2017.06.15  北朝鮮制裁のゆきづまりと次に来るもの
    ――八ヶ岳山麓から(224)――

阿部治平(もと高校教師)


北朝鮮がミサイル発射実験を行うたびに、NHKをはじめテレビ各局は緊急速報を画面に流し、ニュースショーでは北の「挑発」を非難する。北朝鮮「専門家」も「挑発」とか「脅威」を声高に語る。
一例を引く。
北朝鮮による挑発行為を受けて、日本海に展開しているアメリカ海軍の空母2隻が、自衛隊の護衛艦や戦闘機と共同訓練を行った。
日本海の能登半島沖で行われた訓練には、アメリカ海軍の空母「カール・ビンソン」と、「ロナルド・レーガン」が、また海上自衛隊からは、護衛艦「ひゅうが」とイージス艦「あしがら」が参加し、日米の連携などを確認した。
さらに、空母に搭載されているF/A-18戦闘攻撃機と、航空自衛隊のF-15戦闘機も訓練を行った。
共同訓練に、アメリカから空母が2隻参加するのは極めて異例で、日米両政府は、強固な日米同盟をアピールすることで、ミサイル発射を繰り返す北朝鮮を強くけん制する狙いがある(Yahoo news6/2(金) 0:05配信)。

「挑発」とは、相手を刺激して事件・紛争を起すようにしむけることである。では北朝鮮が何を「挑発」しているのか。米朝戦争か?まさか。
上の記事では、北朝鮮が核やミサイルの実験をして、その能力を誇示するのは「挑発」で、日本海のアメリカ海軍空母が、自衛隊の艦船や戦闘機と共同訓練を行うのは「けん制」である。
さきの米韓合同軍事演習は「斬首作戦」だった。米軍の作戦概念「decapitation strike(strategy)」を翻訳したものだそうだが、人の首をはねる、つまり金正恩を殺害することである。これは「挑発」か「けん制」か、安倍晋三首相がこの頃連発する言葉を使えば、意図的な「印象操作」ではないか。
日本では拉致問題はあるし、金正恩が叔父や異母兄を殺しているから「北朝鮮は悪だ、悪だから潰してもよい」という論理が当り前のようになっている。だが北朝鮮はISではない。国連加盟国であり、160余の国と国交をもつ独立国である。メディアはもっと客観的視点をもってもらいたい。

以前に述べたことの繰返しになるが、北に対する国連決議がほとんど効目がないのはなぜか、この理由をもう一度振り返りたい。それは北朝鮮がアメリカの攻撃に対する「報復能力」を持つためである。北朝鮮の立場に立ってみれば、核・ミサイル開発は追詰められて選んだ政策だった。
北朝鮮の核開発を止めさせようとした1994年の「米朝枠組み合意」は、順調に実施されなかった。その後ブッシュ政権はイラン・イラク・北朝鮮を「悪の枢軸」に指定し、イラクを侵略してフセイン政権を倒し中東を殺人と破壊の混乱に陥れた。このとき北の指導者金正日は「つぎは我が身」を確信じたであろう。
通常兵器での戦争をしかけられたら勝ち目はない。そこで彼は核とミサイル開発を急いだ。さらに2011年、アメリカはリビアとエジプトの独裁政権を打倒した。同じ年、金正日は死に、金正恩は父親の核・ミサイル開発事業を継承した。
だから金正恩は、核とミサイルの性能が十分な対米攻撃能力を持つまでは、孤立を恐れず、核実験とミサイル発射をやり続ける。北朝鮮が国連の制裁決議など屁でもないのは、いまや誰でもわかるようになった。

