2018.05.18  中間選挙で危ういトランプ大統領のエゴイズム
  イラン核合意破棄と大使館エルサレム移転

伊藤力司 (ジャーナリスト)

東西冷戦終結後約30年―アメリカのクリントン、ブッシュ、オバマ政権はアメリカの国益に沿ってアフガン戦争、イラク戦争を戦いながらも、中東・イスラム圏での戦乱を封じ込めようと努力してきた。ところが現在のトランプ大統領は、国内での不人気を挽回するために反イラン・親イスラエル政策を強烈に打ち出し、中東の危機を深めている。

トランプ政権は5月8日、イラン核合意(JCPOA)らの一方的離脱を表明したのに続いて同14日、米大使館をテルアビブからエルサレムに移転した。いずれも米国内の反イラン・親イスラエルの世論に迎合したものである。

アメリカでは今年11月に「中間選挙」が行われ、米下院議員435人全員、米上院100人中33人が改選される。現在の下院はトランプ与党の共和党が多数派を占めているが、最近の各州の趨勢は民主党が優勢を占めつつある。

このままで行けば中間選挙で共和党が敗れ、下院で民主党が多数派を占めることになりかねない。一般人気投票で30%台後半の支持率で低迷しているトランプ大統領としては、中間選挙で共和党が負けたら大変なことになる。

アメリカ憲法の規定によると、下院が大統領弾劾を過半数で議決すれば有効となる。しかし下院で弾劾されても上院で弾劾されなければ、クビはつながる。上院では大統領弾劾には3分の2多数の議決が必要だ。クリントン元大統領は下院では弾劾されたが、上院で3分の2多数の弾劾議決を免れ命拾いをした。クビはつながっても大統領の権威はがた落ちだ。

2018年のこれまでの趨勢では、共和党の地盤とされてきた中西部などの州で、トランプ共和党の旗色が悪い。トランプ大統領としては、何としてもこの流れを止めなければならない。そのためにはアメリカ世論に圧倒的な影響力を持つ「イスラエル・マフィア」の力を借りるのが手っ取り早い得策だ。

イスラエル・マフィアの中枢はユダヤ系資本が中枢を占めるウォール街だが、その財力で全米のイスラエル支援組織に充当な資金が振り撒かれる。全米各州の親ユダヤ・イスラエル組織は、全国レベルまたは地方レベルの各種選挙に、民主党または共和党の候補を推薦して当選を果たす。

全米の親ユダヤ・イスラエル組織の中でも際立った組織がある。全米人口3億2000万人の25・3%を占めるといわれる「キリスト教福音派」だ。トランプ大統領の有力な支持基盤であり、彼は米大使館のエルサレム移転を2016年の大統領選挙の公約に掲げていた。11月の中間選挙を前に、大使館移転の公約を実行して「福音派」の支持基盤を固めておこうとしたものだろう。

「福音派」には、ユダヤ民族主義を支援する「キリスト教シオニスト(ユダヤ人国家再建主義者)」と呼ばれる人が多い。イスラエル建国を聖書の預言通りととらえ「ユダヤ人を集めることでキリスト再臨の条件が整う」と主張する。ユダヤ人がアラブ人やイスラム教徒とパレスチナで先に戦い、その後にキリスト教徒が「約束の地」に行くことで真の救いがエルサレムに訪れるという考え方。キリスト教徒の自己中心的な発想だが、アメリカでは有力だ。

イラン核合意(GPOA)とは、2015年に米露中英仏独の6か国がイランと結んだ協定で、イランの核兵器開発を抑止する一方、イランの石油輸出など対外経済活動の自由化を認めたもの。この協定で世界有数の産油国イランからの石油が世界市場に流通し、燃料価格が世界的に低下した。

アメリカ以外のGPOA参加の英仏独中露5か国は、アメリカが離脱した以降もGPOAを持続させようと協議中だ。しかしアメリカが離脱したことで、イラン産原油の先細りを恐れたニューヨークの原油先物市場では、バレル当たり65ドルだったものが71ドル台に跳ね上がった。バンカメの予測では1年後に原油価格は100ドルを超えるかもしれないという。

日本国内でのガソリン価格も、5月前半までリットル当たり140円台前半だったものが5月後半には140円台後半に値上がりしている。トランプ大統領の利己的な動機は世界中に波及するが、世界中の庶民はただ黙って見ているより仕方がないのだろうか。
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