2017.06.21  6月抗争30周年で在寅大統領が語ったこと
           韓国通信NO526

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

軍事政権を打倒し、民主化を実現した「6月民主抗争」から30年を迎えた6月10日、就任後1カ月の文大統領が記念式で民主主義の発展と国民の団結を呼びかけた。
10日付「ハンギョレ新聞」の記事と当日の演説を拙訳で紹介したい。

タイトル― 文大統領「民主主義がご飯であり、ご飯が民主主義だ」
<記事本文>
文在寅大統領は10日、ソウル市庁前広場で開かれた6月民主抗争30周年記念式に出席、「私たちの課題は新たな民主主義であり、より深く、堅固な民主主義を築くことだ」と述べた。
文大統領は「6月抗争で到達した民主主義が具体的な生活に実を結ぶ時、6月抗争は生き続ける現在であり、未来だ」「制度としての民主主義が動揺し、後退することはない。憲法、選挙制度、大統領府、検察、国家情報院、放送等の制度と機関が国民の意思と意志を監視、歪曲、抑圧しないようにする」と述べた。さらに大統領は「経済民主主義」の重要性を繰りかえし強調して次のように述べた。「新たな挑戦は経済における民主主義だ。民主主義が、ご飯であり、ご飯が民主主義になるべきだ。著しい経済的不平等社会では民主主義は形だけのものにすぎない」。
経済民主主義に対する強調は、すべての経済主体の譲歩と配慮による「社会的大妥協」に対する要請に向けられた。大統領は「働き場があるということは経済の問題というより民主主義の問題」として「韓国社会が経済民主主義のために新しい価値観を共有すべき」「そのためには大企業と中小企業、労働者、市民社会が力を合わせるべきだ。6月抗争30周年をステップにして跳躍する未来は譲歩と課題の共有、格差を縮める社会的大妥協にある」と強調した。

以下は演説全文――
尊敬する国民のみなさん。
本日、みなさんと6.10民主抗争30周年のためにこの広場に立つことができ感慨ひとしおです。若者からお年寄りまで、済州からソウルまでの人たちがひとつになり、嶺南から湖南まで(注1) が声を一つにした「非民主的憲法撤廃、独裁打倒」の熱い叫びが今でも私の耳に鮮やかに聞こえてくるようです。
30年前の6月、私たちは偉大な国民でした。降りそそぐ催涙弾の前でもくじけなかった青年、学生たち。応援の立場から抗争の主役になったネクタイ部隊(筆者注・ネクタイをしめたサラリーマンのことか)。自動車のクラクションを鳴らし、ハンカチを振り、デモ隊にパンを与え、戦闘警察官の胸に平和の花をつけた市民たち。そのすべての人たちが歴史の主人公でした。
30年前の6月、私たちは国民が勝利した歴史を経験しました。苛酷な軍部独裁に立ち向かい、不義に対する怒りと民主主義に対する渇望が生んだ勝利でした。国民は時代の流れを独裁から民主へ変えたのです。大統領を自分たちの手で選ぶ権利。国民が自分たちの政府を選ぶ権利を取り戻しました。まるで岩に卵を投げるように勝ち目のない抗争が大きな流れとなった感動的な歴史でした。
大統領直選制だけではありませんでした。6月民主抗争は私たちに広場をもたらしました。報道規制が廃止され、報道機関と市民は発言の自由を獲得しました。多様な市民社会運動組織が生まれ、抑圧され閉塞されていた民主主義の空間を広げました。民主主義がなければ目覚ましい経済発展も社会各分野の多様性も文化と芸術も花咲くことはなかったはずです。
過去30年、私たち社会が築いてきたすべての発展と進歩は6月抗争から始まっています。
文在寅政府は国民が成し遂げたすべての成果を前提に出発しました。そのような理由から本日、私が6月抗争の主役である国民とともに記念式に参加できることは意義深く、光栄に思う次第です。今日の政府は6月民主抗争精神にもとづく政府です。任期中、私は大統領職を持つ国民のひとりとして、そのことを心に刻んでいくつもりです。
歴史を変えた二人の青年、釜山出身の朴鐘哲と光州の李韓烈を永久に忘れないでしょう
6月の民主化闘争を指導したリーダーたち、熱い喚声のなかでともに涙を流し、ともに歓呼したすべての人たちに感謝と敬意を申し上げたい。

