2018.05.02 じわじわと緊張高まる台湾海峡――問題の根は深い、米中はどこまで本気か(上)
新・中国管見(37)

田畑光永 (ジャーナリスト)

 4月27日、板門店での南北朝鮮首脳会談は金正恩のなかなかのパフォーマンスもあって、しばらく前までの緊張した空気を嘘のように吹きとばした。とはいえ、問題の核心である朝鮮半島の「非核化」はそれを南北双方が「目標とすることで一致した」というにとどまり、すべては米朝会談およびそれ以降に持ち越されたままではあるが、あぶなっかしい指導者どうしがいつ引き金に手をかけないとも限らないという不安がとりあえず消えたことはご同慶のいたりである。
 ところがその間、南の台湾海峡で風波がじわじわと高まってきた。GDPで世界の1,2位を分け合う米中両国は追うものと追われるものの常として、関係は腹の底から打ち解けたものではありえない。しかし、正面から殴り合いをするほど愚かでもないから、時に激しい言葉をぶつけ合い、時に握手を交わすという「大人のつきあい」で日を過ごすというのが、当事者にとっても第三者にとっても常識のはずである。
 しかし、トランプ政権の登場は時にその常識が崩れるのではないかという危惧を周囲にあたえた。
 トランプ時代の米中関係
 まず一昨年の年末、トランプが大統領選に勝利した直後に台湾の蔡英文総統からの祝いの電話に出て、「総統!(president)」と中国が嫌う台湾の職名で呼びかけ、それが物議をかもすと、「1つの中国」の大原則さえ「取引(deal)」によっては守らないとまで言って、周囲を驚かせた。
 その後、昨年は核・ミサイル騒ぎの中で、北朝鮮に制裁を加える点では両国は歩調を合わせたから、習近平とトランプの相互訪問も無事に終わって、両国関係は平穏を保った。
 もっともその間も南シナ海における中国の環礁埋め立て、軍事基地造成に対抗して、米側は「航行の自由作戦」と称して、ミサイル駆逐艦に同海域を遊弋させるというつばぜり合いを何度か演じてはいた。
 空気が変わったのは今年に入ってからである。3月22日、トランプは中国が知的財産権を侵害しているとして中国製品に25%の追加関税を課す大統領令に署名。さらに鉄鋼、アルミ製品に25%、10%の特別関税をかける輸入制限を発動と、対中貿易赤字削減を大義名分に中国に「貿易戦争」を発動した。
 これに対して、中国も負けじとばかりに4月2日、対抗措置として米から輸入している果物、ワイン、豚肉など128品目に最大25%の関税を上乗せする対抗策を公表、一歩も引かない姿勢を示した。
 もともとこの「戦争」はトランプがこの秋の中間選挙に向けてのパフォーマンスではないかと言われたが、結果的にはそれを裏付けるように、その後もやり取りは続いているもののしりすぼみになりつつある。
 その理由は米中貿易の構造そのものにある。米が中国から輸入するのが約5000憶ドル、
米から中国へ輸出するのが約1300憶ドル。したがって年間の貿易赤字はざっと3700憶ドルに上る。これが米国内の労働者の仕事を奪っているというのがトランプの言い分であるが、では米が中国からの輸入1000憶ドル分を減らす措置をとったとして、もし同額を中国側も米からの輸入を減らせば、輸入額の80%近くを減らすことになり、その中には大豆、トウモロコシ、ワインなど農産物などが含まれることになり、トランプ支持層を痛めつける。
 それでは米が中国からの輸入の5分の1(1000憶ドル)を減らすのだから、米からの輸入の5分の1を中国が減らすのでは260憶ドルにしかならず、それは米全体の輸出額の何ほどにもならず、対抗措置にはならない。それに米が中国から輸入する製品のかなりの部分は米企業が中国に工場を建て、安い中国人を使って作らせているものだから、それを減らすことは米企業に打撃を与え、米国内の物価を高くすることになり、誰の得にもならない。
 対立の実質
 というわけで、この「戦争」、トランプの初めの勢いはいつの間にかすっかりしぼんで、5月初めにライトハウザーUSTR(通商代表部)代表らが訪中して中国側と話しをすることになってはいるものの、もはや大問題ではなくなったといっていい。
