2017.06.29  アルジャジーラを潰すな!
          中東唯一の自由な国際衛星TV局、サウジ、エジプトらが閉鎖要求

坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

サウジアラビア、エジプト、アラブ首長国連邦(UAE),バーレーンの中東4か国が突然、ペルシャ湾岸の半島(面積は秋田県ほど)にある富裕な(2015年一人当たり国民所得2万350ドル)産油国カタールと断交したのが、6月5日。大国サウジアラビアは、カタールとの唯一の陸上交通路を閉鎖、カタールに出入国する航空機,船舶の領空・領海通過を禁止した。以後、人口270万人の同国への、人間の出入りと、おもにイラン、トルコからの食糧輸入はじめ物資の流通は陸路を断たれ、サウジがわずかに認めたごく狭い海路、空路だけになった。
サウジやエジプトは以前から、中東全域に視聴者が拡がる国際衛星TV局アルジャジーラや、各国で活動する一部イスラム主義組織への支援、イランとの良好な関係などでカタールを非難してきたが、国交断絶、過酷な制裁実施は突然の措置だった。4国は、この措置の理由を公式には発表せず、外国通信社にいくつかの理由を漏らした。
 そしてようやく、22日になって、サウジアラビア政府からカタール政府に13項目の要求項目を記した公式な文書が届いた。諾否の回答の猶予期間は10日間。その要点は公式文書順に次の通りだー
1.イランとの外交関係の縮小、カタールでのイラン外交公館の閉鎖、イラン革命防衛隊員の国外退去、イランとの軍事・情報協力の断絶。イランとの貿易・経済協力は米国の制裁に同調すること。
2.カタールで建設中のトルコ軍事基地の即時閉鎖。国内でのトルコとの軍事協力中止。
3.すべてのテロリストとくにムスリム同胞団、IS=イスラム国、アルカイダ、ファタハ・アッシャム(もとヌスラ戦線)レバノンのヒズボラのほかこれまで及び今後サウジ、エジプト、UAE、バーレーンが宣言する組織との関係断絶。
4.テロリスト個人、グループ、組織に対するあらゆる資金支援の停止。
5.逮捕したテロリストの引き渡し、資産凍結、住居や資金についての情報交換。
6.アルジャジーラと関連報道機関の閉鎖。
7.主権国家への内部問題への不干渉。
8.カタールの政策がもたらした人命と経済的損失への補償。
9.カタールの軍事、政治、社会、経済政策の、湾岸はじめアラブ諸国のとの調整。
10.カタールと4か国の政治的反対勢力との接触禁止。
11.カタールの資金援助を直接、間接に受けているアルジャデイード(レバノン)などすべての報道機関の閉鎖
12.10日以内に.上記すべての要求を受諾すること。それ以外の回答は無効。
13.略
カタールのアルサーニ外相は早速、アルジャジーラの取材に4か国の要求を非現実的だと批判、クウエートが仲介にのりだした。
13項目の要求の中で、最も直接的、具体的な要求は、アルジャジーラの閉鎖だ。
アルジャジーラはカタールの首都ドーハに本社がある、中東で唯一の、国際衛星TV局。
政府が大きく財政支援する。電波が届かない中東以外でも、電子版でニュースと解説、多くの人の発言を知ることができる。自由、民主主義、人権を尊重する立場で、ぎりぎりのところまで報道している。(ネットで“aljazeera”参照)。サウジアラビアで行われている、様々な女性差別、不倫をした女性を投石で殺す残酷な刑罰の執行、少数宗派シーア派への圧迫などの人権侵害を報道してきた。
2013年のエジプトのムバラク独裁政権の打倒をピークにした「アラブの春」を支持し、最も精力的に報道したのはアルジャジーラだった。その後の初の民主的選挙での穏健なイスラム主義のムスリム同胞団政権の成立から、軍のクーデタ―による打倒、軍と治安警察が、抗議行動を続ける多数の一般市民を多数殺害した事実を、現場から報道したのは、アルジャジーラと英BBCなど少数の国際メディアだった。その後、軍事政権は打倒したモルシ大統領はじめ同胞団員・協力者数千人を逮捕投獄。アルジャジーラのカイロ支社を閉鎖、国外脱出をしなかった支局長以下の記者やカメラマンたちをほぼ全員逮捕した。現地報道は不可能になったが、エジプトでの同胞団弾圧について、アルジャジーラは鋭い報道を続けた。サウジアラビア主導の、湾岸諸国の内紛ともいえる今回の事態に、エジプトが加わったのは、サウジからの要請があっただけでなく、カタール政府がアルジャジーラを財政的支援していることと、モルシ政権と同胞団を支援してきたために違いない。
今回のカタール攻撃のもう一つの要点は、イランとの関係だ。カタールは湾岸アラブ諸国の中で唯一、イランと友好関係にある。最近サウジとイランの関係は、イエメンでの政府軍と反政府軍の内戦で、サウジが空爆をはじめ政府軍を全面支援、反政府勢力をイランが支援して、解決の見通しが立たないことがある。カタールはそのイランと友好関係を維持し、生鮮野菜を始めイランからの輸入に大きく依存している。スンニ派が多数の他の湾岸アラブ諸国は、少数宗派のシーア派をイランが物心両面で支援していると非難している。
トランプ政権下の米国もかかわっている。カタールには湾岸で最大のアルウデイド米空軍基地がある。しかしトランプは先月の中東初訪問で、サウジアラビア国王と首脳会談、湾岸地域でのサウジとイランの覇権争いでの、サウジへの全面支持を再確認した。イランの核開発を厳しく制限する欧米など6か国の交渉が15年10月に妥結、16年1月に合意の実行が確認され、制裁が解除された。しかし米国だけは、一部の制裁を残し、トランプ政権は今年1月の発足直後に一部強化した。トランプのサウジ訪問・首脳会談後まもなく、サウジが主導して、湾岸アラブ諸国で唯一イランと良好な関係を維持しているカタールへの制裁に突如着手したことは、トランプと同意したことがうかがわれる。(了)
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