2017.05.03 北朝鮮情勢緊迫化のなかでの世論調査
対外軍事攻撃に対する国内世論や内閣支持率はどう変化したか

広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 北朝鮮の平壌では4月15日午前、故金日成(キムイルソン)国家主席の生誕105周年を祝う軍事パレードが行われた。朝鮮中央テレビがパレードを生中継して金正恩・朝鮮労働党委員長などの首脳部の面々や新型ミサイルなどを生々しく映し出し、軍事力の強化を印象づけた。また翌16日には、ペンス米副大統領の訪韓に合わせて(失敗はしたが)弾道ミサイルを発射するなど、相変わらずの挑発行動を繰り返している。
一方、訪韓中のペンス米副大統領は17日、ソウルで韓国大統領代行の黄教安首相と会談し、「北朝鮮はこの(北東アジア)地域の米軍の力を試さない方がいい」(軍事挑発すると北朝鮮は大変なことになるよ)とのこれまでにない直接的な表現で北朝鮮を牽制した。ペンス米副大統領は同日、北朝鮮との軍事境界線に接する非武装地帯(DMZ)の警戒所を訪れ、現地での演説では北朝鮮への対応について「すべての選択肢はテーブルの上にある」とあらゆる軍事的行動を排除しない強硬姿勢を改めて示した。

 安倍政権は17日、北朝鮮が日本領海内に弾道ミサイルを発射した場合、自衛隊への防衛出動の発令が可能となる「武力攻撃切迫事態」に認定する方向で検討に入ったという。核・ミサイル開発を進める北朝鮮による挑発行為が増長するなか、適切な防衛態勢を整える必要性があると判断したらしい(読売新聞4月18日)。北朝鮮情勢の緊迫化を「千載一遇の機会」として利用し、一挙に軍事態勢を強化するつもりと見える。それはまた国民の警戒心を煽り、強硬姿勢を打ち出すことによって国民世論を引き付けようとする宣伝作戦の一環でもある。
 前回の拙ブログで、私は次のように指摘した。―かねがね北朝鮮の脅威を強調して国内世論を操作してきた安倍政権にとって、これほどの好機はない。アメリカのシリア攻撃は、安倍政権にとっては「森友疑惑」から国民の目をそらす絶好の機会(神風)であり、かつシリア攻撃に乗じて北朝鮮批判の世論をさらに高め、一挙に軍事力増強を実現する一石二鳥の機会が訪れたというわけだ。それはまた、低下し始めた内閣支持率を回復させるために、政策の重点を内政問題から外交問題に転換させる一大契機としても認識されているに違いない―。

 こんな折も折、朝日、産経は4月15、16両日、読売は14~16日に北朝鮮情勢緊迫化の最中に世論調査を実施した。安倍政権にとっては「最高」の条件の下で行われた世論調査がどのような結果になったかは、これからの世論動向を考えるうえで大きな参考材料になる。まずは3紙の質問項目と回答結果をみよう。
朝日の調査項目16問の内訳は、内閣・政党支持4問、「共謀罪」3問、森友疑惑2問、沖縄米軍基地2問、北朝鮮関係2問、教育勅語・シリア攻撃・宅配サービス各1問となっている。質問は「共謀罪」に重点が置かれ、単なる賛否だけではなく、その内容に踏み込んで意見を求めているのが特徴だ。
北朝鮮関係については「ミサイル発射や核開発に脅威をどの程度感じるか」「トランプ政権の北朝鮮に対する軍事的圧力の姿勢を支持するか」の2問だが、前者は「強く感じる」56%、「ある程度感じる」34%、後者は「支持する」59%、「支持しない」25%であり、回答者の大半が北朝鮮情勢に脅威を感じ、トランプ政権の「軍事外交=力による平和主義」を支持していることがわかる。このことは取りも直さず、安倍政権の掲げる「日米同盟ファースト」に国民世論が傾斜する背景になっている。

