2018.08.23 二重否定(俗語体)
二重否定は日本語では肯定を表すが、英語では否定を表す

松野町夫 (翻訳家)

二重否定は否定したものをもう一度否定すること。日本語の場合、否定の否定は肯定なので、「興味がないではない」は「(いくらか)興味がある」という婉曲な肯定を表す。

二重否定は英語で double negative という。 しかし、日本語の二重否定と英語のダブル・ネガティブは根本的に異なる。日本語の二重否定は肯定を表し標準語体だが、英語のダブル・ネガティブは否定を表し俗語体ということ(以下参照)。

二重否定
否定したものをもう一度否定して、肯定を表すこと。「楽しくなくはない」など。double negative
【日本語大辞典】

double negative
二重否定: 俗語体で1つの節の中に2つの否定語を用いて1つの否定の意味を表す構文;
例 I didn't hear nothing. (= I didn't hear anything.)
► 英語の初期の時代には標準的な強調形と認められていたが、今日では教育のない人の非標準的な語法とされている。【ランダムハウス英語辞典】

double negative: noun
(grammar) a negative statement containing two negative words. ‘I didn’t say nothing’ is a double negative because it contains two negative words, ‘n’t’ and ‘nothing’. This use is not considered correct in standard English. 【OALD7英英辞典】
筆者訳► 二重否定: 名詞
(文法) 否定語が(ひとつで充分なのに)ふたつある否定文のこと。 “I didn’t say nothing.” は二重否定である。なぜならこの否定文には n’t と nothing という2つの否定語が使われているから。こうした用法は非標準的な表現とされる。【OALD7英英辞典】

古期英語(OE)や中期英語(ME)の否定文では、否定形をとりうる単語はすべて否定形にして、二重、三重に否定を繰り返すことが普通であった(否定呼応)。英語はもともと、否定呼応を用いる言語だった。

しかし否定を表すのに、複数の否定語を呼応させる方式よりも、否定語一つで否定を表す方式が単純で効率がよい。こうして現代英語は否定呼応を廃止し、二重否定や三重否定など いわゆる多重否定(multiple negatives)を非標準的な表現として退けた。ところが二重否定や三重否定は現代でも、口語英語で普通に使われている。

夕食はいらない。
I want no dinner. → 標準的な表現
I don’t want no dinner. → 二重否定(非標準的な表現)

私は何も知らない。
I know nothing. / I don’t know anything. → 標準的な表現
I don’t know nothing. → 二重否定(非標準的な表現)

彼は決して危険なことはやらない。
He never takes risks. → 標準的な表現
He don’t never take risks. → 二重否定(非標準的な表現)

私は誰にも危害を加えたことなんかなかった。
I never did any harm to anybody. → 標準的な表現
I never did no harm to nobody. → 三重否定(非標準的な表現)

誰にも何も言ったことはない。
I never said anything to anybody. → 標準的な表現
I never said nothing to nobody. → 三重否定(非標準的な表現)

俗語体の二重否定について、ケンブリッジ英文法 CGE (Cambridge Grammar of English) の解説・例文を以下に引用する。ただし筆者訳や矢印文言の補充、打消線の削除など、多少編集した。

Double negatives and usage 
二重否定と用法


Words such as never, nobody, no one, nothing, nowhere have a negative meaning and do not require a negative verb form:
筆者訳: never, nobody, no one, nothing, nowhere のような単語には否定の意味があるので動詞の否定形は必要ない:

私が公園についたとき、そこには誰もいなかった。
When I got there, there was nobody in the park. → 標準的な表現
(When I got there, there wasn’t nobody in the park.) → 二重否定(非標準的な表現)

どこにも誰も見ていない。
I saw nobody anywhere. → 標準的な表現
I didn’t see nobody nowhere. → 三重否定(非標準的な表現)

Double and multiple negatives are used, especially in spoken English, in order to create emphasis. Traditional grammar books prohibit them, and the use of double negatives with words such as never, nobody, nothing and nowhere is a very sensitive issue. Learners of English are advised not to use them.
二重否定や多重否定は、否定を強調するために、とくに口語英語に使用される。伝統的な文法書ではこれらを禁止している。 never, nobody, nothing, nowhere のような単語に、二重否定を用いることは非常にデリケートな問題を提起する。英語学習者は二重否定を使用しないのが望ましい。

Comment
口語英語で二重否定や多重否定を用いるときは、会話の中で自分が相手から疑われているのではないかと思うようなスチュエーションなど自分を弁護するような言い方の時に特に使ったりするのでしょうか?英語学習者は二重否定を使用しないのが望ましいけれども、一般によく使われているのはそのためでしょうか?
tora (URL) 2018/08/23 Thu 22:42 [ Edit ]
おっしゃる通り、二重否定や多重否定は、自分が相手から疑われているのではないか、相手の疑いをはらすため否定を強調するときに使われているようです。実際、「何も知らない」と言いたいとき、I know nothing. で完璧なのに、I don’t know nothing. と、つい言いたくなりますよね。
松野 (URL) 2018/08/25 Sat 11:08 [ Edit ]
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