2018.10.01  イデオロギーよりアイデンティティを望んだ南と北
          韓国通信NO572

小原 紘(個人新聞「韓国通信」発行人)

 
前回のイデオロギーよりアイデンティティ(その2)の続き
 「韓国のローソク・デモを見習おう」という声がよく聞かれる。
一昨年10月、大統領による政治の私物化が明るみになって、突如としてローソク・デモが始まったように私たち日本人は考えがちだ。しかし事実はそうではない。そこに至るまでの市民たちの不満と怒りについてはあまり知られていない。
所得格差、若者の失業問題などの貧困の問題、教育問題、公共放送の御用化問題、原発問題、米軍基地問題、市民運動・労働運動に対する政府の干渉、言論統制、農民切り捨て政策で広範な国民の不満が積もりに積もっていた。粘り強い運動が各所で取り組まれたが、日本には余り伝えられなかった。なかでも2014年のセウォル号沈没事件は発生当初こそ詳しく伝えられたが、その後の運動については余り伝えられていない。福島原発事故の責任追及の動きに「飛び火」するのを恐れ、意図的に無視されたではないかと私は「勘ぐって」きた。

<粘り強く続けられた署名運動>
イデオロギーよりアイデンティティを望んだ南と北 イデオロギーよりアイデンティティを望んだ南と北
事件発生後、何回か韓国を訪れ驚いたこと。ソウルはもちろん地方都市や観光地などで「真相解明」と「責任者の処分」を求める署名活動が展開されているのを度々目にした。追悼と連帯を示すイェローリボンを多くの韓国人がつけていた。署名運動の中心は若者たち。同年代の高校生が遭難したので当然といえば当然だった。ある韓国人が語ってくれた。「それまで政治に無関心だった若者たちがセウォル号事件で深く傷つき社会的に目覚めた」。彼らは被害者家族たちの切実な訴えを心に受けとめ署名運動の中心になった。<写真左/道峰山の登山口でもリボンが/右/署名に集まる若者たち>
政府は運動を「北朝鮮にそそのかされたもの」とイデオロギー問題にすり替えたため逆効果になった。生命の問題に陳腐なイデオロギーを持ち出したため若者たちは反感を強めて行った。息の長い署名運動が爆発的なローソク・デモの背景になったと評価する人もいる。ローソク・デモから学ぶとしたら、本気で行われた署名運動なのかもしれない。

イデオロギーよりアイデンティティ(その3)
今年三回目の南北首脳会談がピョンヤンで開かれた。
「北朝鮮の真の狙いは…」「完全な非核化の道は見えていない」「文大統領は前のめりすぎる」「あとはトランプ大統領次第」などという「客観報道」が日本では溢れた。
体制(イデオロギー)の違いを乗り越え、民族のアイデンティティを回復しようとする努力にこの程度の評価である。拉致被害国という意識しか持ちえない首相の北朝鮮観に通じるものがある。トランプ大統領ができたのだから「僕だって」と首相は思っているようだが、「日朝平壌宣言」を実質的に反故にして北の脅威を煽ってきた首相に、会談をする資格があるとは思えない。朝鮮半島の平和の実現はわが国がやり残した戦後処理のひとつ。半島の平和と非核化の実現を応援するのは日本が生まれ変わるチャンスでもある。

<夢を持って生きること>
翁長前沖縄県知事の「イデオロギーよりアイデンティティ」を手掛かりに原発と南北会談について思いつくままを書いた。「イデオロギー」「アイデンティティ」という言葉の難解さに気づいた。難しい議論は別にして、憲法解釈から始まり、戦争法、共謀罪の制定、憲法改悪の日程にまで突き進んできた安倍政権とどう対抗すべきか考えた。どうしたら、したい放題の安倍政権に立ち向かうことができるのか。
最近見た韓国ドラマ『師任堂(サイムダン)』のなかで、王がイ・ヨンエ扮する師任堂に「何が国に求められていると思うか」と尋ねるシーンある。彼女は「庶民が夢を持って生きられること」と答えた。
師任堂は李朝時代に実在した女性で、教育者としてまた画家として高い評価の人物だ。韓国紙幣の最高紙幣5万ウォン札に登場する。このドラマがローソク・デモの最中に放映されたことは興味深い。
夢を持って生きたいという庶民の思いを阻んだのは朴槿恵だった。それは安倍首相にも言えることではないか。「公平」「公正」を主張した石破候補を自民党議員は粉砕した。総裁選は改憲論者同士の争いで、自民党を露出させる「ショー」と見なしていたが、明らかに公平・公正ではない安倍氏を多数の自民党議員たちが支持したことに驚いた。子どもたちを「絶望列車」から「希望の列車」へ乗り換えさせてやるのが私たち大人の仕事だ。

<新聞から> 産経新聞9/14
北海道地震による停電に言及して、経済同友会の小林代表幹事が「動かせる原発は、やせ我慢しないで動かした方がいい」と発言したことが写真入りで報じられた。
同日、これも産経新聞の記事。東京電力の社員たちが(原発の)風評を払拭するために、品川駅頭で福島県産の販売を行ったと美談仕立で紹介。さらに「東電は原発の敷地内にためた処理水について海洋放出も含む処分の判断を迫られており、イベントを通じて県産品の信頼回復を支援する姿をアピールした」(東電の販売責任者)と、問題となっているトリチウムの放流を応援するような口ぶりだ。
ウソの国会答弁、口裏合わせ、公文書の書き換え改ざんが露見しても平然と居直り、批判を許さない。その傲慢さが財界にも東京電力にも乗りうったかのようだ。地震と停電に便乗して「原発再稼働」とはあきれた話だ。泊原発直下の地震でなく、稼働中でなくてホッとしている庶民からは信じがたい。
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