2017.11.14 自公政権「圧勝」の先にあるもの
         
小川 洋 (大学非常勤講師)

 「若い根っこの会」という組織をご存知だろうか。1959年に発足して最盛期には3万人以上の会員を抱えて活発に活動をしていた。しかし現在では高齢者の間でも、「そう言えば」程度でしか記憶されていない。50年代後半から60年代にかけての時期、集団就職などで単身、大都市に出てきた若年層を積極的に組織したのが、若い根っこの会と創価学会だった。

 若い根っこの会は日曜日のピクニック開催など、会員の交流機会を作る活動を中心としていた。対象の世代が結婚するなどして離れていき、現在は埼玉県の川越市に小さな本部が残っているだけである。一方の創価学会は、同じ層を対象に生活上の要求を実現するために政治に進出した。55年には首都圏の地方選挙で公明党として政界進出を果たした。以後、創価学会は公明党を通じて、不安定な職場、劣悪な居住環境など、大都市で恵まれない境遇に置かれていた若年層に交流の場を提供するとともに福利向上のため、行政への働きかけを行っていく。この点で、民主青年同盟(日本共産党)と競合する性格ももった。今でも公明党と日本共産党が不俱戴天の仇の関係にあるひとつの理由である。もっとも若年層の組織化という点では、支持者を動員の対象としてしか見なかった共産党は伸び悩んだ。

 創価学会が池田大作氏のもとで政治活動をいっそう積極的に展開するようになると、信者たちの選挙運動への関わりは熱を帯びるようになる。戦前・戦後を通じて選挙権の行使にもっとも手ごたえを感じる人々だったであろう。69年の都議選では投票所で会員が職員に暴行をはたらく事件を起こしている。創価学会は、自民党議員の後援会や労働組合と並ぶ選挙マシーンとなった。

 筆者は70年代から30年ほど、大都市圏近郊の複数の公立高校教員として働いた。生徒の家庭の宗教・宗派を知る機会は少なかったが、多少の例外があった。そのひとつが創価学会だった。進学校では、担任が個別に生徒の進学希望の内容を聞く。その際に生徒の口から創価大学の名前が出てくることがあった。互いに多少、気まずい雰囲気となり会話はそこで終わってしまう。また放課後、部活動に参加せずに急いで帰宅する生徒の中には、保護者が創価学会の熱心な活動家で、夕方からの信者組織の会合などに子どもを頻繁に同道さていたケースもあった。創価学会は現在でも信者数を個人ではなく世帯数で示している。教義上の理由もあるようだが、信者の多くが組織的な政治活動を通じ、社会の下層から家族単位で這い上がってきた事情を反映している。

 自民党と公明党の両者に共通する強みは、ともに支持者の要望に応えて日常的に行政へ働きかけをすることである。自民党は後援会を通じて、国政から支援者の個人的な世話までする。公明党は初めのうちは公営住宅への入居など、生活に密着した家族単位の要望の実現に働いたと言われるが、現在では企業経営者となっている会員もいるから、自民党と似た構造となっていると思われる。公明党の「平和の党」や「福祉の党」という看板も、行政への働きかけと選挙運動が政治活動のほとんど唯一の実態と化す過程で、すっかり色褪せた。

 90年代以降、自民党は何回か政権から転落し、その度に官僚たちから冷たく扱われた。公明党は長い経験から、行政への効果的な働きかけには与党でいる必要を学んだ。両者は99年に国政レベルで連立政権を組んだ。地方によってはそれぞれの支持者が対立関係にある場合も多かったはずだが、民主党政権下の3年間も連携は崩れなかった。それほどまでに一体化したということであろう。
 自民党と公明党は選挙区の区割りを厳密に行い、かつ創価学会の会員が集票行動の手足となって、両党による国政や地方議会での支配を維持してきた。自公協力後の05年、公明党の総選挙比例区の総獲得票数は898万に達し、以前の500万票あまりから、400万票近くが上積みされた。公明党は多くの議員を国会に送るようになり、自民党も小選挙区での当選を確実なものにできるようになったのである。

 今回の総選挙結果も与党の圧勝であったはずだが、関係者たちは、いまひとつ浮かない表情をしている。いくつかの不安材料が表面化してきたのだ。第一に、公明党の比例区得票数が698万票にとどまり数名の落選者も出したことである。わずか10年余りで、公明党は選挙協力で積み上げた票をほぼ半減させた。創価学会員たちの熱心な選挙運動と投票行動から考えれば深刻な数字のはずである。

 第二に今回、公明党が候補を立てた小選挙区では無効票が10%前後に達するという異例な事態が生じたことである。全国平均は3.31%である。創価学会員は投票所に行くことを強く求められるが、共謀罪法案や安保法制などへの公明党の姿勢に不満を抱く会員が増えているとする情報を考えると、一定数の会員が無言の抵抗として、投票所には行くが無効票を投じたと考えられる。野党が統一候補を立てていれば逆転につながった可能性もある。

 ここから見えるのは、支持者たちの高齢化が確実に両政党の体力を蝕み始めていることである。例えば私が教師として関わった生徒の保護者たちの創価学会員は、すでに60代後半から70代である。彼らの子どもたちの多くは、それなりの学歴を得て、自力で生活するようになり、創価学会の政治力に依存する必要性は低くなっている。また高齢者ほど、公明党に求めるのは生活権の保障であり、治安法制のような法案成立に協力する公明党の動きには強い違和感をもつだろう。また、自民党の後援会も、地方では少子化によって後継者難も深刻化し、活動が低調になりつつあり、選挙運動でも創価学会の力を借りざるをえない。自公協力による集票力には明らかに陰りが見えつつある。

 つまり二つの組織は、極端な言い方をすれば老々介護に近い状態の協力関係になりつつあり、長い目で見れば共倒れに向かって進んでいるようにみえる。投票率が5割程度に低迷していることによって、かろうじて選挙に「勝利」しているに過ぎないとも言える。

 行政への影響力を最大の強みとして支持者に支えられてきた自公政権が続いた結果、とくにこの数年間の安倍政権のもとで、彼のパーソナリティも手伝って、国政の私物化が進められた。政治の質はひたすら低下してきた。安倍首相と特別な関係にあった森友学園、加計学園に、前例のない行政上の便宜が図られたのは象徴的な事件であった。しかし、それらの問題が表面化しても、政権批判の投票行動が拡大するどころか、政治的組織に関わりの少ない国民は、ますます投票所に足を運ばなくなってしまった。

 労働組合は連合成立以降、また農協もTPP問題などで自民党の攻撃を受け、以前ほどの集票力は期待できなくなっている。さらに高齢化という点では、組織の強みを生かして選挙に取り組んできた日本共産党にも同じことはいえるのである。

 政党の基盤が脆弱化していくのと反比例して、組織力を発揮するようになるのは官僚組織であろう。昭和恐慌による社会混乱は、官僚組織と結びついた軍部の冒険的な対外軍事行動の拡大による国家の破滅という結末に行きついた。安倍政権にはすでに、それを繰り返す徴候を見てとることができる。
 安保法制は外務官僚と防衛官僚、共謀罪法案は警察官僚によって、それぞれ用意された。いずれも日本の国際的立場や国民生活を脅かす可能性の高い法案である。そして審議の過程では、首相をはじめ関係閣僚ともにまともな説明能力がないことも明らかになっている。今回の自公政権の圧勝の裏側をこのように見てくれば、我が国の政治状況は容易ならざる段階に至っていると考えざるをえないのである。
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