尊敬する国民のみなさん。
私は世界が驚嘆するわが国の民主主義を国民がみずから築いてきたことを何よりも誇らしく思っています。歴史を振り返るなら、わが国の民主主義のはじまりは「解放」とともに外からもたらされたものです。しかし今日のように育てあげたのは国民でした。ここに至るまでは4.19学生革命(注2) があり、釜馬抗争 (注3) があり、5.18光州蜂起(注4) があり、1987年の6月抗争がありました。そしてそれは今年の冬のロウソク革命に続きました。ロウソクの灯は一世代をかけて成長した6月抗争が堂々と咲かせた花でした。私たちは6月民主抗争をつうじて主権者である国民の力を学びました。ロウソク革命をとおして民主共和国を実践的に経験しました。
6月の市民たちは独裁を葬り、ロウソク市民は、民主社会が進むべき方向と問題点を提示しました。ロウソクは未完だった6月抗争の完成を求める国民の声でした。

尊敬する国民のみなさん。
私たちの目前にある課題は、ふたたび民主主義です。「もっと広く、もっと深く、もっと強固な民主主義」を作らなければなりません。6月抗争で成就した民主主義がすべての国民の生活に根ざすよう努力しなければいけません。民主主義が具体的な生活の変化につながる時、6月抗争は生きた現在と未来です。民主主義は制度であり、実質的な内容であり、生活のかたちです。
私はこの席で約束し、提案します。制度としての民主主義が揺らぐことも後退することも今やありません。新政権の下で民主主義はさらに発展し、人権は拡大されるでしょう。すべての権力は国民のものです。憲法、選挙制度、大統領府、検察、情報院、放送、国民が委任した権限を運用する制度も同様てす。権力機関が国民の意思や意志を監視し歪曲して抑圧させたりしません。
私たちが当面する新たな挑戦は経済における民主主義です。民主主義が「ご飯」であり、「ご飯」が民主主義であるべきです。所得と富の激しい不平等がわが国の民主主義の脅威になっています。働きの問題が危機の根本原因です。私が「仕事の大統領」になりたいと繰り返し申し上げているのは、甚だしい経済不平等社会では民主主義が形だけのものになると考えるからです。仕事は単に経済の問題ではなく民主主義の問題です。しかし政府の意志だけでは実現は難しい。社会全体が一緒になって経済民主主義のために新しい基準を作って行かなければなりません。譲歩と妥協、忍耐と配慮、包容性のある民主主義が必要です。大企業と中小企業、労働者、市民社会全体が力をあわせなければなりません。
6月民主抗争30年を踏み台に私たちが跳躍する未来は、お互いの譲歩、負担を分かち合って、格差を少なくする社会的大妥協にあると確信します。これは決して簡単なことではありませんが、必ずやり遂げなければなりません。真剣な政労使の大妥協のためにすべての経済主体の参加をお願いしたいと思います。誰でもまじめに8時間働けば生活できる、心配のない社会にしなければなりません。このように社会的不平等を皆で解消するのが民主主義です。政治家の皆さんもともに力を合わせて欲しい。

敬愛する国民のみなさん。
ひとつどうしても憶えておいて欲しいことがあります。6月抗争の中心は特定の階層、特定の地域ではなかったこと。司祭、牧師、僧侶、女性、民主政治家、労働者、農民、都市貧民、文人、教育者、法曹人、文化芸術家、言論出版人、青年、学生などすべての人たちが「民主憲法実現のための国民本部」に集まったこと。全国22の地域で同時に開かれた6.10国民大会が6月26日、全国34の都市と170か所で同時に開かれ「民主憲法実現のための国民平和大行進」に拡がっていった。このように6月抗争は特定の階層も地域もなかった。だから勝利したのです。私もこの運動に釜山で参加して民主主義は水のように流れる時が一番力を持つことを学びました。
独裁に立ち向かった1987年の青年が2017年に父親となって広場を見守り、弁当を差し出した87年の女高生が2017年には子どもの母親となってロウソクを持ったように、人から人へ受け継がれる民主主義は決して動揺することはありません。政治と日常が、職場と家庭が民主主義でつながる時、私たちの生活と命は動揺することはありません。私たちの生活力、社会の民主主義の力量がさらに成熟するように努力しましょう。私たちの周辺に日常化されている非民主的な要素は私たちがともに助け合って変えて行きましょう。個々人が覚醒した民主的市民になるための努力をともにしてゆきましょう。民主主義が政治、社会、経済の制度として定着して私たちひとりひとりが民主主義の訓練を日常的に経験すれば、どのような暴風にも負けずへし折られることはありません。6月抗争の名とともに民主主義は永遠であり、広場、国民にいつも開かれているはずです。
ありがとうございます。                               2017年6月10日



