2017.04.25 5月7日の仏大統領選決選投票で39歳のマクロン氏当選へ
第1回投票で中道マクロン氏が極右ルペン氏をしのぐ

伊藤力司 (ジャーナリスト)

4月23日に行われたフランス大統領選挙第1回投票では50%以上の得票率を得た候補者はおらず、その結果得票率1位の中道派エマニュエル・マクロン氏(39)と2位の極右「国民戦線」の女性党首マリーヌ・ルペン氏(48)が5月7日の第2回投票(決選投票)で、雌雄を決することとなった。仏世論の動向からマクロン氏の当選の公算が高く、フランス共和国史上最も若い国家元首が誕生することになろう。

昨年6月の英国のEU(欧州共同体)離脱を問う国民投票で離脱派が僅差で勝利したこと、同11月のアメリカ大統領選挙で事前の世論調査では劣勢だったドナルド・トランプ氏が当選したことは、マスメディアが読み切れないポピュリズム(大衆迎合主義)の流れが現代を動かす風潮として注目を集めた。イスラム過激派のテロが頻発するフランスでも、反イスラムのポピュリズムの流れの中でイスラム移民に厳しい目を向ける「国民戦線」への同調ムードが高まっていると言われてきた。

また近年のグローバル化、ネオリベラリズム(新自由主義)の流れの中で、フランスでも従来型個人経営主体の農業、商業、工業が揺さぶられてきた。その結果世界的な傾向に準じて、フランスでも中産階級の貧困化が進んでいる。ヨーロッパの場合はグローバル化、合理化を進める中枢がブリュッセルのEU本部である。「国民戦線」はこうした大衆の反EU感情を搔き立てて、フランスのEU脱退を主張するに至った。ルペン氏は選挙公約もEU脱退を前面に掲げ、欧州統合の前進を主張するマクロン氏と全面対決した。

今回の大統領選には全部で11人が立候補したが、有力なのはマクロン氏(得票率23・75%)、ルペン氏(同21・53%)のほか中道右派のフランソワ・フィヨン元首相(63)(同19・91%)、急進左派のジャンリュック・メランション氏(65)(同19・64%)の4人であった。この中でEUに批判的なのがルペン氏とメランション氏。EUを盛り上げて欧州統合をさらに進めるべきだという立場を執ったのが、マクロン氏とフィヨン氏である。

決選投票でフィヨン氏の支持者がルペン氏に投票することは考えられず、マクロン氏に投票するのが自然の成り行きだ。メランション氏の支持者はEUに批判的だが思想的には左翼の人々であって、極右のルペン氏に投票することはあり得ない。このように分析すると、決選投票でマクロン氏がルペン氏に敗れることは考えられない。ただし投票率は第1回投票の78・27%より下回るかもしれない。

問題は決選投票でルペン氏がどの程度得票するかである。2002年の大統領選挙で、当時の「国民戦線」党首ジャンマリ・ルペン氏(マリーヌ・ルペン氏の実父)が、第1回投票で社会党候補を押さえて決戦投票に臨んだが、得票率13%台でジャック・シラク氏に惨敗した。以来15年を経てマリーヌ氏の率いる「国民戦線」はファシズム色を薄め、反ユダヤ右翼排外主義から「フランス第一」を叫ぶ国民政党に脱皮しようとしている。フランス国民はルペン氏の異議申し立てにどの程度反応するだろうか。

さてすい星のごとく登場したマクロン氏とはいかなる人物か。パリのリセ(高校)在学中にバカロレア(大学入試資格試験)で優秀な成績を収め、パリ第10大学で哲学を専攻。次いでエリート養成校として知られるパリ政治学院で修士号取得、さらに超エリートコースの国立行政学院に学んだ。2004年から国立会計検査院の検査官として勤務したが2008年にスカウトされてロスチャイルド系の銀行に転職、企業買収ビジネスで業績を挙げたという。

2006年からフランス社会党の党員になったが党の日常活動はほとんどせず、2007年の大統領選挙で社会党候補のセゴレーヌ・ロワイヤル氏(フランソワ・オランド現大統領の元夫人)の選挙運動に参画。2012年にオランド大統領が就任すると大統領府副事務総長に抜擢され、エリゼ宮(仏大統領府)で腕を振るった。2014年経済・工業・デジタル相に就任、年間5回に制限されていた百貨店の日曜営業を年間12回に緩和する通称「マクロン法」を成立させた。

彼は、16年4月「En Marche!(前進!)という政治運動団体を旗揚げ、これを基盤に17年大統領選出馬を表明した。この団体は社会党とは関係なく政党でもないとされる。しかし目指すところは左翼でも保守でもなく中道だとされる。未知数の多い大統領が登場することになりそうだが、欧州統合という合理主義を貫こうとする方向だけは確かなようだ。デカルトやパスカルを生んだフランスの合理主義がポピュリズムに勝ったと言えよう。

このマクロン氏は29歳の時、3児を抱えた24歳年上の女性、つまり自分の母親と同じほどの年齢の元高校時代の恩師をかき口説いて結婚したという情熱の人でもあるという。

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