 しかし、これで米中間に経済の火種がなくなったというわけではない。それどころかじつは「貿易戦争」に目を奪われている間に、両国間では目に見えないところで激しい争いが続いていて、それがここへきてにわかに火を噴いたのである。
 それは第5世代(G5)といわれる次世代通信革命をめぐる主導権争いである。そしてこれこそが米中対立の本命であると思われる。それがあるからこそ最近の台湾海峡をめぐる緊張にも新しい要素が加わったのではないかと見られているのである。
 4月16日、米商務省は米企業に今後7年間、中国国有企業で通信機器大手の「中興通訊」(ZTE)との取引を禁じた。取引禁止というのはこの会社から物を買ってもいけないし、売ってもいけないということである。
 この厳しい措置の理由は2010年から16年までの間、同社が米の輸出規制に違反し、ダミー会社をつかうなどの方法でイランや北朝鮮に通信機器を輸出していたというもの。同社はその事実を認め、昨年3月に罰金(1300憶円)を支払うことで合意したのだが、その後も当局に虚偽報告を続けたということで、新たに取引禁止という厳しい措置となったという。
 この「中興通訊」は昨年のスマホの出荷台数は4300万台でシェアは世界9位。米国ではそのうち約半分の2100万台を売り、シェアは4位である。そして同社はスマホの基幹部品である半導体と基本ソフトの「アンドロイド」を米社からの供給に頼っている。したがって、今後7年間も米企業との取引を禁じられては同社は立ち行かないだろうと見られているという。
 ここまででは終わりそうもない。4月25日、ウォール・ストリート・ジャーナル紙など複数の米メディアが、今度は中国の通信機器最大手「華為技術」(ファーウェイ)を米司法省が捜査していると伝えた。容疑はやはり対イラン制裁に違反したかどうかといわれるが、まだ公式には明らかにされていない。
 もし中興に続いてファーウェイまでが同様な措置を受けるとなると、ファーウェイは売上高で中興の5倍、スマホの販売台数は17年に1憶5300万台と韓国サムスン(世界シェア22%)、米アップル(同15%)に続く世界3位、10%のシェアを持つだけに、中米関係における比重は中興をはるかに超える。
 ファーウェイについてはすでに安全保障上の理由から、米政府は公的機関が同社の製品を購入、使用することを禁じているが、公的機関のみならず私企業まで全面的取引停止となると、同社に半導体やソフトを提供している米企業にも大きなマイナスとなる。
 にもかかわらず、米政府が中国の大手通信機器メーカーをここまで目の仇にするとすれば、それは一時的な損得を超えた長期的な国家戦略に基づくものと考えられる。中国は2025年における製造技術の目標到達点を「中国製造2025」として公表している。そこには半導体など5G世代の通信技術を世界最先端レベルに引き上げることも掲げられている。
 そしてこれが米をいたく刺激しているという説がある。人口で4倍近い差がある以上、いずれGDP総額で中国に抜かれることはやむをえないにしても、技術の世界で並ばれたり、追い越されたりするのは、これからいよいよIoT(すべてをインターネットへ)時代に入ろうとする時期だけに我慢がならない、というのだ。
 中国もやられ放題というわけではない。米クワルコム社がオランダの車載半導体大手のNXPを買収しようとしているのに対して、中国の独禁当局が審査を長引かせていたり、ほかでもない日本の東芝の再建策の柱である同社半導体事業を日米韓のファンドへ売却する件でも審査を長引かせて、再建策の見直しを迫るというところまで来ている。
 こうした米中経済戦争を背景に台湾海峡が波立っているのは気にかかるところである。以下では最近の台湾をめぐる動きに目を移したい。(未完)

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