2017.07.02    「共謀罪」法の強行採決を決して忘れない
         「声なき声の会」が6・15集会
   
岩垂 弘 (ジャーナリスト)

 安倍政権が参院本会議で異例の強行手段により成立させた「共謀罪」法が7月11日から施行されるのを前に、同法が成立した6月15日に東京であったささやかな集まりで話し合われたことを紹介しておきたい。それは、反戦市民グループ「声なき声の会」が主催した恒例の「6・15集会」で、57年前の日米安保条約改定阻止運動(60年安保闘争)で死亡した東大生・樺美智子(かんば・みちこ)さんを偲ぶ集いだった。集会では「よりによって、樺さんが亡くなった日に、それも国会審議の慣習を無視した禁じ手で共謀罪法を可決・成立させた安倍政権は許せない。このことは決して忘れない」といった声が相次いだ。

 1960年、岸信介・自民党内閣が日米安保条約改定案(新安保条約)の承認案件を国会に上程。社会党(社民党の前身)、労組、平和団体などによって結成された安保改定阻止国民会議が「改定で日本が戦争に巻き込まれる危険性が増す」と反対運動を展開。これに対し、自民党が5月19日、衆院本会議で承認案件を強行採決したため、これに抗議するデモが連日、国会議事堂を取り巻いた。
 千葉県柏市の画家、小林トミさんらが6月4日、「誰デモ入れる声なき声の会 皆さんおはいり下さい」と書いた横幕を掲げ、新橋から国会に向けて行進を始めた。沿道にいた市民が次々とこれに加わり、その人たちによって「声なき声の会」がつくられた。
 6月15日には全学連主流派の学生が国会南門から国会構内に突入、警官隊と衝突して樺美智子さんが死亡。抗議の声があがる中、新安保条約は6月19日、自然承認となった。
 その後、声なき声の会は「日米安保条約に反対する運動があったことと樺さんのことを決して忘れまい」と、翌61年から毎年、6月15日に集会を開き、集会後、国会南門で献花を続けてきた。今年は57回目だった。
 
 今年の6・15集会は6月15日の午後6時から東京・新宿区の早稲田奉仕園セミナーハウスで開かれた。小さな部屋に集まったのは約30人。常連が多く、大半が中高年。若者の姿はない。それでも、初参加の人が2人いた。「初めての参加者がいてうれしい」と、会場から声があがった。

 この会は何かを決議するということはしない。その代わり、参加者全員が発言する。それも、何を話してもかまわない。「声なき声の会」との関わりや、自らの身辺のこと、地域で起きていることを報告する人もおれば、内外の政治情勢に対する感想や、平和への思いを語る人もいる。

 今年の集会には、いつもと違う空気がただよっていた。緊迫感をともなう重い空気が会場を被っているように感じられた。おそらく、集会に先立つこの日の午前7時40分過ぎ、国会で審議中の「共謀罪」法案が自民・公明両党よる参院本会議での強行採決で可決、成立したからではないかと私には思われた。

 参加者の発言でも、このことに言及した人が多かった。
 ある男性「今朝、国会ですごいことがあったと知った。与党が共謀罪法案を強行採決したというではないか。強く抗議したい」
 初老の男性「自民・公明のやり方は、委員会での採決を省略し、本会議場で委員長の中間報告後にいきなり採決というやり方で、驚いた。まさに、あ然、ぼう然だった」
 板橋からきたと名乗った男性「今朝の新聞を見てびっくりした。日本では民主主義がなくなってしまったのかと。共謀罪法案については、疑問点が究明されなくては、と思っていた。なのに、強行採決で成立させるとは。民主主義が死んだことに憤りを覚える」
 台東区から来たという男性「政治は本来、三権分立に基づいて行われなくてはならないのに、今は安倍首相がすべてを牛耳っている。戦前は治安維持法で大勢の人が殺された。共謀法についても不安を感じる」
 女性の反戦運動家「(共謀罪法案に反対して)昨夜は10時過ぎまで国会周辺にいた。安倍首相は強行採決をする日として、(樺美智子さんが亡くなった)6・15を選んだ。強行採決を6・15にぶつけたのだ。そのことに、怒りを感じる」
 
