公務員がいい」、そうでないと路頭に迷うぞという風潮になる。事実、中村が大学を出た2000年は「就職氷河期」であった。彼はフリーターをしていたが、「正社員」の特権階級意識を随所に見聞した。バイトの女の子が、「正社員を舐めるなよ」と怒鳴られているのを見て「本当に驚いた」という。

中村は、時代意識の変化を例示しながら考察を進める。
一つ目は、バブル崩壊後の「勝ち組・負け組」意識の定着と、それに連なる偏狭なナショナリズム意識の発生である。

《お前は人権の臭いがする》
 友人が、第二次大戦時の日本を美化する発言をしたので、中村は戦争は日米の利権の衝突に起因するのだと言ったら、その友人は「お前は人権の臭いがする」と言った。人権は大切だというと、友人は「俺は国がやることに反対したりしない。だから国が俺を守るのはわかるけど、国がやることに反対している奴らの人権をなぜ守らなければならない?」と言った。
ある時は、友人が渡した第二次大戦の日本美化本に対して中村が「色々言うと」、友人は「お前在日?」と言った。中村は、そうではないが億劫なので黙っていたら、友人はそれを認めたのだと思って、「色々言いふらしたらしい」という。

作家はこう書いている。
■格差を広げる政策で自身の生活が苦しめられているのに、その人々がなぜか「強い政府」を肯定しようとする場合がある。これは日本だけでなく歴史・世界的に見られる大きな現象で、フロイトは、経済的に「弱い立場」の人々が、その原因をつくった政府を攻撃するのではなく、「強い政府と自己同一化を図ることで自己の自信を回復しようとする心理が働く流れを指摘している」。■

二つ目は、メディアの「両論併記」方針の増加である。
政府批判はマスコミとして当然なのに、多様な意見を紹介するというレトリックで政府批判は弱められる。中村はこう書いている。
■否定意見に肯定意見を加えれば、政府への批判は「印象として」プラマイゼロとなり、批判がムーブメントを起こすほどの過熱に結びつかなくなる。実に上手い戦略である。それに甘んじているマスミコの態度は驚愕に値する。■

《日本人のアイデンティティを失う》
 三つ目は、ネット発言による風潮強化である。中村はこう書いている。
■匿名の発言は躊躇なく内面の攻撃性を解放する。だが、自分の正体を隠し人を攻撃する癖をつけるのは、その本人にとってよくない。攻撃される相手が可哀想とかいう善悪の問題より、これは正体を隠すプライドの問題だ。/人間の攻撃性は違う良いエネルギーに転化することもできるから、他のことにその力を注いだ方がきっと楽しい。■

このような状況の果てに何があるか。
中村は、憲法改正と戦争であると考えている。彼は自衛隊を専守防衛の手段としては認めるが、憲法九条は擁護する。九条を変えて普通の国になったら、「僕達日本人はいよいよ決定的なアイデンティティを失う」というのである。今年(2016年)は決定的な一年になるという中村のエッセイはこう結ばれている。
■今最も必要なのは確かな中道左派政党だと考える。民主党の保守派は現与党の改憲保守派を利すること以外何をしたいのかわからないので、党から出て参院選に臨めばいかがだろうか。その方がわかりやすい。■

民進党の動きは中村の望んだようになっていない。成田の見た学生たちは、昨今の求人バブルで改めて「ハッピー」かも知れない。安倍内閣の支持率が下がる要因はなかなか見つからない。(2017/04/22、敬称略)

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