読売は14問のうち、内閣・政党支持3問、北朝鮮関係3問、安倍経済政策2問、森友疑惑2問、東京都関係2問、「テロ準備罪」・シリア攻撃各1問である。北朝鮮関係については、朝日と同様に「北朝鮮の脅威をどの程度感じるか」「アメリカの軍事的圧力を評価するか」に関しては、前者は「大いに感じる」60%、「多少は感じる」33%、後者は「評価する」64%、「評価しない」27%といずれも同じ結果が出ている。
しかし読売調査の真骨頂は、アメリカのシリア攻撃や北朝鮮への軍事圧力に同調する安倍政権に関する国民世論の動向を確かめ、安倍政権がこれから踏み出そうとしている「武力攻撃切迫事態」への対応、すなわち自衛隊の対外武力行使を可能にするような世論状況をつくり出そうとすることにある。それが「日本は、外国からミサイル攻撃を受けることが明らかな場合に、事前に相手国の基地などを攻撃する能力を持つことを、検討すべきだと思いますか、思いませんか」という質問である。回答は「思う」58%、「思わない」35%だから、読売にとってはまさに「わが意を得たり」という結果になったのだろう。

産経は15問のうち、内閣・政党支持2問、北朝鮮関係3問、シリア攻撃2問、韓国慰安婦問題2問、憲法改正2問、「共謀罪」・天皇退位・日米2国間貿易交渉・小池都知事各1問である。産経は、読売以上にシリア攻撃や北朝鮮情勢を利用してわが国の軍事態勢強化とそれを可能とする改憲に誘導しようとする姿勢が露骨であるが、それが端的に表れたのが「自民党は北朝鮮が実際に日本に向けて弾道ミサイルを発射した場合、2発目以降の弾道ミサイルを発射させないように敵基地反撃能力の保有を検討するよう政府に進言した。あなたの考えに近いものは次のどれですか」との質問だ。
これに対する回答は、「北朝鮮が日本に向けて弾道ミサイルを発射していなくても、発射する具体的な構えを見せた段階で北朝鮮の基地を攻撃すべきだ」31%、「北朝鮮が実際に弾道ミサイルを日本に向けて発射したあとに限るべきだ」45%、「北朝鮮が実際に弾道ミサイルを発射しても、日本は北朝鮮の基地に反撃すべきでない」19%という恐るべきものになった。アメリカのシリア攻撃が、国際法や国連決議のいずれにおいても「違法」だと国際的に批判されているその時、憲法9条を遵守する日本が「敵基地」に「先制攻撃」を加えることの是非を問う世論調査が堂々と実施される事態は戦慄すべきものがある。

それでは、内閣支持率の方はどうか。私は当初、トランプ政権と歩調を合わせて北朝鮮へ強硬姿勢をとる安倍政権への支持率がもっと上がるのではないかと思っていた。各紙とも50%台はおろか、軒並み60%台に乗るのではないかとさえ思っていたのである。しかし、前回(3月)に比べての内閣支持率の変動は、朝日49%→50%、読売56%→60%、産経57%→59%と比較的小幅なレベルに止まったのである。その理由として考えられるのは、次のようなものだ。第1は、回答者の圧倒的部分が北朝鮮のミサイル発射や核開発に脅威を感じ(朝日91%、読売93%、産経91%)、トランプ政権の北朝鮮に対する軍事的圧力を支持・評価している(朝日59%、読売64%、産経なし)にもかかわらず、それが直ちに安倍首相の政策を支持することに繋がっていないことだ。
安倍内閣を「政策」面から支持・評価している回答者の割合(全体に対する比率)は、2月から3月、4月にかけての推移を見ると、朝日14%→12%→13%、読売9%→7%→8%とほとんど変化していない(読売の数字が低いのは評価する項目が朝日に比べて多いため)。最大の理由は「他よりよさそう」「これまでの内閣よりよい」という相対的(消極的)なものであり、これを上げる回答者(全体に対する比率)は、朝日25%→24%→25%、読売28%→24%→25%とほぼ4分の1を占めていて、それほど変化していないのである。