 強行採決の時、国会周辺にいた63歳の男性の報告もあった。
 「ここ数週間、国会周辺につめかけた。昨夜も11時から今朝の8時45分まで国会周辺で座り込み、『共謀罪法案は絶対廃案』と絶叫した。このため、一睡もしていない。家に帰ると寝込んでしまいそうなので、JRの山手線に乗って2周、この間車内で寝て、この会場にきた」
 「共謀罪法案は、朝7時45分に可決された。8時半、国会周辺にいた人たちで『共謀罪法は絶対廃止』と最後のシュプレヒコールをしたが、私は声が出ず、泣きそうになった。きょうから、死ぬまで『共謀罪法は絶対廃止』と叫び続けたい」

 日本の現状分析、将来展望を踏まえながら、「反戦」を目指す市民としてはこれからどう生きてゆくべきかといった視点から意見を述べた人もいた。そのいくつかを紹介すると――
 
 高齢の男性「57前と比べて日本は悪くなっている。日米安保条約はなくなっていないし、沖縄では新しい米軍基地の建設が進んでいる」
 60年安保闘争のころは高校生だったという男性「驕る安倍首相は久しからず。戦争への暴走を許すな」
 千葉在住の元教員の男性「教員時代、子どもたちには、幅広い視点で世の中を見てほしいと、教科書に書かれていること以外のこと、例えば農業や原発のことなどを話した。しかし、卒業後、彼らに会うと、私の価値観とは違った保守的な人間に育っていた。彼らにしてみれば、いい大学、いい会社に入ることだけが目標だったから、教科書以外のことには関心がなかったのだ。つまり、生活の物質的豊かさだけが彼らの関心事だったのだ。安倍内閣への高い支持率はそうした人間によって支えられている。その安倍内閣は、こうなってほしいと私たちが望んでいる方向とは真逆の方向に進んでいる。私は、これからも抗い続ける」
 1980年からこの集会に参加している女性「最近、ひょんなことから大学に入学したが、学生が真面目でおとなしいことに驚いた。そして、20代の学生の間で安倍内閣支持率が高いのにも驚いた。私自身は、安倍首相がやりたい放題なのが嫌でたまらないのだが、彼らは果たしてそれに気がつくだろうか。若者もいつか気がつくだろうと思いたい。その時、彼らに参考にしてもらえるようなことをしてゆきたい」
 10年前から参加している埼玉在住の男性「運動では、若い人は見かけない。しかし、細くても運動を続けてゆけば、つまり、種をまいてゆけば、運動は続いてゆくのではないか。だから、あまり暗く考えない」
 神奈川県松田町から参加した男性「集団的自衛権行使を可能にする安保法制に反対する運動に参加したが、阻止できなかったので、徒労感がある。が、毎年6月15日に、互いにどこにいるか分からない人たちが集まって国会へ行き、樺さんの霊に献花することの意味は大きい。それは細い灯かもしれないが、燃え続けると、パッと輝き出すかも知れない。私は、意地でも続けたい」
 高齢の男性「安倍首相は憲法9条に自衛隊の存在を追加すると言いだした。いよいよ改憲に向けた作業の始まりである。自民党も日本会議も本格的に動き出すだろう。われわれも先を見越して動き出さねば。われわれにはすることがいっぱいあるのだから」

 これらの意見をメモしながら、ひときわ私の心を捕らえた発言があった。それは、埼玉県でアパートの管理人をやっているという常連の男性のそれだった。
 「これまで、この集会に来て教えられたことがあった。それは、私たちにとって大切なことは『忘れないこと』と『続けること』ということだった。きょうは、もう一つ大切なことを教えられた。それは、『あきらめないこと』だ」

 声なき声の会の6・15集会は来年以降も続きそうである。
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