2017.06.01  巨大ポスター合戦
    -ハンガリーの政治状況(上)
 
盛田常夫 (経済学者・在ハンガリー)
              
 ブダペストの中心部を飾っている建築物や街路の構想は、19世紀末から20世紀初頭にかけて作り上げられたものだ。当時の政治家は私財をなげうって、ブダペスト市やハンガリーの国造りに力を注ぎ、百年の時間を超えても人々の感動を生み出す街を創造した。国を創る気概に燃えた政治家や芸術家が、命をかけて仕上げた創造物は、世紀を超える時間を生き続ける。
 これにたいして、現代の政治家はどうだろう。政治は私服を肥やす手段に成り下がり、甘い汁を吸える権力を維持するためなら、甘い言葉で国民を手なずけて延命を図る。そして、権力維持が危うくなると、国外に敵を作って民族主義を煽り、権力の継続を図ろうとする。その点で、日本もヨーロッパも大差ない。

電気・ガス料金の強制値下げ
 ほとんどの人々は経済の仕組みに不案内だから、経済政策で国民を騙すのにそれほどの知恵は要らない。ハンガリー政府は民間企業が経営する電気・ガス会社の料金を強制的に下げさせる法案を作り、政府の介入によって節約できた金額を毎月の料金請求書に記載している。「貴方は政府の料金引下げ政策によって、今月は○○Ftの金額を節約することができました。政府がこの政策を導入してから、貴方が節約できた金額は合算して○○Ftになります」という文言が、毎月の請求書に記載されている。
 27%もの高率の消費税を徴収しながら、電気・ガス料金の数パーセントの引下げ額を毎月、請求書に記載させている。一般消費税率を下げれば、民間企業に電気・ガス料金の値下げを強制しなくても、料金節約分程度の所得を回収することができる。途方もない消費税を徴収しながら、他方で数パーセントの電気・ガス料金の値下げを政府が強制した「成果」を恩着せがましく、毎月の請求書に「政府の政策のお陰」だと記載させている。その請求書を毎月受け取る国民は、政府の慈悲政策に感謝するだろうことが想定されている。国民の無知につけ込んだ、政権政党の典型的なポピュリズム政策である。
 欧州委員会はこのハンガリー政府の政策について、「民間企業への不当な介入であり、政権政党の政治的キャンペーンの日常化の疑いがある」という立場をとっており、その審査が続いている。これにたいして、ハンガリー政府は、「欧州委員会はハンガリーの主権を侵し、ハンガリー政府の政策にケチを付け、国民が享受している利益を奪おうとしている」というキャンペーンを張っている。
 ハンガリー政府は難民・移民の取り扱いをめぐって欧州委員会と対立しているが、難民・移民問題に引っかけて、「欧州委員会は何ごとについても、国民を守るハンガリー政府の政策にケチを付け、ハンガリーの主権にもとづいて施行している政策を撤廃させようとしている」という反欧州委員会キャンペーンを行っている。

1763盛田上ポスター

 これが「ブリュッセルを止めよう。国民対話2017」という政府キャンペーンポスターである。ご丁寧にも、ハンガリー政府は「国民対話」と称して、有権者にアンケート調査の手紙を送り、欧州委員会の政策への賛否を問うている。「政府は欧州委員会の横暴からハンガリー国民を守っている」という印象を植え付けるための政治的キャンペーンである。こういうやり方も、「政権政党の政治的キャンペーン」の疑いがあると調査を受けている。このアンケート調査に回答した有権者は1割にも満たず、そのために、有権者全員に手紙を送付するという税金の無駄遣いが行われている。
それほど欧州委員会の政策と相容れないなら、EUを脱退したらどうかという批判が寄せられるのは当然のことである。しかし、現政権には脱退の意思など一欠片もない。だから、欧州委員会の調査に素直に応じ、勧告を受け入れ、修正する姿勢を崩していない。要するに、国内向けのキャンペーンと欧州委員会との対外交渉を使い分ける二枚舌政策を行っている。これがハンガリー政府のポピュリズム政策である。

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