中国は昔も今も北朝鮮の核・ミサイル保有の論理をよく承知している。中国は北朝鮮貿易の90%を占めていて、国連決議に従って対北朝鮮制裁をやろうとすれば徹底的にやれるはずだが、いままで本気で北に圧力をかけてはこなかった。
いま石炭輸入規制をやって、限度を年間4億ドル、750万tまでとしているが、これ以上の石油の供給を止めるなどの経済制裁をやる気はない。やるとしたらかなりの冒険だからだ。やれば北朝鮮経済は混乱する、脱北者は急増する。ながびけば朝鮮労働党の一党独裁は危機に陥るかもしれない。金王朝が危機に瀕するなら、中国は北朝鮮という緩衝国を失う危険がある。その衝撃は中国に跳ねかえり、中国共産党の一党支配を揺るがす事態を招きかねない。

中国共産党総書記習近平は、大統領に就任したばかりのトランプが朝鮮半島で戦争を始めるのを警戒していた。ところがフロリダの米中会談で、トランプはイデオロギーには関心がなく、独裁だからという理由で北朝鮮体制を転覆せず、核・ミサイル開発を放棄すればそれでよしとしていることがわかった。
心配が解けると、習近平はトランプの北朝鮮説得をまるごと請負った。そう出たのは、中国にはアメリカとは別に、北朝鮮に核を持たれては困る事情があるからだ。
これも繰り返しになるが、北によって核独占が崩されれば、中国の核保有大国ととしての地位が失われ、習近平の偉大な中華帝国興隆の夢が脅かされる。北の核が中国への脅威となる可能性がある。北の核実験場が国境に近く核汚染が危惧される。
もっといえば、北朝鮮の核武装は日本に核開発の口実を与えかねない。日本の核武装は中国にとっては悪夢である。日本がアメリカの核の傘に入っているほうがよほどましである。

ところが、まずいことに習近平はドジを踏んだ(と私は思う)。彼は北朝鮮に高圧的な態度で、核とミサイル開発の停止と放棄を迫った。とりわけ中共指導下のメディアは、あたかも宗主国の朝貢国に対するように、貧乏国北朝鮮は富強の中国に頼れといい、核を放棄せよ、そうすれば金王朝を守ってやるし、経済の面倒も見てやると書いた。
当然、北の自尊心はいたく傷ついた。もともとあった中国に対する不信感はたちまち激しい反感にかわった。外交交渉の裏はわからないが、表向きでは中国の説得はほとんど効目がなくなった。かくして史上最悪の国家関係のなか、中国にとって北朝鮮の核兵器は現実の脅威となった。

国際的な経済制裁が無力だとわかったいま、これに代わるものは武力行使だが、これは不可能だ。残るは米朝対話だが、アメリカは行きがかり上、簡単には米朝交渉には踏切れない。北朝鮮も反米感情が骨身にしみついている。アメリカがいくら北朝鮮体制への不干渉をいっても、対米不信はそう簡単に払拭はできない。
こういう難しい事情はあるが、オスロの米朝秘密会談を終えた北朝鮮外務省の崔善姫北米局長は、5月13日北京でトランプ政権と「条件が熟せば対話する」と語った。北もいちがいに対話を拒否しているわけではない。

そのなかで米中を中心とした制裁一辺倒の対北朝鮮政策を批判してきたのは、文在寅韓国大統領である。いままだ北朝鮮は韓国をアメリカの傀儡とみているが、文在寅は大統領に就任以来、断絶状態だった対北朝鮮関係を見なおし、接触を試みている。これから紆余曲折はあるだろうが、南北間の人的経済的交流を拡大し、さらに政治的・軍事的なレベルにまで進めば、朝鮮半島の核問題は解決の糸口を見出すことができる。
制裁政策ではにっちもさっちもゆかないいま、私は文在寅路線は現状打開策の有力候補と見るべきだと思う。日本の右派メディアはそれを親北外交と批判するだろうが、韓国が北に接近して何が悪いのだろう。同じ朝鮮(韓)民族ではないか。

安倍政権は、ひたすら北朝鮮の「挑発」を非難し「脅威」を叫んで、アメリカとともに中国に対して北朝鮮制裁強化を求めつづけている。ゆくゆく米中韓と北朝鮮が静かな対話をはじめたらどうするつもりだろうか。またアメリカに追随して「大変結構なこと」とかいうのだろうか。
(2017・06・5記)
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