2008.08.17 いいぞ!麻生幹事長
暴論珍説メモ(41) 日本は階級社会なのだ
田畑光永 (ジャーナリスト)

 先月の内閣改造を受けて、今月初めマスコミ各社は福田内閣の支持率を調査したが、その中で目を引いたのが、『読売』と『日経』で改造後に支持率が目立って上がったことだった。
『読売』ではなんと41.3%、『日経』が38%と他社の軒並み20%台と比べると際立って高い。
 奇妙なこともあるものだと思っていたが、ふと気がついた。これは内閣支持率というより麻生人気ではないのか、と。では麻生人気だとして、『読売』と『日経』ではだいぶ読者層も違うだろうに、なぜ共通して麻生人気なのだ?
 そうだ!『読売』では氏のマンガオタクが受けたに違いない。麻生氏は「次の総理にふさわしい人は?」といったアンケートで結構ポイントを稼ぐが、それには漫画好きというだけで、氏を押す若者がかなりいることが効いているらしい。面白いことに、『読売』にはもう一つ数字がある。8月初めの電話調査の後、同紙は面接による調査を再度実施したそうで、その結果は41.3%からガクッと落ちて内閣支持率は28.3%だったという(同紙12日付け)。改造直後の電話調査の結果はいかにも発作的な反応であったことがうかがわれる。
 それでは『日経』の数字はどう見たらいいのか? ひとまず答えは保留しよう。
 幹事長就任以来、麻生氏は「政府与党はオレがしきる」とばかりに、持ち前の独善ぶりを発揮して福田首相の鼻面を引き回している。その麻生氏が当面の景気対策として、真っ先に持ち出してきたのが、配当所得300万円までを非課税にするという案だ。「これは是非やってもらわなければならない」と、政府や党の税制調査会など眼中にない勢いだ。当の福田首相は「やれるならやったらいい」と、麻生氏の勢いに押されている。
 しかし、おのおの方、ここは頭を冷やすところだ。この案について、麻生氏は「これによって、貯蓄から株へという資金の流れを誘導して、株価を上げる」と、その効能を説明している。その限りではそういう効果はあるかもしれないが、ここでは考えるべきことが沢山ある。
 第一に、「配当300万円まで非課税」でもっとも得をするのは誰か? 言うまでもなく、300万円以上の配当所得のある人間だ。配当所得300万円ということは、すくなく見てもその一桁上の額の市場価格の株を所有していることを意味する。資産家といっていいだろう。
 第二に、この案が実行されて、貯蓄からお金が証券市場に流れ込んできて得をするのは誰か?すでに株を持っていた人間である。その人たちは保有株が値上がりして、いい気分であろう。上がったところで手放して、利益を確定することもできる。資産効果とは言いえて妙である。
 第三に、今の低金利では貯金したところでほとんど利息がつかないことに腹を立てている庶民が「配当300万円まで非課税」に誘われて株を買ったとする。恐らくその時にはすでに株価は上がっていて、高値を掴ませられる。勿論、その株が優良株なら配当は無税で手にすることはできる。取得価格と手にする配当は株によってさまざまだから、何ともいえないが、株である以上、つねにリスクがあることは当然だ。
 第四に、この案が成功して、株が上がったとして、それがどうしたというのだろう。確かに好景気なら株も上がる。しかし、株はほかの原因でも(この場合のようによそから資金が投入されても)上がる。だから、株が上がることがすなわち好景気ではない。だからこの案は景気対策にはならない。
 今、世界はアメリカのサブプライム・ローン問題が破裂して以降、アメリカの過剰消費をたのみとする各国の成長戦略は破綻し、総需要の減退に直面している。その上、行き場を失った投機資金が原油、食糧などの商品相場に流れ込んで、その値段を押し上げ(このところ若干反落ぎみだが、まだまだ高い)、経済活動全体のレベルを押し下げている。人為的な操作で株式市場の株価を上げたところで、大本の構造が改善されなければ、景気はよくなるはずがない。
