2017.05.17 「森友疑惑」逸らしと改憲論議の加速を狙った(一石二鳥の)安倍戦略が裏目に出た、自民党内には権力争いの匂いが立ち込めてきている。
広原盛明(都市計画・まちづくり研究者)

 5月12日の朝日朝刊は1面トップで、「改憲『20年に縛られない』、自民、首相発言めぐり表明」と伝えた。この記事は、中谷元・与党筆頭幹事が5月11日の衆院憲法審査会の幹事懇談会で野党に対し、「安倍首相発言は党内向けのもの」、「2020年施行と期限を区切った首相発言に審査会は縛られない」と表明したことを重視したもので、首相発言とは異なる今後の事態の可能性を示唆したものだ。

中谷氏は、憲法審査会の具体的スケジュールは各党各会派の協議で決定し、安倍首相の云う2020年施行には縛られず、審査会は今まで通り与野党の合意形成の下で進めることを提案した。森英介・憲法審査会会長も「憲法改正の発議権を有しているのはあくまで国会だ。会長として公正・円満な運営に努める」との文書でまとめることを約束した。自民のこの動きは、首相発言を審査会の議論と切り離すことで審議の再開を優先させたともいえるが、事はそう簡単な構図ではない。首相発言を巡っては、公式的ではないものの自民党内では右寄り・左寄りなどのさまざまな反応が出てきており、これまでの「安倍一強体制」(官邸主導による党内運営)に亀裂が入り始めているからだ。

 右寄りの反応としては、自民党の石破氏が5月11日、2020年に憲法改正の施行を目指すと表明した首相発言に対し、都内会合の中で国防軍の創設などを盛り込んだ自民党の憲法改正草案について触れ、「自民党のスタンスは一体どうなのかということで、これをどう取り扱うのかが一番大事だ」、「党の議論を粗略にして憲法改正ができるなどと全く思っていないし、勢いで憲法を改正していいはずがない」と批判した。中曾根元首相も近日発行する共著の中で、戦力不保持を定めた憲法9条2項を改正して自衛隊を軍と位置づける正面からの2項改正を主張しているという(毎日新聞、201年5月12日)。いずれも従来からの自民党憲法草案を重視する右からの発言だろう

 一方、左寄りの反応としては、岸田外相による5月11日の派閥会合での発言がある。「平和安全法制は憲法9条との関係でどこまで許されるかを議論して結論を出した。当時(2015年10月)、その基準となる9条を今すぐ改正することは考えず、平和安全法制がどのような成果をもたらすのかをしっかり見極めようと発言したが、きょう現在までその考えは変わっていない」というものだ(毎日、同上)。

 もっとも13日の朝日朝刊は、「安倍晋三首相(自民党総裁)が悲願の憲法改正に向け、また一段ギアを上げた。民進党を巻き込んだ与野党協議での改憲戦略を進めてきた自民党憲法改正推進本部に議論の加速を直接指示。首相の『圧力』に協調派も屈服した。連立を組む公明からは、首相の猛進に戸惑う声も出ている」と状況が急変したことを伝えている。「民進との協調を掲げてきた保岡、船田両氏が、首相に押し切られたのは明白」とのことなので、今後の事態がどう転ぶか全く予測がつかなくなった。

 しかし私が思うに、改憲論議の今後の展開は、憲法審査会での議論そのものよりも「森友疑惑」の動向に左右されると考えた方がよさそうだ。結論的に云えば、「森友疑惑」が高まれば高まるほど党内抗争の動きは大きくなるし、逆に幕引きが成功すれば改憲議論が加速されるかもしれないということだ。それほど安倍政権にとって「森友疑惑」の存在は大きく、この「のどに刺さった骨」を抜くことができなければ、安倍首相は憲法改正の悲願を達成できないといっても過言ではないのである。

理由は明白だろう。情けないことにいまの自民党内には政策的に安倍首相に対決する政治勢力がなく、「森友疑惑」のようなスキャンダルでもない限り首相の足を引っ張ることができない。かっての「ハト派」「タカ派」といった政策的な対決構図は跡形もなく消え、スキャンダル絡みの低水準の党内抗争しか権力争いに勝利する方法がなくなったからである。

 そうした観点からすれば、13日朝日朝刊が5面全紙を使って「森友疑惑」特集を掲載したことが極めて注目される。同紙は、「森友学園の国有地取得をめぐる経緯と主な出来事」を2009年度から2017年4月26日までにわたって時系列的に整理し、「8億1900万円がなぜ値引きされたのか」「官僚の忖度があったのか」の2大テーマを中心に疑惑解明の重要性を改めて喚起している。要するに朝日は、この問題の幕引きは決して許さないというジャーナリズムとしての決意と矜持を示したのである。

 森友学園の地元・大阪では、森友学園が関連保育園の保育士不足問題を自ら解決できず、大阪市の吉村市長は、園に対して7月1日付で事業停止命令を出すための手続きに入ることを言明している。すでに5月11日夜、大阪市は保護者に対する説明会を開き、園が閉鎖された場合の園児の行き先についての検討を終えたとしている(各紙。5月12日)。いわば、籠池理事長一家は絶体絶命の窮地に追い詰められているのであり、この状況を彼らなりに「打開」するとすれば、安倍昭恵首相夫人や近畿財務局(財務省)などとの更なる交渉記録を暴露することも十分考えられる。このとき国会ではどんな反響が起るのか予測もつかない。

 それにしても私が「森友疑惑」の発覚以来、一貫して疑問に思っているのは、この問題の核心を衝いた共産党小池書記局長での国会質問の材料がいったいどこから出たのかという問題だ。鴻池自民参院議員は麻生元首相の側近として知られており、その事務所記録が表に出るだけでも大問題なのに、それがこともあろうに共産党の手に渡ったのである。秘書の事務所日記は通常本人が肌身離さず持っているものである以上、鴻池事務所の誰かが故意に情報を流したとしか思えない。とすれば、その目的は一体何のためか。ひょっとすると、今後の党内抗争が激化すればその回答が出てくるかもしれない。(つづく)
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