2017.06.12  ラマダン(イスラム教の断食月)入りでテロ続発
    イスラム国(IS)が今年もテロ呼びかけ

伊藤力司 (ジャーナリスト)
 

16億人から17億人と推定されている全世界のイスラム教徒(ムスリム)は、今年5月27日から1か月のラマダン(断食月)の間、夜明けから日没まで間一切の飲食を控えている。断食はイスラム教の教祖ムハンマドが信徒に命じた行いである。信徒たちは日のあるうちは一斉に断食をし、日没とともに食事を共にすることでムスリムとしての一体感を強め、さらに苦痛を共有することで自分たちの宗教を再確認し、信仰心を高揚させるのだという。

ムスリムは断食を通じて、宗教的な感情を高ぶらせ善行に励もうとする。イラクとシリアの一部を根拠地にした「イスラム国」(IS)などイスラム過激派は、こうしたラマダンの効用を利用して戦闘員にテロを命じている。果たせるかな、5月31日アフガニスタンの首都カブールの中心部で大規模な爆弾テロが発生して150人以上が死亡。6月3日夜には英国の首都ロンドン中心部でテロ犯3人がワゴン車を暴走させて歩行者を跳ね飛ばし、さらに近くの飲食店街で刃物を使って通行人を殺傷するというテロ事件で7人が死亡、少なくとも48人が負傷した。

英国ではラマダンに入る前の5月22日夜、イングランド中部の大都市マンチェスターのイベント会場で、米有名歌手のコンサート終演直後の群衆を目掛けて爆弾を爆発させ、少なくとも19人が死亡、50人以上が負傷した。このマンチェスター爆破事件と6月3日のロンドン連続テロ事件では、ISがネットを通じて犯行声明を出している。

また世界最大のムスリム人口を抱えるインドネシアではラマダン前の5月24日夜、首都ジャカルタ市内のバスターミナル付近で起きた2度の爆発により警官3人が死亡、警官ら12人が負傷した。現場付近に爆弾を爆発させたテロ犯とみられる男の遺体2体が見つかった。翌日ISが系列メディアのアマク通信を通じて「実行したのはISの兵士だ」と主張した。

一方フィリピン南部のムスリム地域のミンダナオ島マラウイ地区では、5月23日から続く政府軍とISに忠誠を誓う現地ムスリム武装勢力との戦闘で30日までに、一般市民を含む死者が100人を超えたとフィリピン・メディアが報じた。ミンダナオ島とその西方のスルー諸島を根拠地とするイスラム過激派武装組織「アブサヤフ」と「マウテ」はともにISに忠誠を誓っている集団だ。

2003年のブッシュ米大統領によるイラク侵攻で始まった中東の混迷は、2011年に本格化した民衆運動「アラブの春」を通じて中東アラブ世界全域に拡大した。とりわけ2011年3月に始まったシリア内戦は、イスラム過激派を育てる場となった。秩序が崩壊したイラクとシリアを足場に、預言者ムハンマドの後継者という意味の「カリフ」が統治するイスラム国(Islamic State=IS)の樹立を宣言したのが2014年6月のことだった。

以来3年間にわたりISを名乗るテロリストは、フランス、ベルギー、ドイツ、スウェーデンなど、西ヨーロッパで次々に爆弾や自動車暴走によるテロ事件を引き起こし、世界を恐怖に追い込んできた。ごく最近では6月7日、イスラム教シーア派の“ご本尊”とも言うべきイランの首都テヘランの国会議事堂とイラン・イスラム革命の指導者故ホメイニ師を祀る霊廟をISの戦闘員計6人が銃撃や爆弾で襲撃、少なくとも12人が死亡、42人が負傷した。

ISは2014年6月以来イラク第2の都市モスルを占領し、シリア北部の都市ラッカを「首都」と宣言して保持してきた。だが昨年来満を持してイラク中部から北部のIS根拠地を制圧してきたイラク政府軍は本年当初から、イランの革命防衛隊やイラクのシーア派民兵、レバノンのシーア派民兵ヒズボラなどの支援を得て、本格的なモスル解放作戦を進め「モスル陥落は真近か」と言われるに至った。

またIS戦闘員が立てこもるラッカに対する包囲作戦も、ロシア軍の援護を受けたシリア政府軍や現地のクルド人民兵隊などが、米軍を始めとする有志国連合の援護も受けて進展中だ。この包囲作戦に参加しているトルコ軍によると、ラッカの陥落は遠くないという。モスルとラッカからは、一般市民に変装したIS戦闘員が続々と逃亡しつつあると報じられている。

おそらくISは“建国”の2014年6月以来最悪のピンチを迎えているのだろう。劣勢に立っているだけに、イスラム信仰心が高まるラマダンの間に世界中でテロを起こそうと呼びかけているのだろう。参考までに、5月22日のマンチェスターのテロ事件の後ISが出した犯行声明を紹介しよう。

「アッラーのお導きとその恩寵のより、至高至大のアッラーの宗教への報復として、多神教を恐怖させ、ムスリムたちの館への彼らの攻撃に対する反撃として、カリフ国の兵士の1人が英国のマンチェスター市における十字軍の集会のなかで爆発物を置くことに成功した。そこで、放埓なコンサートのためのアリーナの建物において爆弾を爆発させ、およそ30人の十字軍の殺害とその他70人の負傷につながった。アッラーのお許しにより、次にくるものは、十字の崇拝者およびその傀儡たちにとってより強力で、ひどいものとなる。万世の主、アッラーに讃えあれ。(保坂修司訳)

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