 とすれば、この麻生提案はいったい何なのか。今、株を沢山持って、株式市場の低迷にやきもきしている資産家を喜ばせるだけのものではないか。ありていに言えば、株が下がって蒙った損を庶民の貯金で肩代わりさせようというペテンだ。こんなシロモノは景気対策でもなんでもない。
 麻生という人はかの吉田茂の孫であることを売り物にしているが、父親は九州の麻生財閥の当主だ。だから彼は押しも押されもしないブルジョア(なつかしい響き!)の御曹司だ。そして幹事長として自民党の采配をふるうことになって、真っ先に出してきたのは自分の出身階級の利益を守る策だ。なんと分かりやすいことか。
 そのほかにも、彼は小泉内閣時代の「国債発行は年に30兆円以内」という枠には「全然こだわらない」ことを公言している。「景気が悪くなったら、財政再建は後回しだ」というのが大義名分だ。おそらく一昨年、小泉内閣での「骨太方針」で決めた2011年度にプライマリー・バランスを均衡させるという目標など、弊履のごとく捨て去るつもりだろう。
 日本はまた国債漬けの日々にもどる。麻生幹事長はブルジョアの御曹司らしく、気前良くばらまいて人気を取ろうとするのだろう。各地の土建屋さんたちは手ぐすねを引いて、そんな彼の登壇を待ち望んでいるに違いない。
 しかし、今の日本に必要なのは、そんな後先を顧ない野放図な借金ばら撒きではなくて、世界が停滞期に入ったのに身の丈を合わせて、拡大を求めず安定を図ることだ。そして、この十数年の間に広がった格差を緩和するために、思い切った所得の再分配をはかることだ。
「蟹工船」が広く読まれるほど、日本が階級社会であること、それも底が恐ろしく深い階級社会に陥ったことが、改めて認識されつつある時に、自民党に階級性丸出しのブルジョアジーが登場してきたことは偶然ではあるまい。『読売』の読者とは別の層と思われる『日経』で、もし麻生人気が高いとしたらその意味するところは示唆的だ。
これからあらためて始まるだろう長い不況をどうくぐり抜けるか、おそらくはっきり異なる路線が我々の前に提示されるだろう。その一方が麻生路線だ。ブルジョアがあの男を押し立ててやって来るなら、庶民にも相手がはっきり分かるという効用がある。そのためにここは一つ声をかけておこう、いいぞ!麻生幹事長。
Comment
麻生氏が漫画好きというだけで支持している若者が多いだって?まさか本気で思ってるんですか?ギャグで言ってるんですよね?
ゆかり (URL) 2008/08/17 Sun 00:41 [ Edit ]
私は本気でそう思っていますよ。べつにギャグではありません。3年前の郵政選挙で、小泉首相に圧倒的勝利を与えた重要な要素の一つは、『小泉改革』でじつは弱者、敗者の立場に立たされている若者が彼のかっこよさや『刺客』騒ぎに浮かれて、彼に大量の票を投じたからではありませんか。
田畑 (URL) 2008/08/17 Sun 11:10 [ Edit ]
はじめまして。
なんだかバイアスがかかってしまうと判断が難しいですよね。

勝者、敗者というカテゴリーではなく世代感覚の共有ではないのでしょうか?

麻生氏の漫画好きが若者に受けているという側面はあると思います。

逆を言えば今の政治家は与野党含め庶民感覚と乖離している証拠だと思いますよ。


つまり、大多数の一般庶民が求めるものと与野党の示すメッセージが違いすぎるということ。
それは如実に調査の数字にあらわれてますよね。腐敗してる自民党なのに野党の支持率は一向に上がらない。

小泉氏のメッセージが受けたのは是か非かは置いておいて「共感」しやすいやり方だったからではないでしょうか。

つまり、今の与野党のやり方は
「何が言いたいのか、何がしたいのかわかりにくい。たぶん何も変わらないんだろう」

閉塞感を打ち破って欲しい人物には自分たちと近い皮膚感覚を持っていて欲しいと思うのはいつの時代も歴史も証明していると思います。
トオル (URL) 2008/08/17 Sun 18:03 [ Edit ]
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