2018.04.26 「昭和の時代」を物語る写真集

―私的エールですが読んで下さい―

半澤健市 (元金融機関勤務)

 私事から始めることをお許し願いたい。
2018年4月16日開催の高校同期会の案内に「橋寿」記念とあった。意味不明のまま出席したら、幹事が「橋」は「ハシ=八四」の意味で八四歳の祝いだと説明した。
2年前の「半寿」の会は、「半」を「八十一」と読むのだと広辞苑に記述があった。

《新制中学・新制高校・六三制の同窓会》
 私の年代の高校進学者は、1947年に発足した新制中学の第一期生で、1950年に新制高校へ入った。旧制府立二中、現在の都立立川高校である。かつての進学校も今は一時ほどの勢いはないが、青春期の三年を過ごした母校に、私は自分なりの愛着がある。

当時、2・3年生の上級生は、全員男子の旧制中学からの移行組であり、我々新入生は「試験なしで中学に入った〈六・三型〉だ」と、揶揄された。「六・三型」とは、戦後改革による教育の「六・三制」と、ドアが開かずに大火災事故となった国鉄車両の名称「モハ六三型」とを掛けたマイナスのイメージの表現である。事故は「桜木町事故」(1951年)と呼ばれた。

幹事報告によると同期生の現状は次の通りである。卒業生411名(男女比は3対1)。その内訳は、連絡可能235、出席71、欠席89、無回答75、物故者・不明者176。
約2時間半の写真撮影、挨拶、雑談に自ら入り観察した私の印象は、「子供から大人になり再び子供へ還ってゆく動物」、これが人間だというものである。出席者の三分の一の言動は、思い込みと同じことの繰り返しであり、私には理解不能であった。私の言動も他人にはそのように映るのであろうと思った。

《『昭和の東京』というアマチュアの写真集》
 前振りが長くなりすぎた。私の伝えたいのは、上記の同窓会で知った一冊の写真集である。同級生である著者と話し込んでこの話になり、彼は親切にも送ってくれたのである。
その書名は『昭和の東京―街角の記憶』である。著者(=写真と文)は宮崎廷(みやざき・ただし)。この4月に刊行されたばかりである。
宮崎君の写真への興味と実践を、私は高校在学中には知らなかった。知ったのは15年ほど前である。彼は青梅線沿線から高校に通学していたが、大学は法政大学に進み、社会人としては地元の青梅市役所に勤めた。

同書の「はじめに」に宮崎君はこう書いている。(■から■)
■東京も中心街はすでに戦前の賑わいを取り戻していたが、街を行けば制服姿の米兵や外国人の家族とすれ違い、駅頭に立つ傷痍軍人が奏でるアコーディオンからは「異国の丘」のメロディーが流れ、戦争の影が消え去ったとは言えなかった。私が東京を撮影し始めたのはちょうどそんな時代で、都心へ通学するようになったのがきっかけである。
東京駅を中心として日本橋、銀座といった日本を代表する商店街は、田舎育ちの学生である私にとって別世界のような街であり、浅草へは出かけるたびに新しい発見のある楽しい盛り場だった。(略)本書に収録した写真は昭和30年頃から昭和の終わりまでに、東京の市井の人々の姿を中心に撮影したものである。(略)昭和という時代を支えてきた方々が古い記憶を呼び起こし、読者ご自身の昭和をたどるきっかけにでもして頂ければ幸いである■

《私の企業人時代に見た風景がいっぱい》
 私(半澤)の金融機関勤務は、短期間の海外研修を除いて、1958年から1995年にわたる約40年間、東京を離れたことがなかった。しかもその大半が日本橋であり、次いで丸の内と八丁堀であった。極私的視点になるが、本書18頁の空中写真「空から見た日本橋」(本書中の空中写真は朝日新聞社提供、これも実に良い)に、私が最初に入った企業である「野村證券」のビルが写っている。さらに私には―いや私だけには―その看板の下に「東洋信託銀行」という白地の社名看板が見えるのである。後者は前者が都銀二行とともに出資設立した信託銀行であった。そこで私は企業人人生の大半を過ごしたのだが、のちに「三菱UFG信託銀行」に吸収されてしまった。三菱と野村の社員はそんなことは知らぬであろう。一事が万事である。この写真集を時間をかけて見るとき、私は胸に迫るものを抑えることができない。

《あなたを感傷的にしたのちに深い思索をもたらすだろう》
 宮崎君はアマチュアではあるが、自己流で写真を撮ってきたのではない。彼は田沼武能という優れた写真家に師事して腕を磨いてきたのである。田沼氏は、本書をこう評価している。
■写真の良否にはプロもアマチュアもなく、如何にその時代を記録し、その記憶を語っているかが評価される。本書はその時代の東京の人々の暮らしから心意気までを語っており、「昭和の時代」を物語る第一級の記録である■

前振りだけではない。写真集紹介もお前の仲間褒めではないか。
そうではないつもりである。読者には是非、手にとって本書を眺めて貰いたい。
あなたはここに、「モノはなかったが夢はあった時代」の人々の笑顔と希望をみるだろう。高度成長が、「共同体」や「地霊」を破壊してゆくさまを、生活が向上する一方で、「日本の風景」が個性のない景色に変貌する寸前の姿を、あなたは見るだろう。それは、あなたに強い感傷の気持ちと深い思索をもたらすだろうと思う。(2018/04/23)

●宮崎廷(みやざき・ただし)著『昭和の東京―街角の記憶』。フォト・パブリッシング出版、メディアパル発売、2018年4月刊。2400円+税
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