(注1)嶺南から湖南まで/全羅道から慶尚道まで
(注2)1960年、腐敗選挙・腐敗政治のために李承晩大統領が辞任に追い込まれた。運動の担い手は主に学生たちだった。
(注3)朴正煕政権下で野党新民党の金泳三代表を議員から追放したために起きた釜山・馬山で起きた大規模デモ1979年
(注4)光州市事件 朴正煕大統領暗殺後「春」を迎えた韓国の光州で起きた人民虐殺事件 戒厳令下、空挺団による市民の犠牲者168人 行方不明者は406人 1980年5月

  <翻訳後記>
韓国の民主化運動は1987年6月29日の「民主化宣言」によって大きく前進した。
長く続いた軍事独裁崩壊後も古い体質は残った。今回の文在寅大統領の登場によってその古い体質の一掃が期待されている。新政権発足後1カ月にあたる6月10日に行われた大統領演説を急いで翻訳した。翻訳の間違い、格調ある演説を伝え切れていないかも知れないが、新大統領の考えが伝わる興味深い内容である。
大統領選前後、文在寅氏を日本の主要メディアは「容共派」「反日」などと紹介したが、新政権が目指すことについて報じてこなかった。安倍政権は韓国に対して無条件に「仲良く」する「親日」を期待しているようだが、これはトランプ米新大統領に対して無条件にご機嫌取りに走った安倍政権のアメリカ追随の「裏返し」、韓国を低く見る傲慢さの表れと言える。安倍がトランプ大統領のポチになったように韓国にそれを求めるのは非常識だ。演説を読めば文大統領と安倍首相のレベルはけた違いなのがおわかりいただけるはずだ。
演説は6月民主抗争の記念式典でもあり、国内向けのメッセージとなっているが、北朝鮮の問題について一言も触れられていないことが不思議だ。韓国でも北の核と戦争の問題は一大関心事のはずだが、日本では北朝鮮問題―それも改憲、共謀罪がらみ北の脅威が盛んに取り上げられるのに比較すると拍子抜けするくらいに韓国では北の問題より民主主義に関心のウェートが大きいように感じられる。

大統領が強調する「国民のための政治」は日本の政治状況を考えると衝撃的なくらいに新鮮である。日本の評論家たちは口をそろえて従軍慰安婦問題」にせよ「北朝鮮問題」にしても日本政府の立場を代弁して韓国の未熟さを心配するが、自国のことを棚に上げた未熟な議論だ。
演説で、検察や報道の改革について触れている。過剰な人権弾圧と大企業寄りの検察に対する警告と御用報道機関に対する批判を念頭にしたものだ。
大統領ひとりが頑張っている印象が強いが、大統領の期待に応えて労働運動も市民運動も政府が目指す社会づくりを活発化させている。KBS、MBC、公共放送の体質改善要求、脱原発の運動、民主労総の委員長の釈放要求、教職員組合の合法化の運動も注目される。

私たちは韓国を「うらやましい」などと言っていられない。「歴史が違う」などとも云っていられない。韓国人は大きな犠牲を払って歴史を作ってきた。わが国では、朴槿恵前大統が厳しく追及された「お友だち政治」「国政の私物化」を見逃し、治安維持法以上の悪法を東京オリンピックのために成立させた。トランプ大統領も弾劾目前だ。私たちが何をすべきか明らかだ。

6月3日、我孫子駅頭でこれまで一人デモを続けてきたメンバー三人が共謀して「共謀罪反対」「9条守れ」「あべ政権は許さない」「原発なくせ」のプラカードを掲げた。三倍になったことをともに喜び、私は韓国に負けられないという思いを深くした。
共謀しよう! 民主主義を守るために。
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