2018.07.24 パレスチナの今を見た④
JICAの理数教科書改訂支援、支援団体の「心のケア」活動

 坂井定雄 (龍谷大学名誉教授)

  以前からの実感だが、パレスチナでは日本人への好意、好感があり、居心地が良い。
 今回もそうだった。治安に対する誤解から、日本人旅行者はほとんどいないが、JICAはじめ経済協力・援助に携わる公的機関の人々と民間のパレスチナ支援団体の人々が、誠意をもって努力し、人々と接しているからだと思う。 
 日本外務省の「パレスチナ基礎データ」によると、経済協力の主要援助国として日本は米国、ドイツに次ぐ3位。1993~2016年度の累積額は計約17.7億ドルで決して大きな額ではない。米国はイスラエルを抱えてのパレスチナ支援だが、トランプ政権が大幅に拠出額を減額した。
 今回、支援活動に直接携わっている人々とラマラ、北部のナブルスそしてエルサレムでお会いして、詳しく話を聞くことができた。感心し、感動した。一部を紹介したい。

▼理数教科書の抜本的改訂に取り組む日本の専門家
 広瀬正臣さんは著名な理科教科書の専門家。JICAパレスチナ事務所長の三井裕子さんに紹介していただいた。JICAはパレスチナ自治政府教育省の要請で、PAJEC(パレスチナ日本理数カリキュラム開発協力)事業を進めている。教育省は、6・3・3制の義務教育の9年度に分かれる理系、文系のうち理系の数学と理科(生物分野と物理・化学分野)の教科書を改善するため、JICAに支援を要請した。JICAは日本のパレスチナ支援団体の協力を得て、理科担当の広瀬さんとジェバリ・ナシムさん(通訳・翻訳)、数学担当の専門家を派遣、2017年11月から2年間370日の作業を開始した。
 広瀬さんの作業は、第1分野(生物)、第2分野(物理と化学)の教科書(アラビア語)を順次英語そして日本語に翻訳し改訂していく。現行の教科書は、67年戦争まで西岸地区を統治していたヨルダンと共通のものだが、日本ではすでに抜本的に改良されている上から教える一方の教科書。それを日本と同様の、学生参加型の授業の教科書に改革するのだ。自治政府教育省の担当者は、その教科書改訂の重要性をよく認識しており、JICAに支援を求めてきたようだ。広瀬さんとナシムさんは、数学担当の佐藤さんとともにパレスチナ側の信頼を得ていることが、詳しく聞いた説明からよくわかった。
 広瀬さんとナシムさんは、真夏なのに黒い背広にネクタイの姿だったが、「大臣にいつ呼ばれるか分かりませんからね」とのことだった。

▼子供たちの「心のケア」
 日本には、パレスチナ支援団体がたくさんある。ネットで「パレスチナ支援団体一覧」を調べれば分かる。戦争や貧困で苦しむ途上国への支援の一部として、パレスチナでも支援活動に取り組んでいる組織も多い。
 今回はラマラ、ナブルス(西岸地区北部の都市)で「地球のステージ」の田川奈美さん、エルサレムで「パレスチナ子どものキャンペーン」の中島希さんらから、話を聞いた。
 「地球のステージ」は2003年からガザで7-16歳の子供たちを対象に心理社会的ケア(心のケア)の活動をはじめた。2017年から西岸地区のラマラに活動をひろげ、田川さんが責任者となって、以前から活動を始めていた現地団体と協力して、難民キャンプ2か所で本格的に活動をはじめた。ナブルスにも活動を広げつつある。子供たち数十人のワークショップで、しゃべり合い、描画、粘土細工、ジオラマ制作、映画作成の1年間プログラム。最後に家族や先生たち、地域の人たちを集め、作品の大発表会をするプログラムだ。
 子供たちは、どんどんにぎやかに、楽しそうになっていくが、ヨルダン川西岸地区では、昼も夜もイスラエル軍と接触することがあり、心の奥底に恐怖と憎悪が根付いているという。心のケアは、とても大切な仕事だが、けっして容易な仕事ではない、と思った。
パレスチナの今を見た④写真1
写真説明1:パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区北部のナブルス市。イスラエル軍は、昼間は市内から姿を消すが、夜間、反イスラエル活動家の逮捕など市内を急襲することも少なくないという。
パレスチナの今を見た④写真2
写真説明2:ナブルスには古い大スーク(市場)がある。香料専門店も有名だ。
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