第2は、今年2月以来発覚した「森友疑惑」の影響がその後も続いていて、支持率上昇のブレーキになったことが考えられる。「森友疑惑」はテレビ番組では一時のような報道は消えたものの、各紙ではその後も継続して関連記事が追及されており、今回の世論調査でも朝日、読売は2問を設けている(産経なし)。結果は「森友疑惑」は解明されていないとする回答が圧倒的で、朝日は「国有地売却をめぐる一連の問題について、政府の説明は不十分」75%、読売は「政府の説明に納得できない」82%、「安倍首相や夫人が関与していないという説明に納得できない」63%となっている。また朝日では「安倍首相夫人が国会で説明する必要あり」53%、「必要なし」39%となっている。
2月から3月、4月にかけての内閣支持率の推移を見ると、朝日52%→49%→50%、読売66%→56%→60%、産経59%→57%→59%と緩やかにV字カーブは描いたものの、全体としてはそれほど大きく変化していないことがわかる。この傾向は「森友疑惑」による内閣支持率の低下と北朝鮮情勢の緊迫化にともなう内閣支持率の上昇が互いに打ち消し合った結果とも考えられ、「森友疑惑」の持つ影響力の大きさを物語るものだ。核戦争に結び付くかもしれないという国際的な大事件と安倍首相夫妻の身辺問題を天秤にかけることはできないが、それでも世間は全てを秤にかけて審判を下すのだから、とかく政治の世界は怖いのである。

今後に予想される事態は、北朝鮮情勢の動向如何によって大きく左右されるだろうが、もし北朝鮮情勢が沈静化に向かうときは、「森友疑惑」は安倍政権を揺るがす政治スキャンダルとして再び浮上してくることになるだろう。「森友疑惑」は安倍政権が望むように一段落もしていなければ、簡単に幕引きできるような軽い事件でもないのである。
4月21日、学校法人「森友学園」(大阪市)は負債17億円を抱えて大阪地裁に民事再生法の適用を申請した。関西では、朝日夕刊が1面トップで伝えるようなビッグニュースとして取り扱われている。しかし、小学校校舎建設工事費の未払いの上に幼稚園では園児数が3分の1までに激減し、保育園では保育士が相次ぎ退職して運営が困難になるなど、森友学園は閉園の危機に直面している。保育園では目下のところ、大阪市が緊急に保育士を派遣して急場を凌いでいるが、保育条件の改善が出来なければ事業中止命令が出されることになり(6月が限度)、民事再生の道は容易でない(絶望視されている)。
森友学園は小学校認可申請をすでに取り下げているが、ほぼ完成している小学校校舎の処分方法については何一つ決まっていない。校舎、校地の処分については近畿財務局の所管であり、大阪地検への財務局職員に対する告発案件も含めて、これから絶えず「森友疑惑」が世間を騒がせることになる。安倍夫妻の関与問題もその度に蒸し返されることになり、「森友疑惑」は安倍政権を取り巻く「黒い霧」としてこれからも消えることはないだろう。

安倍政権を取り巻くもう一つの「黒い霧」は、安倍内閣の閣僚らが発言を問題視され、謝罪・撤回に追い込まれるケースに歯止めがかからないことだ。4月21日の日経新聞によると、「安倍政権 目立つ緩み」「政務官また辞任 相次ぐ失言・不祥事」との見出しで、閣僚らの一連の「失言・不祥事リスト」が掲載されている。
○2月6日、金田法相、国会の議論に注文を付ける内容の文書を記者に配布したことに関して謝罪、文書撤回。
○3月8日、務台内閣府政務官、長靴を用意せず職員に背負われて台風被害を視察するという醜態を演じながら、「長靴業界は(このことで)大分儲かったらしい」と口を滑らせて辞任。
○3月13日、稲田防衛相、森友学園も訴訟関与を国会答弁で全面否定したにもかかわらず、翌日に「記憶違い」と訂正して謝罪、発言撤回。
○4月4日、今村復興相、記者会見で記者を罵倒。原発事故の自主避難を「本人の責任」と発言して謝罪、発言撤回。
○4月16日、山本地方創生相、観光政策の推進に当たって「一番のがんは文化学芸員」「この連中を一掃しないとダメ」と発言し謝罪、発言撤回。
○4月18日、中川経産政務官、妻とは別の女性トラブル(重婚、ストーカーなど)をめぐる週刊誌報道で辞任、21日自民党離党。

 一連の事態は、第2次安倍内閣発足後(2014年10月)の相次ぐ閣僚不祥事による内閣支持率の大幅低下を想起させる。今後の事態の推移を注視していきたい。

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